そこは崖だった。崖。何も無い崖。草しかない。
けどそこは本当に綺麗だった。
月明かりに照らされる水面。
遠くに見える町並みがきらきらと光っていて。
なにより花火が一番良く見える。
「綺麗だねぇ……」
「ああ……綺麗だ」
俺たちただその景色に見入っていた。
言葉を失っていたんじゃなくてそこには言葉など無かった。
「うふふふ。そこはさー美希の方が綺麗だって言うほうがいいと思うなぁー」
「いや、綺麗だよ。ここはさ」
「……人の話を聞け――」
美希はそこで言葉を切る。
最後の花火がうちあがったからだ。
赤、藍、緑、青、翠、紅。
同じ色のようで違う色。咲き乱れる花のようで。
そして最後に、最後の最後に枝垂れ柳の乱舞。
幾つモノの花火が重なりゆっくり広がっていく姿はこの世のものとは思えない幻想的なものだった。
「この景色でこの花火を見たこの夏の思い出ではこの二人だけの思い出だね」
とりあえず俺は花火を見たので美希の顔を見ずに返事をした。
「そうだなー。二人だけかぁ」
「そうだよ二人だけだよ。私たち二人だけの思い出。誰にもけがされない澄み切った思い出だよ」
「さすがに言いすぎだろ――」
苦笑して美希の方を向こうとした瞬間唇に感触が。
しばらくしてキスされたことに気づく俺。
ただ呆然と美希の顔を見ていた。
「ふふっ。言い過ぎじゃないよぉ~だからさ。今は私だけを好きでいてね」
感想はふにってしてた。
ていうか、美希は顔を紅くしていたものの目尻に涙を溜めていた。
「美希、お前」
「さ! 早く皆に会いに行こうよ。義弟君怒ってるんじゃないかなぁ」
大きな声で遮られてそれ以上俺は何もいえなかった。
帰りは静かだった。
ただ蝉の泣き声が煩かった。