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リベラル・ハート・ファミリー
第一話③ かぜのつよいひ

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第一話③ かぜのつよいひ

 好き。
 好きです。
 好きなんです。
 大好きです。
 昔も、今も。
 そして、きっと、これからも。

「むかしむかしあるところに、いっぴきのかわいそうなこぶたがいました……」
 夕方、暗い部屋。
 れいんは、桜子のために童話を読む。
 それは十七世紀、ヨーロッパのある童話作家が書いたもの。
 日本での題は、“かぜのつよいひ”。
 優しく、静かな声で、れいんは歌うように読む。
「このひ、そとはつよいかぜがふいていて、たまたまそとにでていたこぶたは、ふきとばされそう
になっていました。ぴゅーぴゅー! うわあ、とばされちゃうよぅ! かぜは、こぶたがうきあが
ってしまうほどにつよいのです」
 桜子は、グズらずに聴いている――ように、れいんには思えた。それが嬉しかった。
「こぶたは、がんばって、がんばって。おおきなきのかげまでたどりつきました。ここから、きが
かぜからこぶたのそのちいさなからだをまもってくれます。もうあんしんだと、こぶたはそのばに
すわりこみました。ピューピューピュー! かぜはつよくなるばかりです。こぶたはきのしたから
はなれられません。こぶたは、じっとしているのがにがてです。だんだんとたいくつになってきて、
そのうちにまわりをきょろきょろと……ん?」
 れいんは、桜子の静やかな寝息に気付いた。
「寝ちゃったかー、そうか。ちょっと退屈だったかな? この話、盛り上がるのが遅いんだよね
え」
 そう言いながら、絵本を閉じる。
「明日は、この続きから読もう」
 その様子を、ふすまの陰から見ている眼があった。
 それは、長男の雄馬だった。

 雄馬は家を出た。
 少し、目に涙を浮かべながら。
 涙はそれだけに止まらず、口からも音を漏らさせる。
 次第に、それは号泣と呼ばれるべきものに変貌していった。
 おかあさんは、もうぼくのことすきじゃないんだ。
 そう、呟いた。
「なら――」
 声がした。
「お姉ちゃんの子供になる? 雄馬くん」
 姿は、夕陽に隠れていた。
 雄馬は、その聴き憶えのない声の主に、叫んだ。
「やだ!」
 そして走り去った。
「…あたし、馬鹿だ……本当に、馬鹿」
 美貴は、涙も流さず泣いていた。

       

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