絶滅危惧種に指定された俺が、動物園みたいな透明の檻っぽい空間の中に入れられて、若い女性たちから全裸を見られまくるっていう想像をした。
今日は日曜日。空は良く晴れていた。
想像の中の俺は「ゴロゴロヒナタボッコダイスキピテクス」という種族名で、絶滅危惧種なので女の子たちから「かわいそう…きっと寂しいよね」と優しく甘やかな同情心を向けられながら興味津々で眺められてる。
もちろんここで勃起などするのは素人のやることだ。
俺は檻の内側でデカめのバナナの葉っぱみたいなのを手でふにふに弄びながら、たまに両足を組みなおして注目を集める。
女性たちは俺が足を組みなおすときに、やや首を傾けながら覗き込むような姿勢をとっている。これぞ俺の勝利。見るのではなく見られたものが完全優位なのだ。
「ごろごろごろ…」
喉を鳴らしてやると「きゃ~かわいい~」という黄色い歓声がとんでくる。
俺は絶滅危惧種なのでそのあたりには居ないし、こうやって入館料を払ってわざわざ俺を見にやってくる女性たちがいるのは当然といえば当然のことだが、気分がいい。
ふんぞり返って、鼻を鳴らす。
そう、想像の中の俺はパンダよりも愛され興味を持たれていた。
うららかな陽光が差し込む自室。
俺の想像はさらに加速していく。
檻の中にもう一人の俺が加入した。
絶滅危惧種の俺だが繁殖に成功したのだ。
名前は「オレオ」
俺より2歳若い俺だ。
絶滅危惧種であるためやや神経質だが、そいつも女性たちから「かわいい」「こっち向いて」と持て囃されて満更でもない様子だった。
「俺らって、注目を浴びているよな」
「そうだな」
俺とオレオはすぐに打ち解けた。
そして次第に俺は、自分が俺なのかオレオなのかわからなくなっていった。
なにせ檻の中で二人きり。
服も着ないで日がな一日のんびりと日向ぼっこをして過ごす毎日だ。
だんだんと鏡を見ているようで、俺がオレオを見ているのかオレオが俺を見ているのかあやふやになってくる。
「思考実験をしてみないか?俺」
「ああ、やろう」
「仮にこの檻の外の世界がすべて消失して、俺とお前だけになったとき…俺たちは互いを認識し続けられると思うか?」
「まぁ、いけるんじゃないか?少なくとも対話が成立している時点で自分と他者のふたつの存在がいるって意識はできてるんだし」
「そうか…じゃあ質問を変えよう。
俺とお前が今この瞬間にたしかに存在しているとお前はなぜ信じられる?その根拠は?」
「うーーーん。むずかしいなぁ」
瞳に映るもう一人の俺が、眼前で霞んでいく。
自室で想像に耽っていた俺は
はたしてこの檻の中にいる俺と何が違うのだろう??
「たけしーー!晩御飯できたわよー!おりてらっしゃい!」
階下でカーちゃんの呼ぶ声が聞こえる。
「わかったー!今いくよー!!」
俺の部屋のカレンダーは3月21日から1日たりとも進んでいない。
俺は、箱庭で管理された絶滅危惧種、
今はカーちゃんが呼ぶから、階下へ降りる。