Neetel Inside 文芸新都
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見つからない、離れない
見つからない、離れない 5

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 しばらくすると、外ががやがやと騒がしくなってきた。
警察が到着したのだろう。野次馬も集まってきたのかもしれない。
こういった場合、自分達も刑事と話をすることになるのだろうか、と流子は考える。
そもそも、死体をぱっと見ただけなので、詳しい事は何も分からない。

 ポーン、という電子音がする。
それがこの部屋のチャイム音だと気付くのに数秒要した。
優奈の方を見る。うつらうつらと眠そうにしているので、流子は自分が出る事にする。

 レンズを確認するという習慣がなかったので、いきなりドアを開ける。
想定していた位置に相手の顔はなかった。
首を40度ほど上に傾けると、ようやく相手の顔があった。
頭ひとつ分以上に背丈の差がある。
長時間立ち話していれば、首が疲れてしまうだろう。

「こんにちは、県警の者です」
顔の彫が深く、岩のような肌をしている。
モアイ像に体がくっついたような感じだ。
「あなたがこちらの部屋にお住まいの佐々木優奈様でしょうか?」
人間と同じ言語を操るんだな、と流子は思う。

「いえ、私は佐々木の友人です」
優奈の事を佐々木、と呼ぶのは初めてなので少し違和感がある。
「そうでしたか。この度は大変な目に合われてしまった様で、心中お察しいたします」
「はぁ」
「それでその、大変申し訳ないのですが、貴女と友人の佐々木様から簡単にで結構ですので、少しだけ話をお聞かせ願えればこちらとしてはとても幸いでございます」
腰は低いが、表情筋は1ミリ程も動かない。
不気味としか言いようがない。
「構いませんが」
「有難うございます。お一人お一人話を伺いたいのですが・・・」
「私からでいいでしょうか」
「勿論でございます。このアパートの管理人の方から、部屋をおひとつ提供いただきましたので、ご面倒とは思いますが御同行願います」

 モアイの刑事について、一階まで降りる。
先程管理人が居た部屋の、隣の部屋のドアを刑事が開ける。
「どうぞ」
刑事はドアを開けた格好のまま、部屋の中に掌を向ける。

 どうやらこの部屋は、アパートの空き部屋という訳ではないらしい。
狭く、キッチンやリビングなどもない。
部屋の中には椅子が二脚あるだけだった。

「おかけください」
刑事が手前の椅子を手で示しながら言う。
言うとおりに座る。
足を組みたかったが、あまりに態度が悪すぎると思いやめた。

「まず、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「草薙流子です。流れる子供と書きます」
「草薙様ですね。あ、申し遅れました、私は小野と申します」
小野刑事は、咳払いをしてから質問を再開した。

「今日はどのような理由でこちらへ?」
「佐々木に招かれました」
「その様なことは、以前からありましたか?つまり、佐々木様からお招きされるような事は」
口だけ動く石像のようだ。
「はい、何度か」
「なるほど・・・学校から直接、このアパートに向かわれましたか?」
「はい」

「何時頃に学校を出発なさいましたでしょうか?だいたいで結構です」
流子は記憶を呼び起こす。
帰りのHRが終わるのが三時四十分、そこから優奈に声をかけられてすぐに校門へと向かったのだから、三時五十分には校門を出ているはずだ。
「三時五十分くらいだったと思います」
「なるほど」
この刑事は質問中にメモは取らない主義なのだろうか。
先程から口以外は全く動かない。

「学校を出てから、どれくらいの時間でアパートに到着なさいましたか?」
「十五分ほどで着きました。このアパートからとても近い学校なんです」
一応、自転車を二人乗りして来たことは伏せておく。

「アパートに到着してすぐに佐々木様の部屋に向かわれましたか?」
「はい」
「失礼ですが、佐々木様の部屋で最初に何をなさいましたか?」
「えっと、まずボードゲームで遊んだと思います」

 流子がえっと、と言ったのは、すぐに言葉が出なかったからではない。
随分細かいところまで聞いてくるので、驚いたのだ。
小説で、こんな場面がよく出てくる。
言っている事が矛盾しないかどうか、言葉に詰まったりしないかどうか、何らかの言葉に異常に反応を示したりしないかどうか。
そんな事を確かめるために、刑事が相手を怒り出させるほどに細かくものを尋ねる場面だ。
今自分は、それをされているのではないか、と流子は一瞬思う。
ロマンチックな発想だな、と流子は自分の思考を評価した。

「こちらから、一つだけ聞いてもいいでしょうか?」
刑事の質問を遮って流子が言う。
「はい、もちろん結構でございます」
「警察は、今回の事をどう考えているのでしょうか?」
小野刑事が睨むような目をする。

「はい、殺人事件として捜査しております」

       

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