No.29/犬は炎の中に投げ込まれ続けた/とあめ

 超高層ビル群に囲まれた小さな市民公園に、何千人という少年たちが集まっていた。ほとんどが十三歳から十九歳ほどだ。彼らの足元には何万個ものバッグが、かごが、箱が置かれ、中で汚い野良犬が、飼い犬が、老犬が、仔犬がもがいていた。犬は炎の中に投げ込まれ続けた。

 二十年前に改正された動物愛護法はあらゆる動物の殺害を禁じた。牛肉も、豚肉も新しく発明された人口肉に取って代わり、保健所は野良犬を、野良猫を集め飼育した。町から野良犬は消え、代わりに失業者があふれた。犬が増え保健所の手に余るようになると、全家庭はそれを飼うよう命じられた。公園の少年たちは生まれた頃から家で犬を何匹か飼っていた。
 ある夕方、何の前触れもなくこの祭りは始まった。少年たちは家の犬を連れ、隣の犬を盗み、次第に集まった。集団で保健所に押し入り、野良犬を奪った。町のペットショップのガラスを割り、動物を盗み、火をつけた。十二時前には公園でキャンプファイヤーが始まっていた。

 僕は友人からの電話でそれを知った。二階の窓を開けると下に少年が数人いて、「犬を連れて降りてこいよ。みんな公園に集まっている」と叫んだ。僕は表に出た。
 壁という壁はスプレーで落書きされ、窓という窓は石で割られていた。電柱に酔っ払いが縛り付けられていた。臭い。みんなが小便を引っかけたようだ。僕もそれに倣った。
 公園は興奮した少年たちで埋め尽くされていた。殴りあう者たち、意味のわからない叫び声をあげる者たち、自動販売機を壊す者たち。僕はコーラを二本彼らから貰って一本ふたを開け、ベンチに座った。後ろの茂みでは、少年たちがホームレスを殴り殺そうとしていた。
 僕はコーラを飲みながら、中央の広場のキャンプファイヤーの赤く燃える炎に、高く昇る煙に見とれていた。こんなに大きく、美しい火は見たことがない。家庭から、学校からライターも、ガスコンロも姿を消していた。犬は炎の中に投げ込まれ続けた。こんなに臭く、心地よい臭いは嗅いだことがない。家庭にも、学校にも香水が、香料が作り上げた臭いしかなかった。

僕は立って、炎のほうに向かうことにした。少しでもこの騒ぎの中心にいたい。犬の首を切って、長い棒の先にくくりつけている少年がいた。誰に習ったわけでもないだろうに、いやに慣れた手つきだった。もう五つほどできていて、地面に並べられていた。祭りだ。
 鶏を絞めている少年がいた。学校の飼育小屋からでも盗んできたのだろうか。電子レンジしか触ったことのなさそうな彼がどうして鶏をさばけるのか、不思議だった。「焼けたらやるよ」少年は言った。僕は正直怖かった。生き物は生き物で、食べ物は食べ物だと思っていた。犬は炎の中に投げ込まれ続けた。生き物が次々と灰になっていった。祭りだ。
 僕に電話をかけてきた、あの友人に会った。彼は棒切れを持って汗だくになりながら、炎から這い出てくる犬を再び火の中に押し込んでいた。骨の爆ぜる音がした。僕に気づいた彼は僕に「どうだい」と話しかけた。「最高だよ」とコーラを手渡しながら僕は答えた。「何でもっと早くこれをやろうと思わなかったんだろう。」少年がへらへら笑いながら女の上着を、下着をはぎ、火の中に投げ入れていた。灰が、火の粉が舞い踊る。祭りだ。
 誰かが歌を歌い始めた。「燃えろよ燃えろよ、炎よ燃えろ…」僕も、友人も、誰も聴いたことのない歌だった。しかしなぜか、公園の少年たちは、僕も、誰もが続きを知っていた。「火の粉を巻きあげ天まで焦がせ…」歌の輪は広がっていった。歌声、金切り声、犬の悲鳴、女の悲鳴、炎はますます燃え上がり、僕たちの家の飯を食って育った犬を焼いていった。

 公園の中央の時計は二時を指し、少年たちは次第に広場へと集まっていった。周りの茂みでホームレスをいじめていた者たちも、コーラをしこたま飲んで小便を掛け合っていた者たちも、ベンチに座って犬の生首の飾りを作るのに熱中していたあの少年も。彼はその一本を高く掲げ、炎の周りを回って踊り始めた。やんやの喝采が飛んだ。何人もが彼の作った犬の生首を譲り受け、一緒に踊った。
犬は炎の中に投げ込まれ続けた。歌は大きなうねりとなり、公園を囲む長高層ビル群にこだました。防音壁に阻まれて、ビルの中の人々にこの歌は、叫びは、祭りは聞こえてこないだろう。それが快感だった。あまりにも気持ちよくて僕はゲロを吐いた。今まで道につばも吐いたことのないような少年たちが、そこら中に糞を垂れていた。誰の目もぎらぎらと輝いていた。まるでこの広場だけが、西暦二一〇八年から原始の世界に戻ったようだった。少年たちは火を囲んで歌い、踊り、鶏肉を食らった。犬は炎の中に投げ込まれ続けた。

明け方、犬をすべて焼き終えたころ、パトカーのサイレンが近づいてきた。祭りは終った。でもすがすがしかった。僕たちはどの大人にも教わらなかった歌を共に歌ったのだ。