Neetel Inside 文芸新都
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恋愛小説集「銀魂vs小島信夫(最終回)」
「ホリミヤvs桃太郎」

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 ディスられは新次元へ。

 子どもたちは夏休みに入った。
「パパ、男子生徒役やって」と娘からの指令を受けた。
「私が男子生徒役と女子生徒役やるから、パパがそれぞれに対する態度の違いを演じてみて」

娘演じる男子生徒がよそ見しながら歩いていて私とぶつかる。
娘「あ、ごめん」
私「お、おお、おお、おおおお(ぶつかった手を自分の尻で拭く)」
息子「なんでケツで手拭くねん!」

娘演じる女子生徒がよそ見しながら歩いていて私とぶつかる。
娘「あ、ごめーん」
私「だだだだだ、だいじょじょ、だいじょうぶうぶううう、すすす、すきです、結婚してください」
娘が逃げ出す。息子「なんで結婚やねん!」

 結局誰と関わっても私は自分の尻で手を拭いている。

 本当にこんな感じだったわけではない。そもそも関わってないのだから。

 恋愛小説、始めない。

*

 食事中には動画配信サービス「Hulu」を再生したタブレットをテレビに繋げて、子どもたちが観たいアニメなどを観ることにしている。私の退院後に定着した習慣である。これまで「ドラゴンボール超」「新あたしンち」「貝社員」「ウサビッチ」「マッシュル」「おいしい給食」「おいしい給食劇場版」「あたしンち劇場版」「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」などを観てきた。息子と私だけの時は「ウルトラマンジード」を観たり、娘が一人タブレットでルパン三世の劇場版を観ていることもある。

 ショートギャグアニメ「貝社員」の二週目が終わった後、次に何を観るかを娘と相談していた。
「ジョジョは?」
「うちとケンちゃんグロい系駄目」
「鬼滅観なくなったもんな。ワンピースとかナルトの王道系」
「長いし、うちあんま観たくない」
「銀魂とかはケンちゃんには分かりにくいし。ココ前観てたホリミヤは?」
「それで」

「ホリミヤ」の原作であるWEB漫画「堀さんと宮村くん」の連載開始は2007年である。その頃の私は、時々WEB漫画を探して読んでいた。当時から読み続けているのはもはやこの作品だけになっている。WEB漫画発掘の流れで、多分「オーシャンまなぶ」から新都社に行き着いたのだと思う。

 暗くてあまり人と関わってこなかった宮村。中学終盤にようやく友人と呼べる相手ができる。しかし小学校時代から長く周囲から疎まれていた記憶が彼を苦しめている。中学時代に自分でピアスの穴を開けて、今では密かに身体にタトゥーも入れている。

 仕事で忙しく家に帰ってくるのが遅い母の代わりに、堀は歳の離れた弟の世話をしている。父親もふらふらとして家に寄り付かない。外で遊んでいた弟が犬にびっくりして転んで鼻血を出したのを、偶然通りかかった宮村が助けて堀の家に送り届ける。学校での眼鏡で髪を下ろした宮村の姿と異なり、ピアスのついた耳を晒して眼鏡を外している宮村は、危なっかしい雰囲気の男であり、最初堀は宮村だと気付かなかった。宮村は学校と違い家庭的な雰囲気の堀に気付いていた。

 弟の遊び相手として堀家に通うようになった宮村と堀は惹かれ合うようになり、学校でも公然と付き合い始める。その他多数の人物の、それぞれの心の揺れ動きやら、隠し持っているいろいろな本性やらを描き続けているWEB漫画であり、本編終了後も番外編が長く続いている。作者HEROによる他の連載漫画、短編漫画もあり、若い作家と幽霊の同居生活を描いた「あことバンビ」など、私の好みである。

 娘が「ホリミヤ」に行き着いたのは、昨年のアニメシーズン2あたりのことだ。私はWEB漫画の原作以外は触れていないので、別の作画者によるコミック版や、アニメ化のことなどは当時知らなかった。娘が生まれる五年前に初めて触れたWEB漫画と、娘の今とが繋がったことに不思議な感慨を覚えたものだ。

 高校生が主人公のラブコメだから、息子が嫌がって途中で視聴が止まるかと思ったら、今のところシーズン1の第9話まで進んでいる。OPが始まると息子が歌いもする。堀と宮村が手を繋ぐシーンで「頑張れ!」と応援していた。プリキュアじゃないんだから。

 割と最初から夫婦っぽい雰囲気となる堀と宮村のような恋愛関係なら、私も恋愛拒否反応は出ない。というより、自サイトでのWEB漫画という形態を活用した原作の、四コマ形式でありながらストーリーが縦に進んでいく形式、各キャラクターの内面を掘り下げていく形が好みなのだと思う。

 視聴後に娘からの「パパにこんな青春時代あった?」という問いに「ねえよ」と答えるまでがホリミヤ視聴のセットとなっている。娘は今度の水曜日に近所のイオンに彼氏とお昼を食べに行くという、デートの約束をずっと楽しみにしている。

