午後9時。M18倉庫。
静寂が辺りを包む。緑川さんはもう来ているのだろうか、
そんなことを考えながら健二は敵地に足を踏み入れる。
不安はあった。不安はあった。改造されたとはいえ、健二は自分の能力のことを何一つ知らない。
強いて言えば、「パンチが強い」ぐらいのものである。しかし、今の彼には仲間がいる。
あの秘密結社と戦っているのは何も自分ひとりだけではない。
その事実が、彼を幾ばくか安心させていた。

シャッ!!

「なっ何ッ!?」

遅かった。健二が叫び声をあげた時にはもう既に、
彼の体は電磁ネットに絡め取られ、軽々と中に浮かんでいた。

「くっ…こちらの作戦が読まれていたのか?」

「はははははははははははははは…その通り、その通りだ滝川健二!!」

暗い倉庫内に声がこだまする。しかし、この声は、この声は。
信じたくなかった。だが、嫌でも信じさせてやるぞとばかり、倉庫内をライトが照らす。

「あっ、あんたは……!!」

「はははは……そう、ICPO捜査官、緑川修二だ!」

仲間であるはずの男が、この俺を罠にはめている。
こうとなれば答えはもうひとつだが、健二はそれを信じたくは無かった。

「何故、何故こんなことをする!?ベクトロンを倒すんじゃなかったのか!!」
「おやおや…懸命な君ならもう気付いているだろうと思ったが、案外ニブチンらしいな。
ICPO捜査官、緑川修二とは仮の姿!しかるに、その実態は!!」

修二(仮)の周りを怪しい紫色の光線が包む。そしてその光が終わる頃、彼は変わった。

「ベクトロンが幹部の一人、改造人間詐欺仮面よ!!」

「ぐっ、くそっ謀ったな、謀ったな、ベクトロン!」

「ははははは!そう、そうだ…今回、おまえに降りかかった一連の事件、
痴漢冤罪から倉庫での捕獲まで!すべてこの詐欺仮面の詐術よ!
そして貴様は、まんまと罠にかかったわけだ…他人なんぞをあっさり信じやがって、この愚か者が!」

詐欺仮面は悪態をつきながら倉庫の壁にあるレバーを下げる。

「ぐああああああああ!!」

「はっはははは!どうだ、10万ボルトの電流の味は!!
そのワイヤーから流れる電流を長時間浴びれば、いくら改造人間の貴様とて気を失う!
そして、今度こそ貴様は完全なベクトロンの改造人間として生まれ変わるのだ!」

「が、ああああ…」
強烈な電流が体内を蝕む。改造人間でよかった。そうじゃなかったら多分もう死んでる。
などと悠長なことを考えている場合ではなかった。

「ぐ…何故、あの時俺を助けた……」
「ん?それも私の詐術!組織に忍び込んだ賊の声を私が声帯模写して利用したまでよ!
災い転じて福となす、いかなる事実もこの詐欺仮面の前には無意味!!
全てが嘘、そして金になるのだ!はーっはっはっはっは!!」

「許さん……よくもこの俺を…俺の、俺の心を踏み躙ったなぁぁあ!!」
「フッ、その台詞は聞き飽きたよ。どいつもこいつもワンパターンなことばかり…」

突如、健二の体が光り輝く。これは、決して高圧電流によるものではない。
そう、これはまさしく!


「タイガースパーク!!」

輝きが最高潮に達したとき、この健二の掛け声とともに、電磁ネットは粉々に吹き飛んだ。

「ばっ馬鹿な…奴が変身のやり方を知っているはずが……」

何も馬鹿なことはない。ネットを突き破り、まさしく健二は改造人間タイガーバロンに変身したのだ。

「どうやら、怒りが頂点に達すると変身できるらしいな……1つ、いい事を知ったよ」

「うっ…うう…だが、こんなことでこの詐欺仮面様が敗れるわけが無いッ!勝負だ、タイガーバロン!」

詐欺仮面はやおら飛び上がり、バロンめがけてキックを放つ。
しかし、バロンも同様に飛び上がる。


「バロンキック!」

命中。キックを食らったのは先に仕掛けた詐欺仮面のほうだった。
彼は仰向け様に6mほど吹っ飛び、地面に叩き付けられる。機械の壊れる音がした。

「ぐっ…こ、この詐欺業界のプリンスとまで呼ばれた詐欺仮面が…
貴様、貴様ごときカモにやられるとは……」
「お前が人を騙すだけのヒョロ人間だった、それだけのことだ。」

「言ってくれるじゃないか…だが、我ベクトロンの改造人間は、
何も私のような知略に長けたものだけの組織ではないぞ…未熟な貴様に、次の資格が打ち破れるかな、
はは、はははははは……うげっ!」

お決まりの捨て台詞を残すと、詐欺仮面はあっけなく爆発した。
人を欺き続け、金に塗れた生活を送り、本当の顔さえ忘れた男の最後だった。

「来るなら来い。ベクトロン。こうなったら全て叩きのめして、それを俺の復讐としてやる」

燃え盛る倉庫を背にタイガーバロンこと滝川健二は今、
ベクトロンへの復讐を固く心に誓うのであった。