Neetel Inside ニートノベル
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はんぶんこ

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 男がいた。一人だ。女もいた。これも一人だ。世界には二人だけしかいなかった。昔は人がたくさんいたのかもしれないし、最初から二人だったのかもしれない。それはわからないけど今は二人しかいなかった。
けれど二人は仲がわるかった。顔を合わせれば悪口を言い、罵り合いの喧嘩をした。
「ここからこっちは俺の土地だ。だから入ってくるなよ」
ある日、二人は世界を二つに分けた。右半分は男の世界、左半分は女の世界。
右半分には山がたくさんあった。木の実や果物がたくさんとれた。全部男のものだ。
左半分には海があった。魚がたくさんとれた。全部女のものだ。
男は魚を食べられなかったし、女は果物が食べられなかった。自分の土地にはなかったから。
世界は広かったけど二人の家は近くにあった。だから二人はすぐに喧嘩した。
「あーぁ、どうして俺は毎日こんな汚い女の顔を見なけりゃあいけないんだ」
家から出てきた男は家の前で洗濯ものを干していた女にむかって言った。
「文句があるなら引っ越しちまいな。あんたみたいな根暗な奴は山にでもこもっちまいな。そうすりゃあ、あたしもあんたの薄気味悪い顔を見なくてすむ」
女も負けじと言い返した。そうするとまた男が言い返す。それをうけて女が言う。男が。女が。延々と二人は悪口を言い合った。
お互いはお互いの事をほとんどなんでも知っていた。相手に言い負かされまいと悪いところを見つけることに必死だったからだ。
ある日女はピクニックに出かけた。左半分の世界の端っこに岬があった。切り立っているので崖と言ってもいいかもしれない。
女はそこが好きだった。色とりどりの花が咲き、あたり一面を埋め尽くす季節がある。どこからか真っ白な羽毛の美しい鳥が飛んでくる季節もある。
でも、女が好きなのはそこから見える海だった。太陽の光が反射して、たくさんの宝石がちりばめられたようにきらきらするのだ。
女がきらきらの海を見ようと体を乗り出すと、足がすべって落っこちてしまった。
女は下まで落ちなかった。運よく出っ張りがあったからだ。そこは自然の穴倉ができていた。
「これなら雨風は防げそうね」
 女はそう思った。ところが落っこちたショックから我に返ると、そんなことは重要じゃないことに気がついた。
 女は上まで登れるだろうかと考えたがすぐに諦めた。崖の側面はとても登れそうになかった。
 ぎゅるぎゅる。お腹の虫が悲鳴をあげた。女はこんな時でもお腹が空くのかとあきれた。
 ピクニックに持ってきたお弁当では少しずつ食べても三日と持ちそうになかった。
 女がピクニックに行った日の夜だ。男は女の家の明かりがついていないことに気がついた。けれど男は気にとめなかった。
 女がいなくなってから一日が経ち、二日が経った。
 男は女の世界に行ってみることにした。境界線を越えるのは何時ぶりだろうか? と思った。
 男は色々な所を回った。そのうちに崖にきた。物音がするので崖の下をのぞいてみると、岩の出っ張った所に女がいるのがみえた。
 どうやら落ちてしまったらしい。少しやつれた女を見て助けてやろうと思った。
 ちょうどその時、女は男に気付いた。助けを求めようとしたけど、口から出てきたのは悪口だった。男は女の態度に腹が立った。ひとしきり悪口を言い合うと、男は帰ってしまった。
 女はひどく後悔した。あんなことを言うつもりではなかった。条件反射だった。
 男は帰り道の間ずっと悪態ついていた。死んでしまえと思った。
 男は家に帰ると納屋からロープを取り出した。あんな奴でもいなくなったらさびしいと思ったからだ。
 女は再び現れた男に泣いて謝った。
 二人は家に帰るとまたもとの生活に戻った。
 右半分は男のもの。果物の右半分は男のもの。魚の右半分も男のもの。
 左半分は女のもの。魚の左半分は女のもの。果物の左半分も女のもの。
 ただひとつ変わったのは、世界が半分じゃなくなったことだ。

       

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