「ナミ、帰るよ」
「……? はい」
しおりを丁寧に挟むとナミは立ち上がって辺りを見回す。
「これは、何の騒ぎなの」
「はは……凄い集中力だね」
ナミはそう問い掛けつつ、タクヤの話しを聞きながら授業道具をしまっていく。
「事態は把握しました。でも、いいんですか」
「なにが?」
タクヤの問いに、ナミは一瞬面を食らったように目を瞬かせた。
「……いえ、何でもありません」
「うん?」
「タクヤ、はやく行きましょうよ」
鈴音は金のテールを舞わせて、確かな処女臭を漂わせながらタクヤの腕に抱きついた。
「(処女臭? 何を考えてるんだ僕は……)」
鈴音に連れられて、廊下へ出ると待っていたのは滝川 綾女の姿だった。
「た、タクヤ君は今から帰るの?」
「え、うん」
「それなら、私も一緒にいいかしら」
「ダメに決まってるでしょ」
鈴音はドスの利いた声で言った。
「……」
綾女の眼孔に一瞬鋭い光が走る。
「まぁ、いいんじゃないか。外は物騒なのに変わりはないんだし」
「ありがとう!」
綾女は可愛く顔を綻ばせた。
「なんだか静まり返ってるね」
僕は辺りを見回して言う。というのも、鈴音の綾女は決定的に相性が悪いらしい。
僕が喋らないと、二人はすぐに衝突してしまうのだ。
「確かにもう夜のような静けさね」
「昼間にしてはおかしいかも」
立ち並ぶデパートからは物音一つ聞こえない。
空は曇り始め、立ち並ぶビルが陰湿な影を作り出すと、辺りはいよいよ不気味に演出された。
「あ、あの、私の家こっちだから……」
綾女はどういうわけか、来た道を指さした。