「あーあ、何が悲しくてこんなトコでぼけーっとしてなきゃいかんのだ?」
俺は今、図書館でバイトをしている。巷じゃこの地域の夏休みの恒例行事、海祭りの当日を迎えてウマウマだっつーのにも関わらずだ。シフトという名の孔明の罠……後の祭り、だ。
「まあ、一応バイトですから。黙って借りる人を待ち続けるしかありませんね」
「くる訳あるかよこんな日によぉ!? お外は祭りで大賑わいだってのに。あーあ……」
「ふん、どーせ2人でカキ氷つっついたり金魚すくったりして、最後に花火見たりするだけでしょ? そんなのワンパターンでつまんないだけですよ。こうして静かに穏やかに時を過ごすのがずうっとマシってものです」
「まーそーだろーけどよ。でもさ、そういう2人で過ごすってのにイミがあんだろが。蛍子ちゃんだってンなコト言ってるけどあのイケメンとどーせこの後しけこむんだろ?」
「だったらこんな所に今いる訳ないでしょう?…………空気嫁、カス」
「へ? ごめん、最後のほう聞き取れな――」
「うるさいですよ! 周りにメーワクかかるからお口にチャックしてて下さい!」
と、明らかに俺より大きな声を出して周囲の目線をぐぐいっと引き付けた後、蛍子ちゃんはプンスカ顔のまま再び読書を始めてしまった。
そうかお前もふられたか。まあそのキツイ性格じゃ男も逃げるわな。ガードも固そうだし。みんなドンマイ! 外見で釣られても仕方ないよ、うん。だって眼鏡に巨乳は反則だもの。
その後カウンターに備え付けてあるパソコンをいじりながら、俺は何となしに無為な時間を過ごしていた。しばらくすると、俺の携帯電話が不意に鳴った。マナーモードに設定し忘れていてエラくピロロ音が鳴り響いてしまい、俺は急いで本に顔をうずめたままの蛍子ちゃんに一言断ってカウンターを抜けて通話をすませた。
「ったく嬉しそうにしやがって…………こっちの身にもなれってんだ……全く……」
「ハイハイ幸せ振り撒いて結構なコトですね本当にありがとうございましたー」
カウンターに戻って文句を垂れていると、本を読んでいた彼女が急に横槍を入れてきた。
「ん? 何がだよ??」
「今の電話、例のコからだったんでしょう? デートの約束ですよねー」
「へ? 例の? いつの話してんだよ。今俺はどフリーだけど……って何言わせんだよ!」
「えっ、でもなんか嬉しそうにーとかって言ってたじゃないですか!」
「ありゃお袋だっつの! なんかこれから親父とデートしてくるって言うもんだからさー」
「なーんだそうだったんですか……」
「そうだったんですよ! あー、急にイライラしてきた! 蛍子ちゃんこの後空いてる?」
「え? え、ええ一応……」
「よし祭りだ! 一緒に犬の散歩がてら、祭りに行こう!!」
「ちょ、ちょっと何で私がアナタと行かなきゃ――」
「頼まれたんだよ! 夫婦水入らずしてくるから、帰ったら犬を散歩させろーって。頼む、何でも奢るから! 花火でも見なきゃ気がすまない! でも1人じゃつまらんしさ! な?」
俺の頼みにしばらく蛍子ちゃんは考えていたが、やがてコクリとうなづいた。
「でもデートとかじゃないですからね! 変な事したらぶっ殺します!」
「あーはいはい頼まれたってそんな命を危険にさらすようなことなんてしま……おっと」
俺が口を押さえていると、なにやら蛍子ちゃんはいそいそと動き回りだした。
「何してんだ?」
「閉館時間に備えて支度してるんです。アナタもとっとと窓の施錠をしてきて下さい! 早く閉めないとお祭り終わっちゃうじゃないですか! 花火には絶対間に合わせますよ!」
「お、おう……って、蛍子ちゃんさっき祭り馬鹿にしてなか――」
「何ですか? 今何か言いました?? んんー??」
「な、何でもねーですヨ?」
「……ふん、ぶつぶつ言ってないで動いてください!」
素直に好きだって言えばいいのに、意地張っちゃって。まあ、俺も人のコト言えないんだけどさ。
よっしゃ、なんだか超展開だけど花火の後にでもここはひとつばしっと言いましょうかね。