Neetel Inside 文芸新都
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千年魔女と俺と…
1.

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壱.

 平凡な家庭に生まれ、平凡な少年として平凡な環境下で育ち、平凡な学校生活を送り平凡な高校へと進学し、やがて平凡な大学生となって平凡な会社に就職し、平凡な女性と平凡な出会いをして結婚し、平凡な家庭を築いて平凡な一生を終える。それが世の中の常識であり、人生の公式、の筈だった。その、いとも簡単に破壊された平凡も、今となっては遥か遠くに行ってしまったかのような気がする。思えば、人間の人生なんてものはある一瞬の思い付きが全てを狂わせてしまうものなのだ。歴史上の人物然り、売れっ子芸能人然り。
 俺みたいな人間がまさにそうで、つい先日まで平凡な一人の高校生だった筈が、あの日を境に、どう考えても関わる必要のない事に巻き込まれ、自分の近辺を絨毯爆撃よろしく滅茶苦茶にされた挙句、名誉(?)の負傷を負う羽目になったのだ。ちなみに、どのくらい重症なのかと言えば、肋骨がイカれたり左腕が複雑骨折起こしたりして、何だかんだで全治二ヵ月ちょっとだという。あの騒動に巻き込まれながら、未だに生存している事が正直信じられない。まあ、あの時頭が回っていれば、現在のような肉体精神ともにフルボッコ状態、なんて事は回避可能だったわけだが。かつての俺のバカ野郎。
 さて、ここまで愚痴を言ってしまった以上、こんなクソ暑い中わざわざお見舞いに来て下さった皆には、一体どういう事があったのか詳しく説明せざるを得ない。そんなもの聞きたくないって?じゃあ最終章まで一気に読み飛ばしてくれ。俺は一向に構わない。…まあ、そういう対応されると涙目な人もいるから、止めといた方がいいけどな。
 前置きが長くなってしまった。とりあえず、話を進めよう。…事の発端は4月上旬、ちょうど高校に入学して少し経った頃の事だ。

 ちょうど入学当初の緊張感が程よく抜け、クラスメートとの親密度が増してくる時期だ。俺もその例外ではなく、同出身校の友人経由で何人かとお知り合いになり、事ある毎に話す仲になっていた。レギュラーメンバーは中学時代からの親友である岡山、その知り合いの高松と俺。その三人を中核として雑談メンバーが常時七、八人いるような状況。まあ、それだけの人数がいれば何かと話題も尽きなかった。
その日は、クラスの女子で誰が一番好きか、というとんでもない地雷を踏んだ奴がいた。面識の無い人物ばかりでは好きか嫌いか以前の話だろう、と高松が軽くあしらったところで、誰かがこんな話題を出した。
「そういや、最近魔女が出たっていう噂を耳にしたんだが、どう思う?」
一瞬の沈黙。その後、一同爆笑。
「魔女とかwwwねーよwww」
「それ何処の厨二病患者だよwww」
「ですよねー」
皆が一通り笑い転げた後、この話題を持ち出した張本人は再び真面目な顔で言った。
「俺も嘘だと思いたいが、実際に意味不可解な現象が起きているらしい」
ほほう、真偽の程は置いといて一通り聞かせて貰おうじゃないか。俺を含む全員が、そんな表情で彼を見た。
彼は、携帯のカメラ画像を表示し、机の上に置いた。
「まずはこの写真を見てくれ。こいつをどう思う?」
そこに写っているのは倒壊した廃ビルだった。コンクリートとガラスの欠片が辺りに散らばり、鉄骨は無残に折れ曲がっている。何時、何処で撮影したのか知らないが、別段変わったものは写っていないようだった。
「すごく…姉○設計です」
岡山は、そんなふざけた感想を言った後で彼に尋ねた。
「で、何処がおかしいか教えて貰おうか」
「この欠片、人為的に切り刻まれた形跡があるんだよ」
彼はそう言って、別の画像を表示させる。そこに写ったコンクリートの塊は、一部が砕け散っているものの、鋭利な何かで切断された跡がはっきりと現れていた。とはいえ、これだけでは魔女の存在を証明するだけの証拠にはならない。高松もそう思ったらしく、彼の主張に反論した。
「何らかの重機で破壊したってのも考えられるだろ。どうせ、解体作業中にマズって崩れたんじゃないのか?」
「そういう関係の工事はまったく行われてなかった。それに、わざわざ重機なんて持ち込んでビルを倒壊させたがるバカはいないだろ。仮にいたとしても、持ち込もうとする時点で誰かに見つかるのがオチってところ」
「それはそうだがな。元々中が痛んでいて、何かの拍子に倒壊したって可能性も十分に有り得るんだぜ?百歩譲って人為的なものだと認めたとしても、空想の産物が暴れた、なんて事は有り得ない」
「だよな…」
それっきり、この話題については誰も触れなかった。そんなの馬鹿馬鹿しい、そう思うのが当然だろう。俺もそう思ったが、一方で好奇心というものが大きくなっていた。一種のホラ話であっても、自分の目で確かめてみたいと思うのが人間という生き物だ。休み時間が終わる間際、俺は彼からさりげなく撮影場所を聞き出し、早速行く事にした。

       

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