Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      


「はぁ……はぁ……」

はじめての秘密基地探検ながらもなんとか逃げ出した健二。
気が付くと、辺りは何もない荒野だった。
ただ、岩肌を晒すだけのこの大地。

「俺は、一体どうなってしまったんだ……」

「見つけたぞ、滝川健二!」

微妙に現実逃避を試みる健二に、甲高い声が響く。これは確実に人間が不快に感じる音域だ。

「バ~ラバラバラ……俺はベクトロンの改造人間、バンバラバンバンマンだ!
全能なる皇王様に刃向かう、馬鹿者め!ベクトロン1の索敵能力を誇るこの俺から逃げられると思ったか!
いいか、確かにお前はちょぉ~っとばかし強いらしいが、今の貴様は自分のことなど何一つ分からぬ、
ようするに赤子同然。貴様を倒すことなどまさに赤子の手をひねるように簡単なことよ!
なにせこの俺様の能力と来たらそりゃあもう、ストーキングにはさいてきっぶぁるが!?」

健二は殴った。目の前の物体を。そうだ、これが、これこそが。

「俺を、俺を、俺の体をぉぉぉぉ!!」

1、2、3、4…幾度も殴る。目の前の物を。憎しみをぶつけるのはこいつしかいない。
怒りを静めるにはこいつしかいない。

「バラっ!バラ!バラっ!馬鹿な……このバンバラバンバンマンが、
手も足も出せぬと言うことが、あってぇ!たまるかぁ!!」

怒声一発。突然、健二の拳が空を切る。
何故かお分かりだろうか?そう、奴は突然姿を消したのだ。

「バーラバラバラ……わからないだろ、わからないだろぉ?俺様が何処に消えたか、バーラバラバラァ!!」

バンバラバンバンマンは致命的なミスを犯していた。


「ぷぎゃあ!!」

それは、ここが荒野だということだ。

「し、しまったぁ……ここでは分離しても、丸見えだぁ……」

健二は地面のところどころに落ちているわっかのような物を1つ1つ足で踏み潰していく。
その圧倒的な踏み躙り力は真性のドMならむせび泣くどころか確実に命を落としてしまうだろう。

「ぐぎゃあああぁぁぁぁ!!ま、まままま待て、話し合おう。
やっぱり僕としては民主主義を貫くのが、一番憲法的だと思うんだ」

「俺をこんな体に改造した組織の手先が、何をほざく!!」

「ぐぎゃあ、や、やめ……て、くださ……や、や」

「死ね」

健二が最後の1個を踏み潰すと、バンバラバンバンマンは声も無く消えうせた。




健二の周りにはもはや何も、ない。

広い荒野にただ一人たたずむ異形の者。

改造人間はただ呼び続ける。

「俺は、俺は……」

自分自身。その意義を。

       

表紙
Tweet

Neetsha