「山本君、日誌ちょうだい」
「あ、はい」
突然声をかけられて内心バックバクだったが、
動揺を悟られない様、顔をヒクヒクとさせながら笑顔を作る。
ぎこちない仕草で半年以上使われて黒ずんだ日誌を片手で渡した。
少し日誌の持ち方が不自然で恥ずかしかったが、
今直せばさらに恥ずかしそうだったのでそのままにする。
彼女も少し笑みを見せながら受け取った。
「今日の天気書いてないよー」
「………あ、書いといて」
「しょうがないなー」
「ありがと」
日誌に今日の天気を書き終えて貰うのを見終えると、
お世辞にも素敵とは言えないぎこちない笑顔を披露した。
足早に教室を後にし、マラソンランナーの様に胸から校門を出て、
いつもの帰り道を少し勢いを強くして帰ってみる。
タイマーズのJOKEを大声で懸命に歌ってみる。
後ろから追いついた見知らぬおっさんに聞かれて恥ずかしかった。
くそ。
「一郎はあの真理とかいう子が好きなの?」
宿題をやっているとティンコが話しかけてきた。
ズボンもパンツも自分の部屋とは言え脱ぎっぱなしだが、
普段、家族は俺の部屋を訪れないので別に問題は無かった。
多分、この話し声も聞こえないだろうし、聞こえてもそうだろう。
………真理と言えば日誌の件の子だ。
恐らく俺が動揺してたのが、こいつにも伝わったんだろう。
「別に」
俺は正直に答えた。そう、好きという訳では無かったのだ。
あの時は、ただ女に不慣れな俺が格好悪かっただけなんだから。
まあ確かに、あれを好きと勘違いしても仕方が無い気はするけど。
「嘘をつくな嘘を」
だがティンコはどうやら信じてくれなさそうだった。
さらに野次馬精神で根掘り葉掘り聞こうといった感じで、
ティンコの顔は嫌な感じに興奮していた。
「………好きだったらどうなのさ?」
「告白しないの?」
「相手を見て言えよ、釣り合わないだろ」
ティンコの口調は明らかに俺をからかっていて、
そしてため息を付くと、ロクでもない偉人の様にまた語りだした。
「そこは努力するもので………」
「面倒臭い」
「それは手が出ないし努力もしてないからと
自分を納得させているだけなんだろ?
妄想だけで満足してては駄―――あ、痛い痛い」
ピシッ、ピシッとデコピンを軽くする。
だが自分のティンコなので、やっぱり痛かった。
「何をする!何を!」
「そういえば、お前って男だよな」
「女だけど」
「………」
金玉が少しキュッと縮んだ。