Neetel Inside 文芸新都
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俺は先ほどまで繰り広げられていた事件を、痛む腹をさすりながら書いていく。



ー数時間前
俺は姉貴のワゴンRを発車させ、飲み屋へ急いでいた
初めは
「鉄火姉さん大丈夫かね、まあ俺が凹られなければそれでおkなんだけどねw」

位の気持ちだったが、信号待ちの合間に俺のハイパー妄想タイムが始まり
TIGにホステスの姉ちゃんのごとく言い寄られてる鉄火の姿をリアルに想像するにつれ
俺のアクセルを踏む足が次第に力強くなっていくのが自分でもよく分かった。


15分程で鉄火の話していた飲み屋に到着、我ながらナイスドライビング
イニシャルDも真っ青の坂道発進だったぜ。ワゴンRよ、御苦労さま。
そして店内に入りミッションスタート、奥の席に鉄火の綺麗なストレートヘアが見え
俺はそちらに急ぐ。

そこにいたのは鉄火、TIG、そして昼間のヒラメ顔のTIGの友達

TIG
「おぉー大蔵省お疲れ様やな、まあまあ、ほなこれよろしくなあw」

TIGが俺に手渡したのはその飲み屋の伝票、俺は戸惑いながらも受け取る。
鉄火は申し訳なさそうな顔を俺に向け、「どうしようもねえな、このTIGは」という視線でTIGを見た。

俺は鉄火の顔を見て、「ああ、本当にお金無かったんやな」という気持で伝票を持ってレジへ
鉄火はトイレに行ってから出るとのことだったので
残りの男二人は当然俺についてきた。

勘定を終え店を出て、裏の駐車場に出た。
人気は少なく、薄暗い。するとTIGが俺の袖を引っ張り
俺を駐車場の端に連れていく。

TIG
「何を急に色気づいてるねん、おぉー?」

TIGが俺の腹を振り向きざまに殴った。俺は息が詰まるが、体を折る事で痛みを堪えようとする。

「女にはええ顔してる癖に俺ら若い現場もんにはちっとも媚びひん(媚びない)なあ、おい」
また腹を殴られる。またも体をくの時に折ることで避けようとするが
襟首を掴まれているのでうまく避けられない。

「パソコンばっかり触ってよ、ほんまに働いとるかどうかも分かるかってんじゃ、なあ?」
また殴られる。とにかく息がつまって喋ることすら出来ない。

「それとよ~、『低脳』って、誰に言うてんじゃ?」
再度腹にTIGの拳がめり込む。口を開けてゲロに備えるが、唾液が出るだけだった。

そこまでやられても、俺にはやり返そうとか、逃げようなどという考えは浮かばなかった。
俺は中学校の時分にDQNなクラスメートの妙案により
クラスの連中から1年間無視され続けたという悲しい経験があったせいもあり、
DQN耐性というものが極端に低くなっていた。
それも、高校時代の「ネクランティス」命名のバックボーンともなっていたのだが。

とにかくいつまで続くのか、この拷問のような仕打ち。
だが涙目と涎にまみれてひたすら耐えていると、
ブーツのガッツガッツという音と共に鉄火が俺とTIGを引き離しにやってきた。
俺の目には彼女がジャンヌダルクのように高潔で勇ましい女性に見えた。

鉄火
「いい加減にしないと会社に言いつけるからね!!TIG!」

彼女の眼は怒りに吊り上がり、TIGを今にも刺し殺しそうな勢いだった。
俺の頭はこのような状況であったにも関わらず、意外に冷静で

「なんでこの姉ちゃん、俺なんかかばうんやろう?謎や」
と少しズレた感想と疑問を頭に浮かべるのだった。


鉄火
「私が関西で一人で頑張ってるんだから
 この子もがんばってるんだから邪魔とかするのって最低!!」

彼女がどのような心境でそんなことを口走ったのかは分からない。
とにかく、俺は彼女に守ってもらい、TIGも俺をそれ以上殴ろうとはせず
こいつは忌々しい、という顔つきで俺を見るだけだった。

鉄火は俺の皮ジャンを引っ張り、俺のワゴンRの方へ俺を導く
そして俺がキーを廻し、混乱した頭で軽くふるえながら運転を始めると

鉄火
「なんでさ」

「へっ?」
鉄火
「なんでそんなに迎えが遅いの?馬鹿なの?死ぬの?」

「いやー仕事が」
鉄火
「あんだけ私待たされてさ、ずっとTIGの横でくっだらない話聞かされてさ
 君が来なければ私ずっと拷問だったんだよ?」

「いやーハハハ、すんますえん」
鉄火
「何その謝り方、めっちゃ腹立つんだけど」

「ま、まあ勘定も済ませたし迎えに来たから勘弁してって話」
鉄火
「絶対TIGに払わせるってえの!」

そして駐車場を出ようとするとTIGが俺の車に近づいてきて、こちらに向かって唾を吐いた
姉貴の車だったので非常に腹が立ったが、相手はTIG、俺にどうする事も出来るはずもない。
とにかく、鉄火の助けもあり俺は窮地を脱し
彼女とのしばしのドライブを楽しむのだったー



       

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