No.23/帰省/ロリ童貞

「しばらく見ないうちに大きくなったのお。」久方ぶりの懐かしい顔ぶれたちが、例のごとく
やってきた。今年は混雑を避けて、お盆休みの期間とは少し時期をずらしたのだろうか。まあ
何のことはない、ちょいと早めというだけで、あとはいつも通りの夏のイベントだ。普段は老
人ばかりのここいらあたりも、この時ばかりは活気が戻ってくる。

「いただきまーす!」さっそく子供たちの甲高い声がこだました。婆さんがスイカを切ってや
ったら、我先にとかぶりつき始めたのだ。全くもって元気なことだ。軽くたしなめつつ、親達
も一緒に舌鼓をうつ。そんな平和な光景を眺めていると、子供らのうちで年の離れた長女だけ
がしれっと大人に混じって神妙にしていることに、ふと気がついた。

年老いると、月日の流れが早いのか遅いのか自分でもわからなくなってくる。ついこの前まで
赤ん坊だったはずのあの子が、どこかのご令嬢と見間違えるほど立派になっていた。若草色の
リボンがついた、つばの広い真っ白な帽子。そして同じく純白のワンピースドレスからは、淑
女の気品さえ漂っていた。田舎町にはおよそ似つかわしくない。そんないでたちの彼女を、私
はひそかに自慢に思っていた。隣の偏屈爺さんの自信作であるローテ・ローザにも引けを取ら
ないだろう。しかしながら同時に、幼く無邪気だった彼女の幻影を懐かしく思い返しては、い
くばくか物寂しいようなうら悲しいような、そんな感情を抱いてもいた。

彼女が私と遊んでくれなくなったのは、いつの頃からだったろうか。昔はこの家にやって来る
度に、真っ先に私のところへ駆け寄ってきたものだ。それが今では、ほとんど構ってもらえな
い。いや、取り立てて理由があるわけではない事は重々承知している。人は成長と共に経験を
積み、様々な事柄に触れ、関心の的が移り変わり、拡散する。私に興味がなくなったのではな
く、興味を持たれる面白いものが他にたくさんありすぎるのだ。

「今日からお祭りさね。」婆さんが言った。そう、スイカや夏祭りのほうが子供たちにとって
は優先順位が高い。それどころか、もしかしたら、こんな辺境の地に親の都合で無理やり連れ
てこられるよりも、都会で同年代の若者たちと過ごしているほうが楽しいのかもしれない。私
も老い先短い。いつ今生の別れになってもおかしくないと、毎回の訪問の度に覚悟を決める。

そんなことを思いながら感傷に浸っていると、僅かばかり我が耳を疑う会話が聞こえてきた。
なんと彼女が、私と一緒に夏祭りに行くと言い出したのだ。浴衣まで用意しているところを見
ると、もとより行く気十分だったらしい。お祭りのついでなのかもしれないが、それでも私を
選んでくれた事が嬉しかった。体は無理だが、心が踊っているのがはっきりわかった。

ああ、待ちきれない夜を迎えるなんて、そして、鼓動で胸が苦しいなんて、いったい何年ぶり
のことだろうか・・・

―それからしばらく時が過ぎた。日が暮れて、空気もかすかにひんやりしてきた。
「きれー!」彼女はいま、夜店の並ぶ路傍から夏祭りの花火を見て歓声をあげている。しばし
見とれ、その後ハッとし、丈の短い着物の小脇に抱えたポーチを漁り出す。取り出した物体を
頭上にかざしたかと思うと、そのまましばらく動きを止めた。
「カシャッ」祭の喧騒に紛れて不自然な電子音が響き、彼女は手をおろした。
「へへっ」物体を覗き込んでご満悦のようだ。で、一体全体何をしていたんだい?
「ほら」彼女は手に持った物体を私の顔の前に突き出した。そこにはついさっき夜空に咲いた
のと同じ花火が、狭苦しそうに収まっていた。今のカメラはそんなに小さくて、こんなにすぐ
に撮った写真が見られるのかい。いやはや珍しいもんだ、これだから長生きはやめられない。

「プルルルルル」また突然奇怪な音がしたかと思うと、彼女は白魚のような手指で流暢にカメ
ラのボタンを押し、自分の耳元へ運んだ。
「もしもし。・・・うん、ちょっと苦しそうだけど・・・まだ大丈夫みたい・・・わかった、
そうする。わたし・・・ずっと遊んであげてなかったから・・・最後くらいは・・・」おや、
なんとそのカメラは電話もできるのか。耳の遠い私には、彼女が何を話しているのかはよく聞
き取れないが、口ぶりからすると会話の相手は婆さんのようだ。彼女がこちらを見た。電話は
終わったようだ。ついに視力も衰えたのか、なぜか彼女の瞳がにじんでいるように見えた。
「一緒に写真撮ろっ!」目をこすって精一杯の笑顔を見せながら、彼女はいきなり私に顔をく
っつけた。すぐさま片腕を伸ばし、カメラを構えてシャッターを切る。「・・・カシャッ」

シャッターボタンを押してから数秒間の時間差の後に撮られたその記念写真には、涙をこぼし
てほほえむ少女と、ついこの前お医者様に余命を宣告されたばかりの老犬が写っていた。
sage