*

 息子とお風呂に入る際に「おじいさんとおばあさんやって」とねだられる。
「昔々あるところにおじいさんとおばさんが~」で始まる創作童話の提供を求められる。しかしある時から一貫して「桃太郎」のバリエーションになってから、即興創作が随分楽になった。最近では定型化して、しかも話の各所に「息子に考えさせるところ」を設けている。こんな具合に。

「昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました。おばあさんは川へ洗濯に。おじいさんは何をしていましたか?」
「山で一生懸命仕事をサボってた!」
「おじいさんは全力で仕事をサボっていました。
『全力を出してワシは仕事をサボる! 何もやらんためなら全てを投げ出しても構わん! うぉーーーー!!! 地球のみんな、ワシに力を分けてくれ!』
 一方その頃、川上からどんぶらこどんぶらこと流れてくる桃の大群を、おばあさんは片手でわしづかみにして集めていました。全ての桃を担いで家に帰ったおばあさんは、全力で仕事をサボって燃え尽きていたおじいさんを壁にぶっ飛ばしました。そしてさっそく桃を素手で割ってみました。すると桃の中から何が出てきましたか?」
「桃!」
「また桃が出てきたので、パッカーン! と割りました。すると中からそれはそれはかわいらしい」
「桃!」
「桃が出てきたので、おばあさんはまたパッカーン! と割りました。今度こそそれはもうとっても元気な」
「桃!」
「桃が出てきたので、おばあさんはパッカーン!」
「桃!」
「パッカーン!」
「桃!」
「パッカーン!」
「桃!」
「パッカーン!」
「桃太郎!」
「パッカーン!」

 勢いで割ってしまったので桃太郎の傷を治す。その後おじいさんをぼこぼこにしながら桃太郎は成長していき、やがて鬼ヶ島に鬼退治とかセルヶ島にセル退治とかおじいさんヶ島におじいさん退治に行ったりする。強くなりすぎているので仲間はいらないパターン、犬は可愛いから犬だけ仲間にするパターン、キジではなく宇宙怪獣ゲランダが出てくるがスルーするパターンなどがある。鬼のボスがヤムチャという場合もある。

 私はここに恋愛要素を絡めてみてはどうだろう、と考える。しかしまだ息子は恋愛を自分と関係のあるものとは捉えてなさそうだ。クラスで仲の良い女子はいるのに、好きな人いる? という娘の問いにはいないと答えている。「今日はカナちゃんと遊ぶ夢を見た」とか可愛い報告もしてくれるのに。

*

 本当はこんな青春を送っていたんだ、と、娘には話せないことをここに記す。
 
 高校一年生の時、引っ越しを機に私は読書にのめりこむようになる。最寄り駅の近くにあった図書館に通い詰めるようになった。次第に私は書架に並ぶ本だけではなく、蔵書検索をして調べなければ借りられない本を読むようになった。まだパソコンによる検索機が設置されていない時代、アナログな蔵書カードを持って、司書の方に渡して、蔵書から持ってきてもらった。次第に私は一人の司書さんに惹かれるようになっていく。眼鏡をかけた知的な女性であった。私はある日蔵書カードに一枚の紙を添えて彼女に渡した。高二の秋のことだった。
「本が好きです」
 本当は、彼女のことを好きだと書きたかった。だけど直接的な言葉にはできなかった。だから、本音でもあり、「本(を運んでくるあなたのことが)が好きです」という想いを隠したものでもあった。頼んだ書籍と共に返ってきたメモには「私も」と小さく添えられていた。

 その後「この本に似た雰囲気のお勧め本はありますか?」と、直接口に出せばいいようなことまで、同じようにメモにして渡した。返答にあった本をすぐに私は読んだ。もちろん彼女に取ってきてもらって。

 いつまでも直接的な言葉を書き出せないままに時は過ぎた。
 そんなある日、図書館内で暴れ出した男がいた。
「また落ちた! またまた落ちた! 何年だ! 二十年になる!」
 どうやら小説の新人賞に落ち続けて自棄になっているようだった。男は書架から本を引っ張り出しては投げ、時には破り、暴れ続けた。私は大の男が狂う瞬間というのを、初めて見た。図書館員たちが慌てて駆けつけてきた。私が惹かれていた彼女の姿もあった。

 屈強な一人の司書が男を押さえようとしたが、すごい力で吹っ飛ばされた。暴走した男性は巨大化を始め、図書館の屋根を突き破った。瓦礫が落ちてくる瞬間、私は例の女性司書をかばうために走り出した。しかし落下してきた天井の一部は私の背中には当たらなかった。彼女が拳の一突きで打ち砕いたのだ。破れた服から見えた彼女の腕は機械だった。
「サイボーグ司書なの」と彼女は言った。そして「ちょっと倒してくる」の一言と同時に彼女も巨大化した。図書館はさらに崩れて大変なことになった。

 そんなこんなで最終的にドストエフスキービームとトルストイアタックで彼女は怪獣となった男を倒した。街の復興に時間はかかったが、再建された図書館で彼女は再び司書として働いている。検索端末も設置され、多数のサイボーグ司書が働くようになったその図書館では、蔵書カードを手渡す必要もなくなったため、もう彼女にメモを渡すことは出来なかった。

 その代わり、彼女が自分の腹に転送された書籍を取り出す光景に、私は少し興奮してしまうようになってしまった。

(了)

     


       

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