Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「さぁ早く話しなさい忍の事をさもないとどうなるかわかってるんでしょうねとっとと話せって言ってんだろタコが殴るぞテメー。」
おばさんの口調がだんだん変わってきている。怖い。
僕が呆気に取られていると、少年が助け舟を…。


「おいこらにーちゃん。こっちはもうプロジェクトS発動してんだよ。おとなしく喋っちまった方が身の為だぜ。」
ここの家族でまともなのは…頼むぜおっさん!
「誰がおっさんだ!」
忍のテレパシー能力はおっさんの遺伝かーっ!!!


危ない。 此処に居たら何されるかわからない。
とっとと喋って帰ろう。
「かくかくしかじか。」
「なるほどなるほど。」
…ごめん。 省略ね。


「で、納得してくれましたか?」
「プロジェクトSには如何なる状況にも対応できるようになっているんだよ君!」
おっさんが言った。 だからプロジェクトSって何なんですか? と、思ってみる。
「それはだねぇ…。プロジェクトSHINOBU の略さ!忍の死の真相を暴くためには国家権力にも屈しないと心に誓った我らが家族の結束の証!」
大層な事だ。


「だ、そうだぞ。忍。」
「まぁ1度帰ってきましたから、プロジェクトの内容は知ってましたよ。」
知ってるなら言えよ!


しばらく僕と忍が言い合いをしていると、じっと僕を見つめる視線が三つ。
忍の声が僕にしか聞こえない事をすっかり忘れていた。


「忍…そこに居るんですか?」
今までとは打って変わって落ち着いたおばさんの声。
後の二人も黙って僕を見ている。


「え、ええ…。」
「忍…何か言ってますか?」
「えーっと…忍、何か一言どうぞ。」


「そうですね。えっと、私は元気ですよ。死んでるけど。あまり私が死んじゃった事、気に病まないでね。その代わり、私を殺した犯人、ちゃんと捕まえてね。」


僕はできるだけ忍の言葉をそのまま伝えた。
しかし、最初の方こそ目が潤んでいたのだが、最後の言葉を聞くや否や、目がギラギラと輝いていた。
まるで血に飢えた猛獣だ。 恐ろしい。


「ところで忍さぁ。」
僕は家族に聞こえないように忍に尋ねてみた。
「ハイ、なんですか?」
「お前なんで殺されたんだと思う?」
「動機ですか…?うーん。」

やっぱり、付き合ってたって言う男絡みだろうか。 怖い怖い。

「もしかしたら、買ってきたコーヒーが『つめた~い』だったからかも。」
それだ…。 |||I _| ̄|○ I|||I


そんなやり取りから10分後。
いつのまにか消えていたおばさんが何かを抱えて戻ってきた。
「割れたよ!ホシの居場所!」
何ぃっ!? 何て早いんだ!!
たった10分だと…? 連邦のM・S(マザー シノブ)はバケモノか!?


2分後。
家から引きずり出され、犯人捕獲隊特攻長として任命された。
『つめた~い』コーヒーで人殺すヤツに特攻?
僕に死ねと?
しかも僕はそもそも忍と喋れるだけで後は何の関係もないのだが…。
「君。そんな弱気な事を思っていてはヤツには到底勝てんぞ!」
オッサン、心読まないで。


そして、おばさんが突き止めた犯人の女の自宅に到着した。
息子がインターホンを押す。
「倉崎 忍の家族の者なんですが…。」
そう言った瞬間、インターホンの奥で物音がし、切れた。
僕がボーっとしていると、オッサンとおばさんに小脇を抱えられ、家の戸の前に。
そして突然後ろから息子のドロップキックが飛んでくる。
脆くも破壊され崩れ落ちる扉。 目の前にさえぎる物はなく、玄関が見える。


「さー行って見よー!」
言うが早いか、オッサンおばさんに思いっきり突き飛ばされる。
前につんのめりながら進み、4歩ほど進んだ時、僕の横にある扉が勢い良く開いた。
引き戸で良かった、と一瞬思ったが、それと同時に若い女が飛び出してきて、ぶつかった。

ガラッ ダッ ドカグサッ ドンガラガッシャーン。

何か嫌な音がした気がする。 やべぇマジ特攻気分。
A  ah~ なんか やべぇ感じ 花畑 goes to heaven♪(注:ロコローション@サビ)
唄ってる場合ではない。
空きっ腹に冷たい感触が走る。
目の前が暗くなった気がした。



気が付くとそこは…あの世? 真っ白な世界だ。
いや死にたくない死にたくない。
…死んでるからあの世にいるのか。 はぁ。
体に力は入らない。 目の前には白ばかり。
と、視界の隅に点滴の袋が見えた。 病院か…?


