Neetel Inside 文芸新都
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SMASHING RED FRUITS
第八話「パーティ・ライン」

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 ハイオクの家は住宅地の一角にあった。一階部分がガレージになった三階建だ。表札には「灰原」とあった。
「ハイオクって本名ハイバラって言うの」ガクショクが言うと本人が、
「ああ、申し遅れたがオレのフルネームはハイバラオクヒロ。略してハイオク、それに加えてオレが廃墟マニアだというのと……あと原付にハイオク入れてるから。そんなんで気づいたらそう呼ばれていたな」そう説明した。「まあ今夜はゆっくりしてくれ。じきにガラナたちも来るだろ」
 ガレージに招き入れられて見ると、ソファやテレビが持ち込まれほとんど私室といった感じだった。
「SGの部屋よりずっときれいだな」
「確かにな、だがオレの部屋はきれいにする必要がないからしていないだけで、いざというときはちゃんと片付くんだ、そこを分かってくれ赤髪」
「その『いざというとき』は永遠に来ないんじゃねえのか……」
 一同はソファやパイプ椅子、あるいは地べたに腰を下ろす。マチは洗濯機の上に置いてあったポテトチップスの袋を乱暴に開け中身を辺りに散らばした。「うひゃああ! やっちまたぜ! アハハハ」
「三秒ルールだマチ、早く拾え!」とハイオクが叫んだ。
「前から思ってたけど、そのルール意味あるの?」とクロノ。
「ねえよ、気休めだろ。三秒後と三秒前で何か違いあるってのかよ」
「それがあるんだよ赤髪君!」マチがポテトチップスを拾いながら言う。「説明してやる、三秒間なら食べ物は皮膜に覆われてるから、汚れないんだ! 人間の『食いたい』という意思がバリアとなって守るんだぜ」などと彼女は適当な説明をする。
「どうでもいいけどマチさん、それ食べるの?」とガクショクが聞くと、
「食うに決まってんだろ地味少年! ただし洗う!」マチはガクショクを押しのけるとガレージの隅の流しでポテトチップスを水洗いし始めた。
「なんつー人だ」
「ああ……アイツとは小学校からの付き合いだがあの性格はもう直らないだろうな、三つ子の魂百まで……。まあ気にするな、ボリューム高めのラジオがあると思えばいい」
 ハイオクは大皿にシリアルを開け、コーラをコップに注いだ。一同はそれをむしゃむしゃと食らう。ハイオクは他にも、チョコレートケーキ、冷めたピザ、ビスケット、コンビニのおにぎり、スモークチーズなどいろいろなものをテーブルに置く。マチは洗ったチップスを食べつくすとこちらの攻略に移り始めた。
「なーハイオク、フルーツはねーの?」とピザをむしゃむしゃと食べながら言うマチ。
「はいはい、フルーツな、今出すよ」
 ハイオクは冷蔵庫からスイカを取り出しマチの目の前に置いた。
「よっし。で、ナイフは?」
「それくらい自分で探せよ」
「分かったよ、さすがのアタシも皮ごとは食えねーからね」
 マチがごそごそとガレージ中を引っ掻き回し始めた。
「さてちょっと静かになったところでスマッシング・レッド・フルーツの皆、質問がある」
 と言ってハイオクは、紙にペンで何か絵を描いた。
 ハートに片翼がついているマークだった。
「これに見覚えないか」
「あれ、これどっかで」ガクショクがSGを見る。彼も頷いて、
「見たな。確かレール下のトンネルに落書きされていた」
「そうか。実はな、この街で今、あるうわさが流行っている。それは『天使』に会えるという話だ」
「ああ、そうらしいな。こいつもさ」赤髪はクロノを指差して言う。「天使を呼ぶために川原でキーボード弾いてたんだよ」
「うん。呼べば答えてくれるんだよ」
「ああ。『音楽で天使を呼べる』って話だ。だから、中には天使と交信するのを目的にバンドやってるやつらがいるんだ。うちのドラマーもちょっと興味あるみたいだったな。会うと願い事を叶えてくれるとかいう話もあるしな……。
 まあそれはいいんだが、問題はこいつだ」ハイオクはマークを指す。「これはあるバンドのマークだ。『天使を呼ぶために結成された』バンドらしい。あまり表立った活動はしてない、まあアングラ系らしいな、だからオレも詳しくは知らないんだが――こいつらの信者、グルーピーが、いろいろやってるって話だ」
「いろいろって?」
「やんちゃな事さ。まず落書き。ライブでは客といろいろ揉め事起こしたり、ケンカだな。天使を呼ぶための儀式とか言っていろんなとこに不法侵入したり、人をぶん殴ったり。集団でハメ外したりしてるそうだ。まあオレが言いたいのは、そいつらには気をつけろってことだな」
「なるほど……。だけど、そんなに天使に会いたいのかな?」
 ガクショクが言った。そもそも、本当に天使がいるかどうかすら怪しいのだ。
「会いたい」クロノが独り言のように言う。「結局、日常から離れてるものに触れたい。それだけだよ。音楽やる理由もそれなんじゃないかな。ステージの上でスポットライト浴びれば、ちょっとの間嫌なこと忘れられるし」
「そっか、そういうことなんだ。分かる気がするよ」ガクショクが頷いた。
「おいハイオク! ナイフがねえぞ! どうやってスイカ食うんだよ! 腐るまでほっとくわけ!?」
 マチがついに痺れをきらして叫んだ。ハイオクは面倒くさそうに、
「ないってことはないだろ、どっかにある」
「ねえよー!」
「ああ分かった、オレも探してやるから」
 と、彼が腰を上げたとき、
「どーも、こんばんは」と、外から声がした。
「ん? 誰だ?」
 ハイオクが問いかけると相手は、
「マドンナ・ブリギッテのファンです、よかったら中に入れてもらえないですか」
「ああ、いいよ、ちょっと騒がしいやついるけど」
 と言ってハイオクが入り口を開けると、顔にピアスをいくつも開けた、細身の少年が入ってきた。手には茶色いジャズ・ベースをむき出しのまま持っている。
「いやー、どうも。さっそくですが」
 と言うなりいきなりベースを振り回す。ハイオクは床に伏せてそれをかわした。「うわっ! なんだ!?」
「やはり! 人間の頭蓋骨を叩くことこそが最も美しく緻密な低音を発する手段、そうですよねハイオクさんンンンッ! さあ僕に殴られろ! あなたもベーシストならいい音を出すことが義務だろうォォォッ天使を呼ぶためにッ」などと言いながら少年、ぶんぶんベースを振る。
「言ってる側から来やがった!? クッ、気をつけろとか言っときながらなんてザマだ、オレ。不用意に開けちまってこんなやつ入れちまうとは」
 とりあえず床をゴロゴロ転がって退避するハイオク。少年はそこら辺の本棚や洗濯機をベースで叩いている。
「やめな、少年、人ン家でやかましくガシャガシャ鳴らすんじゃねえよ! メシがまずくなんだろうが」マチが少年の前に躍り出て、彼をにらみながらそう言った。「やるってんならこのアタシ、天然原色不健康体・紅恋のマチさまが相手してやるよ、かかって来な」
 その手に握られているのは、ハイオクのバイオリン・ベースだ。
「おいマチ! 人のベースを武器にするな、自分の使えよ!」床の上でハイオクが叫ぶが、
「いっぺんコイツを使ってみたかったのよ、さあいくぜ少年」
「いいでしょうマチさん、あなたの頭蓋でヘヴィイなサウンド、空の上まで響かせてやりますよ」
 少年とマチがにやりと笑い、勝負の幕を開けた。

       

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