Neetel Inside 文芸新都
表紙

三題噺コンテスト会場
No.12/:distance/サロも(るーす)

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「あなたの犬ですか?」
…いきなりそう声をかけてきたんだ。それがあたしとアイツの初めての出会い。
でもなんでわかったんだろうね。まぁ、キョロキョロ探してはいたんだけど。
後から聞いたら「なんとなく」だって。なんだそれ?笑えるよな。

結構大きな祭りでさ、当時飼ってた子犬…コロってんだけど連れてったんよ。
…ん?…あぁ、捨て犬だよ、拾ったんだ。でも病気で早くに死んじまったんだけどな。
仕事の現場に向かう途中でさ、ダンボールに入れられて捨てられてるの見かけたんだけど
急いでたんでどーにも出来なくって。で、気になって帰りも同じ道を通りかかったら
まだそこにいてさ、ちょっと相手してやったらもうダメだ。そのまま連れて帰っちまった。
でもずっと仕事が忙しくってね、なかなか散歩にも連れてってやれなくって…。
たまたまそん時祭りやっててさ、そんなん一緒に行くようなダチとかはいなかったんだけど
やっと取れた仕事の合間をせっかくだからコロとふたりでぶらっとね。
で、アテもなくウロウロしてたんだけどちょっとした隙にリードが手から離れちゃってさ。
コロは人ごみの足の間をするするーって消えてったんだ。マジで焦ったよ。
汗だくになって…二時間ほどかなぁ?探したけどどうにも見つからなくって。
ボチボチ祭りも終わるころで人も少なくなってって途方に暮れちまって…。
そんときにどこからともなく見っけて連れてきてくれたのがアイツだったんだ。
思っきし泣いちまったよ、ガラにもなく。…あ?バッカ、これでも昔は可愛かったんだよ!
でさ、聞けばなんと同業モンで犬好きだっつーじゃん?で、遅くまで話こんじまってね、
気がつけば仕事以外はいつもアイツとコロと三人でいるようになったんだ。
…つってもお互い休みも取れないほど仕事が忙しくって滅多に逢えなかったんだけど。

解決してみるか?ってことで一緒になったんだけどかえって今度は衝突が多くなってさ。
結局はすれ違いばっかだし。たまに家で一緒でも仕事のストレスぶつけ合ったりとか。
ほーんと、ケンカばっかで…仲がいいからとかとてもそんなレベルじゃなかったなぁ。
でさ、このままじゃいけないな…なんて考えてたときに偶然アイツも同じ事考えてたのか、
たまには仕事のことは忘れて一緒んなった日だけでもゆっくりと祝わないか?って
その日の夜にレストランを予約してくれたんだよ。小ぢんまりしたところだったけど。
まだ一緒になって4ヶ月のころで結婚記念日もくそもなかったんだけどね、
籍入れた日にちをこれから毎月記念日にしようって言ってくれてさ。
…だけど結局当日もお互い仕事で、でも頑張って時間つくるから
夜は二人で思いっきり楽しもうって言ってくれて。仕事かたずけたら必ず電話するからって。
あたしはなんとか仕事終えて約束の時間に間に合わせれたんだけど
アイツはあたしより結構売れててさ、その日もやっぱりなかなか来れなくて…。
それでもあたしはいつもみたいにイライラすることもなく店のラストぎりぎりまで待ってた。
で、ほんとにもう店が閉まっちまうころにアイツの携帯の番号からかかってきたんだけど
出たらひねた声で「こちらの携帯電話の持ち主が亡くなりました」って。
こんなに待たせといて何のジョーダンだよ!ってキレて電話切っちまったんだよ。
でもすぐに我に返って掛け直したら警察の人でさ、病院からだったんだ。
単独事故だったんだけどな、休みも無いほどの連日の忙しさで疲れもたまってただろうし
時間を間に合わせようと急いだりしたからやっちまったんじゃねーかなって。
病院で…見ず知らずの人達に看取られながら寂しく死んじまって。
ずっと…何度も何度も…あたしの名前を呼んでたんだって…。

結局、最後の最後まですれ違ったまんま、まともに逢えなかったんだよな。アイツとは。
それからも毎日が忙しすぎて…でもアイツといた時間、絶対忘れたくねーから…
つらいけどここでゆっくりアイツとの思い出に浸れたら…
なんて考えてこの店をそう名づけてみたんだ。
あたしが待ってたレストランとアイツが死んだ病院までの距離…
そう…「11マイル」だったんだよね。
今でもなんとなくつかず離れずなアイツとの距離のような気がするんだ…

……お、おい…泣くんじゃねーヨ、鈴…、こっちまでもらっちまうだろーが…。

       

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