胎児の頃より夢を見ていた。
倒すべき悪も、無意識に。
夢の中でみていた悪を、私は自分に塗った。
仏像に金色を塗って荘厳さを増すように、悪にも装束が必要だった。悪である必要があったのだ。
夢の中で、微睡のように母がいたことを感じた。私を腹に孕んでいた母ではない。もっと大きな、カラスの舞う谷の奥深くに、母はいた。
母は私に言った。太陽を見るな、と。
私は闇の中で答えた。太陽なんてない、何もかもが見えない。
その後、母は言った、陽の光を信じてはいけない。貴方の見えるものは全てまやかしよ、と。
だが、私は太陽を見た。黒く光る灼熱の陽は、私の目を焼き、皮膚を焼いた。
陽は驚くほどのスピードで私を包み込み、やがて私と一つになった。太陽が私になったのではない。私が太陽になった。谷の奥深くから飛び立つとき、私は火を放った。
目の前に広がる紅蓮の炎。かつて千年の栄華を誇った都だった。焔は広がり、全てを消し去る。
「燃えろ。天を焼け。」
開戦の祝い火に相応しい、豪奢な焔だった。