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短編集『矛盾の町』
サトルの祈り

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 テレビをつけて、スマホでネットニュースを見る。
 飛び込んでくるのは、震災、航空機事故、大規模火災、等々。年明けだというのに、おぞましいニュースばかりだ。おまけに知っている芸能人も年末年始に何人か病気で亡くなってしまった。
 自分が知っている年末年始というのは、こんなに物騒ではなかったはずだ。どうでもいい特番にまみれ、大してめでたくもない新年をカウントダウンと共に祝い、性懲りもなく雑煮を食べ、何となくダラダラする……それが年末年始だと思っていたのだが、どうやら今年はそうはいかないらしい。


 今日こそは平穏に過ごせるだろうと思っていたら、地震が来た。といっても自分の住んでいる地域はごく小さな揺れでしかなかったのだが、やはり地震は怖い。身構えてしまう。
「今年は厄払いに行った方がいいのかなぁ」
 自分は、いや、サトルは、柄にもなくそう呟いた。
 サトルは無神論者なのだ。神の存在も信じなければ、厄の存在も信じない。しかしそんなサトルでも、神に救いを求めてしまいそうになっていた。
 今、この瞬間、幸福になれるという壺を差し出されたら、数十万円の値段がつけられていても買ってしまいそうだ。それくらい、サトルは疲弊していたのだ。


 数十分悩んだ挙句、サトルは近くの神社にお参りに行くことにした。
 賽銭に10円玉を投げ入れ、鈴を揺らした。
「もうこれ以上悪いことが起こりませんように」
 サトルはそう祈った。
 祈ることしかできなかった。
 サトルは言霊の存在さえ信じていなかったが、この時ばかりは言葉に宿る力を信じた。
 祈りには、何の力もない。
 神様なんていないし、祈りの力がたくさん集まったからといって何かが起きるわけもない。手を合わせ、目を瞑り、内々に秘めたる想いを偶像に吐露する。祈るとは、そういう行為なのだ。人間が脳内から発する電気信号は物理現象に介することはできないのだ。祈ったところでどうにもならない。


 しかし、それでも祈らざるをえないのだ。神が救いの道を示してくれると、そう信じるほかないのだ。
 サトルは、一礼して神社を後にした。
 祈ることしかできなかった。


       

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