図書室の金魚  (2008/06/16)

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強い日差しの窓の外は蝉しぐれ、そんな午後だった。


夏休み期間の図書室はいつもより人が少なく、今日は僕以外には図書委員と金魚だけ。室内の窓は開かれて、さわやかな風とともに流れてくる蝉の声でほどよくにぎわっていた。

読書感想文のために何冊か流し読みしているが、これといって心に響く作品には出会えていなかった。そもそも課題が書き上がればそれでいいのであって、そこまで真剣に選ばなくてもいいのだが、そうわかっていてもより良いものを追及してしまうのだった。

そしてもう一つの理由は。手元の小説から視線をあげる。貸出カウンターの向こうで作業している彼女は、金魚鉢の照り返しを受けてきらきら輝いて見えた。穏やかな表情で整理をしている。ガラス窓の多い図書室で本に囲まれて、ゆったりと静かにいる。きっと好きなんだろうなと思う。

ちゃぷん。

そろそろ閉館なので席を立つ。流し読みした中から1冊を選んでカウンターに歩み寄った。事務的ないつもの貸し出しのやりとりの終わりに、彼女はこうきいてきた。
「読書感想文の本、決まったの?」
思いがけない質問に僕は赤面し、嬉しくなりつつもうまく返せずに一言二言の返事をするのがやっとだった。
「いや、まだ……。」
「そっか。じゃあまたね。」
彼女は涼しげな笑顔で本を渡してくれた。僕は耳が熱くなるのを感じた。まだ決まらなくていいかなと思った。また、来れるから。
sage