Neetel Inside ニートノベル
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MTG戦記
第三章:邂逅

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 4人で戦ったあの日から、およそ1ヶ月程経った頃、俺たちは再び参集した。
互いに新デッキを用意して・・・

「いよう!今日という日が待ち遠しかったぜ!」

山田がご機嫌そうに言う。
俺含む3人は山田ほど素直に反応はしなかったが、互いに同じ思いのようだ。

「全員、新しいデッキを用意したようだな?」

「おう!」

「まあね」

「そうゆうお前も用意したんだろ?」

中島がニヤニヤしながら尋ねてくる。

「もちろんだ」

各自、デッキケースからデッキを取り出す。

「早速始めようぜ!席順は・・・このままでいいな!」

このまま、というと、俺の向かいには・・・

「荒木か。丁度いいな」

「何が丁度いいんだ?」

「なに、前回は負けたまま時間切れだったからな。ここで勝って流れを変えさせてもらうよ」

「お、言うねぇw」

談笑しながら準備に取り掛かる。
隣はもう既に始めてるようだ。

「俺たちも始めようか、さて、俺のダイスの目は・・・3か」

荒木がダイスを振ったのに対し、俺も振る。出目は4。

「俺の勝ちだな。先攻を貰おう。手札は・・・OKだ」

「俺の手札は・・・OK。やろうか」

俺の手はかなり良かった。

「いきなりこのコンボが出来るとは思わなかった。沼をセット、0マナで「睡蓮の花びら」を
プレイ。さらに、「暗黒の儀式」をプレイし、睡蓮を生贄で4マナ、「センギアの従臣」を
召喚」

「・・・それってまさか」

「そう、「センギアの従臣」の能力、場に出た時に、3体のトークンを出す。これを利用し、
クリーチャ3体を生贄にすることでマナコストを支払わず、「デルレイッチ」を召喚する。
強襲デルレイッチだよ」

「黒コントロールか・・・」

俺は1ターン目から6/6のトランプル持ちクリーチャの召喚に成功した。

     


 黒コントロール。名前の通り、色は黒を基調としたコントロール色の強いデッキ。
黒単の場合もあれば、タッチで他の色を加えたものもある。
俺の今回持ち出したデッキは、基本的なパーツが揃っていた為、黒単一で構成されている。

「あのピットサイクルを瞬殺したコンボか・・・、正直、もうやりたくないんだが・・・」

 ピットサイクルとは、当時最強と謳われていたコンボデッキのことだ。
とある大会の準決勝、そのピットサイクルは強襲デルレイッチのコンボで瞬殺されるという
苦い記録を与えられた。
 強襲デルレイッチ自体は、非常に大味なコンボだが、墓地利用以外で大型クリーチャを召喚
する、という意味では、今でもかなり早い部類だと思われる。
もっとも、効率はあまり良いとは言えないが・・・

「よし、決めた!」

「どうした?」

「次、除去引けなかったら諦めるよ!」

爽やかな笑顔で言われた。


「そ、そうか・・・」

 そして次のターン。荒木は引いた瞬間に、手札をデッキに加えてシャッフルを始めた。
色々と終了したらしい。

「さあ、次、次。そんなコンボがそう何回もうまくいくと思うなよ?」

「それはもちろんだ」

俺も展開したカードを引き上げ、シャッフルを開始する。

(まあ確かに、今のはうまく行きすぎだった。正直、確率的にはかなりの低さだったろう)

「あ、負け先もらうよ」

「わかった」

 負け先とは、負けた側が先攻をもらう事。ちゃんとした用語かは知らないが、広く使われている
言葉だ。



・・・10分後。



「ははは、ひどいなぁ・・・」

「まあ、これが黒だろ・・・」

 俺は初手、「暗黒の儀式」から「惑乱の死霊」をプレイした。これは通称A定食と呼ばれる。
「惑乱の死霊」は2/2の飛行クリーチャだが、対戦相手にダメージを与えた際、手札からランダムで
1枚捨てさせる能力を持っている。荒木はこれで2ターン目、土地を捨てた。
不幸なことに、それで手が止まってしまったらしい。そしてさらに不幸は続く。

