Neetel Inside 文芸新都
表紙

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命を賭けた逃走劇の中やってのに、不謹慎この上ない。

オレは、幸せを、かみしめている。


――――― ・・・しき、この  2nd day act.3 ―――――

 初めて意識したんは3年で同じクラスになった時。
その頃のオレは、ワタヌキ・ホンゴウとバカやってた。いや、オレはやってない。
ホンゴウがアレやから、つるんでるオレらもあんま女子に良く思われとらん。
なんやかんやで彼女の一人も欲しくなる年。でもまぁ、諦めてたんやわ。

「這って動く・・・黒!まwwwせwwwとwwwるwww」
「死ねセクシャル本郷!!」
 いつもの、1VS女子全ての戦い。煽るワタヌキと止めに入るオレ。そんなときだ。

「あんたも、大変だねぇ・・・。あはっ」

 文句あっか、中坊なんて話しかけられただけでも気にする生き物やんかよ。
沼田雪恵。その面倒見の良さで女子の中心におった彼女が、オレの初恋やった。


「・・・もう、行った・・・?」
「オーケー、マいたみたいや。もう大丈夫やから」

 一日目、パートナーになっていたシライシを失った彼女と、強引に組んだ。
もしかしたら、シライシを見捨てた奴としてずっと心を開いてくれんかもしれん。
2日目も半日は経過、ずっと沈んだまま。
鬼ごっこの鬼である死神に見つかっても、ずっとオレが手を引いて逃げとる。

  もしかしたら、死にたがってるのかもしれんとすら思う。

 こんな状態じゃ、ミッションクリアのために攻めることなぞできない。無理だ。
さっき会ったミナミモトが人海戦術で突破やら言っとったが、任せることにした。
逃げに徹することが出来るのはまだ好都合や。

「裏道はなんやらノイズが多い。大通り出んほどに明るい道通ってこ」
「・・・そう、だね・・・。」

本当に都合良かったのは、”惚れた女を護っている”という幻想に浸れることに他ならん。
身勝手なもんや、オレ程度の奴じゃ。

 通りを抜ける。
「お、参加者」
赤パーカー、まずい、死神・・・ッ!しかし、もうなんも出来んオレたちやない。
「逃げるぞ・・・エクスプロージョン!」
死神の真上に、"爆"一文字。
「うえぇ!?ちょ・・・まってまっt
火の粉を上げて破裂。オレのサイキックは爆発だ。
うまく直撃した。この隙にヌマダの手を引いて走り出す。
「むー」
やべ、効いとらん!?でも逃げるのには問題ない距離は取れた!
「ねぇ、さっきの子・・・」
「子?」そういえば、鬼は黒パーカーだったはず。
さっきの赤パーカー・・・いわゆる『この方』、あの子だった?

「いたぞ!消えな参加者、おれのために!」
考える暇も無く、今度は黒パーカー。電波はいっとるし。
なんやサイみたいなノイズに乗っとる。人ごみをものともせん突進。爆発じゃ間に合わん!!
「食らえっ・・・ってうおぅ!?」
 そのとき、路駐のチャリが倒れる、というには不自然な飛び方で死神の行方をさえぎる。
「サイコ・・・キネシス・・・。はやく・・・」
ヌマダのサイキックだった。
「逃がすか・・・ってうおぅ!?こんなんばっかかよ!?」
ゴミ箱を倒して、ぶちまけた空き缶に転ぶ死神。便利だな念動力。

 他の参加者が消された所も見てきた。オレには何も出来んから逃げるしかない。
消滅――2度目の死を何度も目の当たりにしたヌマダも、精神的にボロボロ。
うずくまる彼女を、こっそり抱き寄せる。オレに出来る事は、1つ・・・君を、守る。幻想やけどな。
 逃げるだけなら人の多い駅前がいい。しかし向かう先は包囲されとった。
 隠れるだけなら裏路地がいい。しかしノイズがうじゃうじゃしとる。
 テラシマとかいう奴は買い物し放題や言っとったが、商店街まで包囲したどの口がいっとるんや。
気付けばオレたちも公園――大仏のある目的地に誘導されていた。

 最も近寄りたくない所。当たり前だ、ここは戦う場所だ。
人海戦術で"突破"、それは戦わずしてすんなりクリアさせてくれるわけやないことを意味する。
ほら、ノイズがわらわら・・・? 一本道だけ、全くノイズがいない。
鎖が道の脇を封鎖している。ノイズが入ってこれないみたいだ。で、それをやりそうな奴は。
「朝利がいるんだ・・・希が戦ってるんだ・・・あたしも・・・」
ふらふらと歩き出す。でも、オレは――

「戦わなくちゃ、か?」 オレは何を言っている?

