久しぶりの帰郷だった。



 イーストン・コバックスは、この町に十年近く戻っていなかった。



 あえて戻らない理由を考えても、分からなかった。あの忌まわしい記憶が原因か、それとも、残してきたものを気にしていたことが認めたくなかったからなのか。この町における全ての記憶が、遠くに感じるときもあれば、つい最近のことのように感じる。



 年を取るたびに未来への希望を失っていった。だが、記憶は不思議と、忌まわしい記憶であっても、時折輝いて見えることがある。妻を失った記憶も、あの少女を捨てたことも、微睡の中で一緒くたになって、自分が自分でいられるような気がした。



 コバックスは路地を歩いていた。丁度この付近でその少女と出会った。



 風雨に晒されボサボサになった髪、暴行を受けて腫れた顔、肌には糞尿に塗れたボロを一枚纏っていた。少女の眼は今でも覚えている。無機質で突き刺さるような目線、それはコバックスに死を連想させた。



 命のやり取りを長年続けてきたが、爪も牙も持たない相手、それも一人の少女に死を感じ、思わず冷や汗をかかされた。



 少女を拾い、住まいに連れて帰り、シャワーで汗や身体についた糞尿を洗い落としてやった。子供用の服はなかった為、仕方がなく死んだ妻のシャツとジーパンを着せ、傷の手当をした。



 温めたスープとパンを与えると、彼女は行儀よく食べた。元は育ちがよいのかもしれない、とコバックスは思った。



 少女に名前を聞いたが、俯いたまま最初は何も答えなかった。もう一度聞くと、彼女はコバックスの眼を見て言った。



「私の名前は―」