山菜
2.兎
2-1.何か聞こえる。
「お父さんが好きだったんだね」
誰かにそう尋ねられて落ち葉に埋まったまま頷いた。
起き上がって顔に付いた緑虫を払い落したが、目の前には肉棒が生えているだけで他に誰も居なかった。
僕はまた歩き出した。
闇は行くほどに濃くなり、ついに足元まで見えなくなった。
心の太陽をずっと見つめている性で目が闇に慣れるということもなかったから、壁に手を突いてゆっくり進んだ。
小腹がすいたのできのこを食べた。きのこの味がした。僕はマヨネーズを切望した。
「マヨネーズ、マヨネーズが空から降ってきますように。そのためなら僕は何だってしよう」
森はどこまでも続き終わりなど無いように思えて僕は疲労に飲み込まれた。
疲労はこの森のように大きな口を開けて僕が落ちてくるのをいまかいまかと待ち望んでいる。それは生き物のようにうねりながら生暖かい空気を吹き付けた。
森は違った。森はただ無機質に続き僕がいることなどまるで関係がないように振舞っていた。
不気味だと思っていた肉棒や奇妙な植物はただそこに生えているだけで侵入者である僕を迎えも拒みもしなかった。
恐怖を与えていたのが自分自身だったことに気づくと僕はこの森が頼もしい兄弟か何かのように思えた。
僕が疲労によって引き込まれそうになったとき「大丈夫だ。こっちへおいで」と、やさしく見守ってくれる兄弟のようで、誘われるまま足を動かした。
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