5ターン目。

「「強迫」をプレイ。手札を見せてくれ」

「もうヒッピーでお腹いっぱいなのに、まだ捨てるんだ・・・」

ヒッピーとは「惑乱の死霊」の通称。

「いや、まあどうでもいいんだけど、手札を見たくてな」

「強迫」は相手の手札を見て、クリーチャか土地以外のカードを捨てさせる。
俺は荒木の手札から「再活性」を捨てた。

「まあ何もないことはわかったよ。「暗黒の儀式」をプレイ、沼2枚タップで「憎悪」をプレイ
ライフを10点払う」

「・・・ひどい」

「憎悪」は支払ったライフ分だけクリーチャのアタックを強化するインスタント呪文だった・・・

     



「「憎悪」とか危険すぎるよ・・・。しかもそのデッキに採用するか普通?」

「うん、まあ「憎悪」については最後の一手、押し込みように入ってるだけなんだ。そもそも、
これって前のシャドーデッキなんだよ基本。アタッカーとか入れ替えただけ。なんなら、あっちに
切り替えてもう一戦するか?」

「いや、遠慮しておく・・・。丁度隣も終わったみたいだし、組み合わせ変更だな」

隣を見ると、二人は丁度、場を片付けている所だった。

「そうだな。よし、中島、この前のリベンジをさせてもらおうか?」

「いいぜぇ?できるならな?」

「強気だな・・・。ちなみに今の試合はどうだったんだ?」

その質問に山田が答える。

「1勝1敗だよ。一矢は報いたんだがな・・・。さっきの試合、見てたか?」

「いや、割とテンポが良かったからな。あまり見てなかった」

「・・・そうか。気をつけろよ?きっと嫌な思いをすると思う」

「山田ぁ?ネタバレは無しだぜ?」

山田がデッキの詳細を漏らす前に、中島は山田に釘を刺した。

「まあいいさ、とにかくやろう」

「ああ」

お互いにデッキをシャッフルする。

(あのスリーブは・・・ナイトメア・サバイバルか?)

 スリーブとは、カードを保護する為の薄いカバーだ。通常はこの、スリーブに入れた状態で
対戦を行う。スリーブには様々な種類があり、カラフルなもの、透明なもの、分厚いものなど
が存在している。このスリーブの色などを統一せずに使用していると、身内同士の戦いでは、
どのデッキを使ってくるかがバレる。

「ダイスは・・・俺の勝ちだな。もちろん先攻を貰おう」

「チッ!俺はさっきの試合見てたぜぇ?ご機嫌なデッキじゃねぇか?」

「同じデッキとは限らないぞ?」

「そうかい。俺もOKだ。始めてイーゾ?」

「ああ。セットランド沼。タップで「強迫」をプレイ」

「やっぱそれじゃねぇか・・・」

悪態をつきながら、こちらに手札を寄こす。

「じゃあ、この「適者生存」を捨ててもらおう」

「ハイハイ、わかっていましたよっと」

俺は中島に手札を返した。

(森、沼、「極楽鳥」、「宝石鉱山」、「花の壁」、「根の壁」。悪くない手だったな。初手に
「強迫」があったのは助かったな)

 俺のエンド後、中島はドローし森から「極楽鳥」を出してエンド。再び俺のターン。

「ドロー、セットランド沼、黒1マナ生んで「暗黒の儀式」をプレイ、ヒッピーを召喚。エンド」

「来やがったなぁ?」

 パッパラこと「極楽鳥」、ヒッピーこと「惑乱の死霊」は共に、見たら即焼け(除去)と言われる
部類。俺はもちろん焼くつもりだが、中島が焼くのは難しいだろう、と思う。恐らく、中島の
除去手段は「ネクラタル」「悲哀の化身」などと予想。ネクラタルであればヒッピーには効かないし、
悲哀であれば即使用することはできないため、なんとかなる。

「ドロー、セットランド「宝石鉱山」、森とパッパラのマナで「根の壁」出してエンド」

まずはマナ基盤からということらしい。「花の壁」を出せばカードを1枚引くことが出来るが、
次に来るヒッピーの攻撃で、最悪落とされる確率も有るからだろう。
とは言っても、リアニメイト相手じゃ、それが手助けになる場合も有りうるが・・・

「ドロー、セットランド沼、ヒッピーアタック。OK?」

「あ~、ん~、仕方ねぇ、通す」

「OK、じゃあ「暗黒の儀式」、「憎悪」で。ライフの支払いは18で」

「チッ!有りやがったか・・・」

 さっきからかなり回りが良い。相手の手札にも依存するが、ここまでうまく決まると気分が
良かった。

「あーあー、良かったねぇ。俺はデッキを変えさせてもらうぜぇ」

「わかった」

とても憎たらしい態度だが、コイツはどこか憎めないキャラであった。

「次は山田に高評価だったデッキでいくぜぇ~。たっぷり楽しんでくれや」

そういって中島は鞄からデッキケースを取り出した。


     



(なんだ・・・?どんなデッキだ・・・?)