 ヌマダがこっちを見ている。その眼は・・・憔悴した、夢遊病のような眼差し。

「今のオマエじゃ、足手まといにしかならんとオレは思う」彼女を止めるために言う?

 いつもは切れ長なあの目を、見開く。「どうしてそんなこと・・・」

「アンタはいつも、みんなに頼られる中心やった。だから今も助けにいく。違うか?」

「え・・・あ・・・」違わないだろう。しかし、護ると決めた。ただ死地には連れて行けない。

「でも、今はいつものアンタやない。いいやないか、たまには頼ってやっても」

「あんたに何が分かるのよ!!里美を・・・里美は・・・っ!!」手に取る、あのラパンの人形。

「あの時も、覚悟したシライシに応えてやれたか?」

「・・・ッッ!!」その目だ、友を(ホンゴウから)守るときの目。ただ、違うところが一筋。

「パートナーを、信じてやれたか?」

「あんたはさっきから・・・いやいつも逃げてばかりじゃない!自分が!自分のために!」

「オレやって守りたい物はある」今は、君。「そのために逃げてる」

「自分の保身のこと!?」いつものオレはそうみえていたか。耳が痛い。心も痛む。


 「 あ ん た の "ま も る こ と" は、 あ ん た の エ ゴ な の よ!!!」


昨日の経験じゃ、パートナー無しではサイキックが使えない。
オレが体を張って守っても、残されたヌマダは生き残れない。やから自分も守る。
それを伝えたところで「自分のためにあたしもまもるんでしょ」、逆効果や。
『あんたも、大変だねぇ・・・。あはっ』あの言葉の真意は・・・。

 無言で進んだ。今度は引っ張られて走った。
サイコキネシスはオレにも有効なんか、出しとらん力が俺の体にかかって軽く引っ張られる。
せめてサイコキネシスで飛ばせそうなものが欲しかったが、あいにくゴミ箱の一つもない。

「イイヨッシャァァ!!勝った!第2章完!」「いやいやwww章じゃないしwww」

 幸運な事に、ついた頃にはワタヌキがミッションクリアしていた。
ミナミモトが集めたのは、結局アサトシ・ナカムラ組とホンゴウ・ワタヌキ組。
パートナー、アンネンと合わせて6人。

「希!よかった、無事だったんだね!」
「雪恵も、うん、良かった・・・。」
飛びつくヌマダ。

「お前も無事か斑目交」
「あぁアンネン、お陰さまで。いやーみんな無事でよかった」
「フン・・・ミンナ?甘いなヨクトグラム。
 他は皆違う母集団だったが、生存率はヒトヨヒトヨニヒトミゴロってな」
ミナミモト語はわけがわからん。つまり、うちのクラス以外の参加者は√2・・・

「根号も使えない奴が近似値暗記するな。正確には2分の1・・・6人、他の協力者が消された。
 まぁ仕方ない、もとより移動の早い綿貫をクリアさせる予定だったのを、勝手に突っ込んだ奴r
 ヌマダが掴みかかる。
「朝利・・・あんた、仕方ないって・・・っ!!」
「俺たちは俺たちの最善を尽くした。人を守る余裕など無い。ましてや想定外のカバーなぞ」 
「だからってっ・・・」
「なら、お前には全員生存させる方法があったのか沼田雪恵!?」
 答えられない。誰も。崩れ落ちるヌマダ。舌打ちする朝利。
「まぁまぁwww今生きる喜びを謳歌しませうwww死んでるけどwww」
 空気を明るくしようとしているんだろうが、一言多いKH(空気ホント読めない)。
「力の無い奴は理想を語れない。いくぞノン公」
「え、うん・・・どこに?」

動かない彼女。動けないオレ。無力感。

「ハイ、クリアした人が出たから今日のミッションは終了だよー☆それじゃぁ明日までおやすみ★」
 頭に響くあの女の言葉と、突然の脱力感。ほら、あいつらに抗う事も出来ん、無力なガキや。

 でも、無力なオマエはオレが守るよ、どんなにオレが無力でも。


                 痛ましき、この加護。


SECOND DAY CLEAR
                       KOU WILL GUARD 残り70人 残り5日 

       

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