Neetel Inside ニートノベル
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突然ですが、世界を救って下さい。
どういうことなの…-08

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「解るか!」
 と怒鳴りながら退行しなかっただけでも上出来である。理解の有無を判定する前に、僕の暗記力に賛美の言葉の一つや二つ与えても罰など当たらないと思われるが、いかがだろうか?
 当然。
 理解など、出来る訳が無い。ルービックキューブがどうたらこうたらの話をしている時点で、宛ら危うい宗教の勧誘文句を延々と聞いているような気分だった。
 だがしかし、解らないものを解らないまま放置してしまえるほど知的欲求に乏しいのかと言えば、存外そうではない。
 この後、何度も何度も梔子高やポポロカに同じ台詞を反芻してもらいながら、僕は僕なりに今回の事象をまとめたのだ。当然というのもなんだが、梔子高や、ましてポポロカほど理解らしい理解をしたのかと問われれば、決してそんなことは無いのだが、それでも要点の一つや二つはまとめたつもりである。
 つまり、だ。
 ポポロカやハユマは、僕達の世界とは違う世界の存在である。
 同二名は、〈ンル=シド〉と呼ばれている奴を倒すなり何なりすることが目的である。
 その〈ンル=シド〉とやらは、世界を好き勝手弄ったりすることが出来る。
 同二名がこの世界に来たのは、〈ンル=シド〉に元の世界からこっちの世界にぶっ飛ばされたからである。
 こんな感じ、だろうか。
 難解さの一点で言えばヘーゲル哲学と肩を並べるであろう超論文を、僕なりに解読したものであるため、正しい情報と比べれば齟齬の一つや二つは発生するだろうが、そんなものは知ったことではない。
 何故ならば、だ。

 そんなものが、信じられるか?

 パラレルワールド?
〈ンル=シド〉に〈エティエンナ〉?
 こっちの世界に飛ばされた?

「馬鹿馬鹿しい」と、その問題に対して感想を述べることすら馬鹿馬鹿しい。作家志望の中学二年生だって、もう少し練りの利いたシナリオを書けるのではないか?
 結局、天照町とは違う町からやって来たとか、或いは日本ではない場所からやって来たとか、そんなレベルの話ではなかった。違う世界と来たもんだ。世界の区切りってどこらへんでつければいいのだ? アンドロメダ星雲辺りだろうか?
「そんなものは嘘っぱちだ」と、タカを括った。梔子高も梔子高で、きっと心底信じてはいない筈だ。本当だろうが嘘だろうが、何となく面白そうだからとりあえず傍観していよう、くらいのことは考えているのかもしれない。
 そう、傍観だ。
 今回の件に関して、僕らは何の関係もないし、どうしたって関係しようがない。
 仮に、梔子高やポポロカの言っていたことが一言一句すべて真実に基づいたものであったとしても、それは飽くまでポポロカ達の世界の問題であり、そこに僕達こちら側の世界の人間が介入する余地も無ければ、介入の仕方すら解らない。ポポロカの口ぶりからして、おそらくこの世界に飛ばされたのも、何かしらの理由があったからではなく、本当に偶然の産物なのだろう。
 だから僕は「馬鹿馬鹿しい」で一蹴出来るし、梔子高はいつものように斜に構えた微笑を崩さずにいられる。尤も梔子高に関しては、ポポロカ少年に衣食住の一切を提供する事になっているわけだが、それはそれで本人にとっても「なんちゃってお姉さん」という役得があるらしいので、ギブアンドテイクの範疇に収まるのだろう。
 どうあれ、起承転結のどのシーケンスに於いても、僕や梔子高がその騒動に首を突っ込む事になることは無いだろうし、仮に関与したとしても、それは宛ら「ここは○○村です」の一言に存在意義のすべてを詰め込んだ村人F程度のものだろう。もしかしたら梔子高の位置付けであれば、旅先の宿くらいの需要はあるのかもしれないが、結局それも同様に、事態に深入りする役どころではないと思われる。
 なら、せいぜい楽しませてもらおう。
 一種の観客参加型の辻演劇なのだと思い込めば、幾らかは割り切ろうという気にもなる。当人の了承無しに好き勝手に巻き込むのもご勘弁願いたかったのだが、不意打ちの如く乱入させてくれやがった以上は、元をふんだくる勢いで楽しませていただきたいものだ。梔子高は既にそのスタンスを確立させているようだし。
 そしてもし、仮にだ。
 万が一……否、億が一。それが、本当だったとしたら?
 パラレルワールドだか〈ンル=シド〉だかの、そういう筋書きの一切合切が、嘘偽り無い信実だったとしたら?
 決まっている。
 何ら変更は無い。傍観一筋だ。

       

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