Neetel Inside 文芸新都
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『篠崎くんへ。放課後屋上で待っています』


寒い廊下を抜けて下駄箱まで早足で歩く。授業が一通り終わり、各部活へ向かっている姿が多く目に付く。
俺はもう3年で部活を引退してしまった身だから、このまま帰るだけである。
窓の外には当たり一面の白銀の世界が広がっていた。今からそこに出て行かないと思うと、少し気が重くなった。
「あ、先輩。さようなら」
部活の後輩にあいさつをされる。俺は軽くよっ。と言い返し、緩んできたマフラーをしっかりと巻き直す。
玄関は外の寒さが直接伝わってくるようだ。吹雪いている外の世界を、俺はあきれたように見続けるしかなかった。
だが、いくら眺めていても絶対に変わることが無い真実なのだ。妄想から戻り、自分の番号の下駄箱の扉を開ける。
そして慣れた手つきで靴を取り出そうとしたが、何か今までに感じたことのない感触が俺の手に触れた。
紙……?こじんまりした手製の封筒みたいなもの――ラブレターなのか。
こういうものを見てしまったら男なら誰でも興奮してしまうだろう。
告白フラグじゃないのか?とも思える程可愛く書かれており、ご丁寧に王道のハートシールもついている。
俺は自分で言うのもなんだが、部活が野球部だったこともあってかなり女子からモテていた。
今までは何もこういったアクションは無かったが、今回初めてこういうことに遭遇してしまった。
でも、ドッキリって言うパターンもあるんじゃないのか?実は男子が書いたって奴だ。
だが、この字の綺麗さから男子というのはありえない。女子なんだ、これは。
けど、引っかかる……。なぜ、こんな雪の日に"屋上"なんだ?
でも、やっと勇気がある子がこうやって俺に手紙を書いてくれて待っているんだ。
行かないと全世界の男から袋叩きにされるだろう。
俺は屋上に向かうために来た道を戻り、階段を一段飛ばしで鼻歌を歌いながら駆け上った。


足跡がまったく無い一面の無の世界。目が痛くなるほどの白さは、いつも目にしているその色の限界を超えていた。
頭上から降り注ぐように落ちてくる銀の粉。これ以上積もらないでほしいのだが……。
この屋上は俺ら高校生にとってはまったく来ることの無い場所であり、孤立した空間と化していた。
さらには、柵の耐久度が悪いという報告があったこともあり、立ち入りは禁止されていたことも少なからず関係しているだろう。
と、綺麗な白の中に気付かないような小さな足跡がある場所へと続いていた。
その先へ視線を移すと、一人の髪の長い女の子がいた。寒そうに手を擦り合わせ、すこしそわそわしているようにも見える。
あいつは……確か同じクラスの小森愛花(こもりあいか)だ。あいつが俺のことを好きだったなんて。
俺は後ろから急に声を掛けようかここから掛けようか数秒悩んだ末に、恥ずかしいということもありここからにした。
「おーい、小森。すまん、遅くなっちまった」
軽く手を振りながら近づいていく。これから起こることに、俺はかなり期待していた。
「ぁっ、篠崎くん……」
俺の顔を見てほっとしたのか、小さくそう呟き力なく笑っていた。
彼女の頬は寒さの中でずっと待っていたのだろうか。赤く熟れたりんごみたいになっていた。
長い肩を少しを越えてしまう髪は、雪を優しく受け止めている。
首に巻かれたマフラーは何十にも巻かれており、かなり寒かったのだろう。
少し悪い気になってきたが、それを表情に出すことはできない。努めて笑顔でいないと。
「小森、一体何の用なんだ?こんなとこに呼び出して」
俺は知っているけど、いじめるつもりで聞いてみた。その反応を見てみたくて。

       

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