Neetel Inside 文芸新都
表紙

邪気眼使い集まれw
初戦

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 外に出て自らの邪気眼を試すことを終え、だいたいの事が分かった。
 射程範囲はだいたい6~7メートルほどで、速度は俺の近くならば早いが、遠くなれば遅くなる。

 基本的な攻撃手段は、俺が通学中に妄想していた『第三の手』。
 この第三の手が触ったモノは俺も触ったように感じる事ができ、ある程度の細かい操作も可能。
 獲物を捕獲し、吸収する特性を持っているが……実証結果がない限り、深くは分からないままだ。
 俺の邪気眼の特性は他にもまだまだあるだろうが、今のところ未知数といったところか。
 ちなみにかめ○め波の真似をした時、どうやらこいつはか○はめ派の代わりに飛び出してくれたらしい。
 どうやらイメージを忠実に再現しようとする、俺の想像の形がコイツであるようだ。
 なかなか可愛い所もあるものだと、可笑しく思えた。


 そういえば邪気眼の影響か、認識が変わった気がする。
 俺は本来なら、道路で轢かれた猫の死体を見ただけでも軽く貧血を起こすような軟弱者だ。
 だが今ではこんな怪物とも汚物とも判断つかないようなモノが、異常に愛らしく見える。
 一種の親馬鹿的なことで、たぶんこいつ限定のような気もするが。
 しかし、これは自分の力を使う上で大きなプラスになっている気がした。
 何故なら、自分の使い魔のようなモノに嫌悪感を抱いているようでは、その力を上手く使えそうにないからだ。

「ん? それなら……」
 折角だから、愛称をつけてしまおうと思い至る。
 何時までも怪物とか歪なんて呼んでいては、あんまりであるしな。
 だが、良い名前が思いつかないモノだから困る。
「お前の名前、どうしよっか?」
 黒い液状に尋ねてみる。
 しかし当然の如く、返答などあるはずもなし。
 黒いスライムのような塊は、ただただ床を這いずりまわっていた。
「……まぁ、いっか」
 とりあえず名前は今のところ保留にしておこう。
 どうでも良い事なのだが、こいつを見ていると水筒の中に生首入れられそうだなっと思った。
 アクアネックレスって名前が似合うかもしれないが、物騒すぎる名前だから止めておこう。


 外での訓練にひと段落を入れ、俺は家へと戻った。
 時計の針は十時を回り、適当にパソコンで面白そうなブログでも観て暇を潰そうとした。
 慣れた手つきでマウスを操作し、デスクトップ画面からインターネットブラウザを立ち上げると、表示された画面に驚く。
「これは、何だ?」
 そこに表示されたHPは、邪気眼の事を詳しく説明していたHPだった。
 ツールでインターネットオプションを選んでHPを変えようとするも、一切受け付けない。
 毎度、こんなHPが表示されるのはなんだか不気味だな。
 これ以外に大した悪影響が無いだけ、ウィルスよりマシであるが。

「……これって、俺の事か?」
 ふとHPに表示される文字に、目が止まる。
 そこには確かに、対戦カード『侵略邪気眼』対『多岐眼』と書かれていた。
 どうも俺は、誰かと戦うことになっているらしい。
「『邪気』って別につける必要なかったのか」
 能力の後に、眼とつければ良いのが定説だとこの時初めて知る。
 今更そんなどうでも良さそうな事に気づくが、見るべきところはソコではない。

「開催は、今日!? 唐突過ぎるだろ」
 しかもそれだけでは無い、開始時刻午後十時三十分――まで後二分しかない。
 さらに指定の場所は――何故か俺の家の住所が記載されていた。
「んな、馬鹿な」
 その事実に、ただただ唖然としてしまう。
 何故と言う言葉を重ねたなら、一つや二つの疑問では終わらない。
 それよりも今は優先的に考える事があった。

 その場を立ち上がり、意味もなく辺りを見回してしまう俺。
「ここに、敵が来るってことか」
 主催者側が戦う場所を絞るというのは頷ける。
 お互いがお互いを潰し易いように、という計らいだろう。
 糞、忌々しい計らいだ。
 よりにもよって住所を書くなんて可笑しい話じゃないだろうか?
 しかし、今はそれも後回しにした方が良い。
「早く準備しないといけないな」
 来るならば、迎撃の準備を整えなければならない。
 否、敵は必ず来てくれるだろう。
 何せこんな素晴らしい力を、直に敵という恰好の相手に試せるんだから。
 そして、そうでなくても欲しいはずだ。
 この、邪気眼能力――現実を塗りつぶせる力を。

 今は邪気眼を持つ者に対してのみ有効なこの力も。
 いずれは一般人に対して、現実で活用する事が可能になるらしい。
 つまり、絶対的な力が手に入るのだ。
 俺ならば……欲しい。
 そして相手も俺と似たような奴らならば、欲しく無い、理由が無い。
 とすると、相手は必ず自分の有利になるように行動してくるはずだ。

「出ないと」
 何より、後一分を切った現在、あれこれ考えている暇なんて無い事に気づく。
 第一、いつだって俺は自分の感性が赴くままに行動してきた。
 今更頭を使うというのは、似合わないと思える。
「ま、きっとなんとかなるだろ」
 楽観的な魔法の呪文たる言葉を暗示にすると、着たままだった制服で外に飛び出す。
 空元気で人の消えた地元の道路を突っ切っていく。
 怪しい人影は見当たらない、敵は何処だ?
 キョロキョロと辺りを見渡し、対戦を相手を探す。

「オイお前!」
 すると少し開けた、ちょっとした公園の前。
「誰を、探しているんだ?」
 電灯の明かりの下に、そいつは居た。

       

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Neetsha