Neetel Inside ニートノベル
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「さて」
 そう言って和んだ雰囲気を引き締めたのは、やはりというかなんというか、静ちゃんだった。
 その瞬間にジャイアンの顔が引き締まり、うろんげだったスネ夫の三白眼にも鋭い眼光がともる。さすがは何度も危機を乗り越えてきた仲間といったところか。
「状況は電話でざっと話した通り。今は詳しく話す気も、話す暇もないわ。
 とりあえず言えることは私がのび太さんを拾ってからすでに三時間は経ってるってこと。あちらも馬鹿ではないでしょうし、のび太さんがここにいることにはうすうす気づいているでしょう。
 その上でのび太さんを捕まえるために『まだ』犯罪者でない私の家に踏み込むかを考えているんでしょうけど、他に道はないしね。そろそろ行動を開始するでしょうね」
 リビングに戻りながら淡々と状況を分析し、仮説を述べる静ちゃん。僕らはそれに続いた。
「ここで、向かえ打つんだな。ケンカならまかせとけ」
 ニヤリと笑ってジャイアンが二の腕をたたく。たくましい、否、たのもしい。
 しかしそれはダ――、
「いいえ、違うわ」
 僕が異論を唱えるより早く静ちゃんが肩をすくめる。
「それじゃうちがボロボロになっちゃうじゃない」
 その内容にあっけに取られ、言葉を失う僕ら。一瞬の沈黙のあと、スネ夫が乾いた愛想笑いをして、
「冗談よ」
 静ちゃんがひらひらと手を振った。
「ま、おかげでどう思われてるかだいたいわかったわ。それはさておき、」
 そこで言葉を切り、振り返った彼女に睨まれた気がするけど、気にしない。それにそれは静ちゃん自身に問題があると思うんだ。あはは。という内心の思いもさておき、彼女が続ける。
「二人には戦ってもらうわけにはいかないの。理由は二つ。
 第一にのび太さんがみんなの分の武器をもっていないこと。
 このかっこつけくんはもともと一人で戦うつもりだったらしくてね、武器をほとんど持ってきてないのよ。対して相手は当然武装してる。勝てない戦いをするのは愚か者よ。
 第二に、うまくいこうがいくまいが、どちらにせよ戦った人間全てが時間犯罪者になってしまうこと。
 彼等の先祖にあたる私たちを処理することは恐らくできないでしょうが介入はしてくるでしょうね。のび太さんの話を聞く限りだと、彼等の思い通りになるクローンでも作って本人と取り換えるくらいのことはやりかねないわ。うまく未来が変わればそういうことを考える必要もなくなるのかもしれないけど過去に例がないからなんともいえないしね」
 ピッと握った右手を上げ、順に指を開く。内容を理解するのにしばしの時間を必要としたが、言いたかったことは概ね一緒だ。それに対して、
「それじゃなんのために俺らはよばれたんだよ!」
「それじゃなんのために僕らはよばれたのさ!!」
 綺麗にハモる二人。
 僕は、何も言えない。
 彼等を戦闘に巻き込めないことには同意だが、彼女が何を考えて、何のために彼等を呼んだのか僕にも理解できていなかったのだ。
 二人から視線を外し、天井を見ながら彼女は続ける。
「もちろん二人にはやってもらうことがあるわ。だけど、その前に確認したいことが一つ。
 今言ったように戦うのはのび太さん一人。一人で見えない敵を全て倒し、未来を変え、その罪を背負わなければならない」
 すっと視線を動かして、静ちゃんが僕を見た。
 柔らかい印象の丸い目を細め、睨むようにまっすぐに僕の目を見つめ、そして、彼女は尋ねた。
「覚悟は、ありますか?」
 沈黙。
 ジャイアンとスネ夫が固唾をのんで僕を見つめている。
 僕はチラリと自分の手のひらを見て、そして静ちゃんに視線を戻す。
「もちろん。それでみんなが一緒にいられるのなら」
 ゆっくりとその手を握り、小さく頷いてそう言うと、彼女は笑った。
 昔と変わらない優しい笑顔だった。
 気を取り直すように、パン、と一つ静ちゃんが手を叩く。
「それじゃあ作戦を話すわ。穴があればどんどん指摘して」
「わかった」
「おう!」
「うん」
 次々にうなずいて、僕らは、彼女の次の発言を待った。

       

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