Neetel Inside ニートノベル
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 しばらくそうしていると、ドラえもんがおもむろに立ち上がった。
 涙はもう止まっている。
 彼女は下唇をかんで僕の机に向かうと、ポケットから手紙を取り出して、それに向かってしゃべりだした。
『のび太君。高校合格おめでとう。
 僕も自分のことのようにうれしく思うよ。
 思えば初めてここで君とあってから、もう五年になるんだね。
 初めて会ったときは本当に僕なんかに君を一人前の人に出来るのか心配だったけど、それもこうして実現できたようです。
 これで僕の仕事もおしまいかと思うと嬉しいような悲しいような、そんな不思議な気持ちだよ。
 それじゃああんまり長くなるのもアレだからこれくらいで。
 このタイムマシンの入り口は塞いでおくね。
 それじゃあ未来で待ってる。
 さよなら』
 どこから見ても無理をしている笑顔から吐き出されたその言葉が、手紙に書き写されていき、そして、
「終了」
 彼女がそうつぶやくと同時に手紙の終わりに光で書いたかのような色で『録音終了』と表示され、しばらくそれが点滅しては『再生しますか?』に変わる。きっとこれはただの手紙ではなく未来の道具の一つなのだろう。彼女は録音内容を確認することなくそれを便せんに入れると、
その上に、『のび太君へ』そう書いて、机の隅にそっと置いた。
 彼女が未来に帰ろうとしている。
 そのことは理解しているのに、
 止めなきゃいけないのに、
「君がいてくれなきゃ僕はダメなんだ」
 その一言を口に出せずに、
 ただただ驚いてしまって、
 タイムマシンに乗り込む彼女を、僕は呆然と見送った。

       

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