Neetel Inside 文芸新都
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あきらめろ
あきらめろ

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何とも奇妙奇天烈だ。草木も眠る丑三つ時。蝉が鳴いている。
私のアパートの近所の並木道に根を下ろすキンモクセイの老木で蝉が鳴いている。

みんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみん

むしむしとした暑苦しい熱帯夜。何時まで経ってもネオンの妖しげな輝きが消えない眠らない街東京。

みんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみんみん

蝉は昼も夜も区別がつかないくらいに感覚が狂い始めているらしい。
しかし、それは今に始まったことではないと思うけれど。
昼夜も問わず鳴きまくると彼らの寿命はそれに反比例して短くなってしまうらしい。

よく近所で地面でのたうち回る今にも天に召されようとしている蝉をみかける。

じーじじー じーじじー じーじじー じーじじー じーじじー

もう木にしがみついて夏の日差しに抗うように文字通り必死に鳴いて自己主張をすることが
できなくなるまで彼らは最後の最後まで羽をじたばたさせながら鳴き続けている。

じーじじ じーじじ じーじじ 

今日私は一日のバイトが終わり自転車を押しながらトコトコと家路を歩いていた。
ふと足元に視線を落とすと地に落ちた蝉が最期を迎えようとしているのを見つけた。
ふと私はその場にしゃがみ込んでその様子を観察した。案の定その蝉は私の目の前で
のたうち回っていた。

じーじじー じーじじー じーじじー じーじじー じーじじー

苦しいのか。そんなにまだ鳴き足りないのか。羽や手足をジタバタとしているその蝉の姿を見ると
急に私の胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。
あきらめるな。言葉には出さなかったが私はその蝉にせめてものエールを送っていた。

じーじじ じーじじ じーじじ じーじじ

私はアパートの自室に着くと、帰る途中に自販機で買ったペットボトルのお茶を
カラカラの喉に流し込んだ。そういえばあの蝉は暗い夜道にポツンと佇む自販機の下で
のたうち回っていたっけか。

じーじじ じーじじ じーじじ

むしむしとした暑苦しい熱帯夜。何時まで経ってもネオンの妖しげな輝きが消えない眠らない街東京。
今頃あの蝉はのたうち回ることをやめて、覚めることがない眠りに落ちたのだろうか。

じーじじ じーじじ

近所のキンモクセイの老木では相変わらず蝉が鳴き続けている。

もう あきらめろ。

私は一気にペットボトルのお茶を飲み干し、誰もいない部屋の中でなぜか怒鳴っていた。

あの蝉たちのように、きっと私自身も昼も夜も区別がつかないくらいに
感覚が狂い始めているのだ。

じーじじ ………じっ 

   


       

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