起き上がろうとすると、腹に痛みが走った。 どうやら手術をした後のようだ。
やはり刺されたらしい。
あの女、常に刃物を持ち歩いていたのか? 危なすぎだろ。
さっきまでは麻酔がかかっていたらしく、徐々に体が動くようになってきた。
首が動かせるようになったので、横を見てみる。 やはり病院だ。
と、そこに全く見たことの無い綺麗な女性が居た。 ここだけの話、僕の好みに限りなく近い。


肩ほどまで伸びた黒髪。 小さ目の顔。
明るい感じのブラウスを着ていた。
ベッドに隠れてあとは見えない。
誰の見舞いかと思ったが、どうやら此処は個室。
となると目当ては、僕。


「あ、気が付かれました?」
「え?あ、はい。なんとか。」
「良かった。いつもなら後30分もするとお医者さんが来てくれますよ。ちなみにナースコールのボタンは頭の上にありますよ。」
「教えてくれるなら、押してくれればいいのに。」
「何言ってるんですか。押せないから言ってるんじゃないですか。」
「…押せない?」


そういえば、どこかで聞いた事のある声だ。
つか、僕にずっと付きまとってた声だ。
「迷惑でしたか? やっぱり。」
「やっぱり、忍なのか?」
「何言ってるんですか。私以外に誰か居るのが見えてるんですか?」

冗談めかしたようににっこりと笑う忍。

「いや…お前だけ見える。」
「そうですか。それは良かった良かった…。…私が見える?」
「ああ。」


ゆっくりと近づいてくる忍。 何をする気なのだろう。
まさかトドメ?
「トドメだなんて…。 えへ。」
何その笑い。
手をのばしてくる忍。 首? 首絞めるの?
しかし、忍の手は僕の顔の方に伸びる。 触った。
その手は、暖かいとも冷たいとも形容しがたい感触だった。


「さわれた…。」
「何か変な感じが…。」
「嬉しい!!」
抱きついてくる忍。
こちらは避けようが無い。 ああなんか変な感触がする。
やっぱ幽霊なんだな、と実感した。 うぇぇ。
説明するのは難しいが、忍の体に薄い水の膜が張ってあるような感じがする。
感触があるのかないのかハッキリとしない。


「でも、なんで見えるようになったんだろ…。」
「そうですねぇ…。 同じ人に刺された仲間ということで。」
「そんなんで良いのか…?」
「良いじゃないですか。理由なんてどうだって。」


あの後、あの女は家族に取り押さえられ、あの女は忍の家族共々警察に連れて行かれた。
警察は、犯人の女より、家族の方に手を焼いたらしい。
まぁあんなトンでも家族、滅多にいないからな。



数ヵ月後。



「なぁ。お前なんでまだ居るんだよ?」
「何の事ですか?」
忍はまだ僕の家にいる。
やはり声が聞こえるのも姿が見えるのも僕だけらしい。


「いや、犯人はとっ捕まえたんだからとっとと成仏しろよ。」
「そんなこと言われても成仏の仕方なんてわかりません。」
「なっ…。」
「それに、今成仏したら、翔さんのことが未練に残っちゃいますから!残念!」
「ホントに残念!!だ…。痛い痛いヤメテヤメテ。」
「ばかぁっ。」


もう二度とあんなことはごめんだ。
まぁ、今はそれなりに楽しくやらせてもらってる。
忍、綺麗だし。
「どうも~♪」
ま、そうそう悪くもならないだろう。



…コイツの食費が異常にかかるのだけは別だが…。

第一話 終わり

       

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