Neetel Inside 文芸新都
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手紙
後編

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「貴方を殺すためよ」
俺は自分の耳を疑った。信じられない言葉を聞いた気がする。そんなわけはない……。
「な……冗談は止めろよ」
彼女の表情は笑うといった行為からはかけ離れていた。人を恨むような目つきで睨んでくる。
「死んでちょうだい……私の弟のためにも。貴方が生きていると、修一が報われないの」
そう言って一歩ずつ追い詰めるように、綺麗な雪を汚すように向かってくる。
「こ、小森!冗談はやめてくれ。ドッキリってわかったから」
俺は恐怖から一歩ずつ後ずさりしてしまう。雪に何度も足を取られるが、今は関係ない。
「覚えてないの?野球部の学校内紅白戦の時……貴方は一人だけ真剣になって、練習試合でありながらスライディングをした」
「っ!!」

覚えていないはずが無い。俺は校内紅白戦の時に、最後の試合に出たいがばかりに必死でアピールしていた。
その結果が小森修一、セカンドである彼に怪我をさせてしまった。
スライディングが少し失敗し、彼の足に当たってしまったのだ。スパイクが容赦なく彼の肉を引き裂いた。
さらに、不幸は続くもので場所が最悪だったのだ。アキレス腱にも傷がいっていたのである。
そのことより小森は練習に来なくなり、俺はずっと罪悪感に駆られていたんだ。
忘れてなんかない、断じて!

「あれから修一は野球をしたくてたまらなかった。でも、貴方を恨んだりしなかった」
少しずつ喋り方に熱が入ってきている。歩幅も少しずつ大きくなっており、これは危ないだろうと感じる。
「篠崎先輩はなにも悪くない。全力で野球をプレイするのは当たり前だ……って」
そんな……俺は……小森の気持ちに甘えてただけじゃないか。最低だな、俺って奴は。
「でも私は許せない……今修一が必死でリハビリしてるの知ってる?知らないでしょ!」
いつの間にか俺と彼女の間には数メートルも開いてなく、お互いの息がかかる位にまで接近していた。
「本当に悪いと思っている……」
その瞬間に、女の力とは思えない程の威力で胸倉をつかまれる。
「……そう、口では何とでも言えるわね」
「ちが……」
否定しようとした時、力強く押されて体が後ろに倒れこむようになる。
倒れこむと俺の背中を鉄の柵が受け止める。激しい痛みが全身を襲う。
と、柵が古めかしい音を立てて徐々に倒れていく感じがする。
「まさか!」
俺の体半分が宙へと放り出された。柵が音を立てて地面に落ちる音がかろうじて聞こえた。
「そう、ここはあのもろい柵のところよ。追い詰めたかいがあったわ」
彼女の表情はもはや女の子の顔じゃなく、鬼の形相と化していた。
「貴方は屋上で私と話していたところ、柵にもたれ掛かって事故死……でいいかしら?」
俺は体の底から震え上がるのを感じた。冷や汗があふれ出して止まらない。
少しずつ俺の体温によって溶かされた雪が滑り出す。この恐怖と背中の痛みから動くことがままならない。
「ちゃんと泣いてあげるわよ……もちろん演技だけどね」
そのとき、彼女の死神なるほほえみが俺の見た最後の彼女だった。
次の瞬間、体の浮揚感が感じられ全身に強い風を受ける。
――あぁ、ラブレターなんかじゃなかったんだ……死への案内状だったのか。


全身が砕けた感じがした。意識が止まったなどと思うことも、もうできない。

       

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