非常に怪しい雰囲気が漂っている。

(できれば初手「強迫」で確認したいところだが・・・)

 しかし、期待は外れ、初手に「強迫」は無かった。その上、後攻と幸先が悪い。


「セットランド島、エンド」

「青か・・・」

なおさらの事「強迫」を撃ちたかった展開だ。

「セットランド沼、エンド」

「エンド前に「渦巻く知識」をプレイ」

基本的な青の動きである。
青は基本的にドローサポートに秀でているが、「渦巻く知識」はその中でも優秀かつ、ポピュラー
なものだ。

「じゃあ、俺のターン、でドロー、セットランド島、2マナ生んで「吠えたける鉱山」、エンド」

「ハウリングマイン!?」

色々な可能性が浮かんでくる。

(ライブラリーアウト狙いか?恐らくはターボ系だと思うが・・・)

「相手が黒単じゃなかったら出さなかったろうがな?出たアーティファクトに対処できるか?」

 そう言ってニヤリと笑う。
 「吠えたける鉱山」は各プレイヤーのドロー時に、追加で1枚引くことができる。出せるタイミング
の都合上、相手は次ターン何もせず追加ドローを出来る上、その後も常に追加ドローが発生する。
その為、そういったアドバンテージ差を補えるデッキに採用されるのだが・・・

「ドロー・・・セットランド沼、「暗黒の儀式」をプレイ、沼タップで黒4マナ生んで「センギアの
従臣」をプレイしてエンド」

「おやおや、「デルレイッチ」は出ないのか?早く攻めないと厳しくなるぞー?クックック・・・」

 言われなくても分かっているが、どうにも手が良くない。土地があったから始めたが、マリガン
をすべきだったかもしれない。

「ドロー、セットランド島でエンド」

この後、数ターンはお互いに動きは無く、俺は「センギアの従臣」によるアタックをしていくだけ
だった。ヒッピーを出そうとしたが、当たり前のように打ち消された。

「そろそろ動くか、島3つタップ「時間の名人」召喚。エンド」

「「時間の名人」・・・?」

 嫌な予感がする。想定外なクリーチャだったからだ。危険な臭いがプンプンする為、除去に走る。
しかし、二回放った除去はいずれも打ち消されてしまった。

「残念だなぁ、しかもフルタップ。いやぁ残念残念。俺は「停滞」を使わせてもらうぜ?」

「ステイシス・・・!?」

 俺の反応に、中島が例のごとく陰のある笑みを浮かべる。

「さあ、悪夢の始まりだ」

     



 停滞(ステイシス)。実はこのデッキの詳細を詳しく知っているワケではなかった。
鬱になる、だのと感想は聞いた事があるが・・・

「ステイシスについてはあまり知らないんだが・・・その性能、なるほどな」

「お、知らなかったのか?じゃあたっぷりと体験するといいぜ?」

 「停滞」は青1無色1のエンチャント。性能は、各プレイヤーのアンタップ・ステップを飛ばす。
というもの。今の俺の場はフルタップ。ようするに起こすことができない。これだけ嫌らしい性能
を持つのだから当然デメリットはある。アンタップフェイズの後に存在するアップキープフェイズ。
この開始時に青1マナを払えなければ「停滞」を生贄に捧げる必要がある。

「いや、なんとなく分かるぞ。その「時間の名人」で自分だけアンタップするってことだろ?」

「ご名答!だがそっちにもまだチャンスはあるぜ?土地は出せるからな。出した土地から除去でも
撃てば、もしかしたらロックから抜けれるかもなぁ?」

そんなものは通さないがな、とでも言いたげな顔をしている。俺自身も通せる自信が無い。
刹那系が来ればあるいは・・・とも思うが。使用マナ3はネックだった。
そんな俺を見透かすように、

「しかしあれだな、そのデッキでそれだけ土地出てるってことは、そろそろ息切れなんじゃないか?
ククク・・・」

そう、俺はいわゆる土地事故に陥っていた。周りが良ければここまで不利な展開にはならなかった
かもしれない。しかし、前の試合の反動か、恐ろしく動きが鈍い・・・。「吠えたける鉱山」が
出ていながらコレは、非常にマズイ。

「じゃあエンドだ?さて、どうなるかねぇ?」

「・・・」

俺のターン。引いたのはデルレイッチ。こんな時こそ「渦巻く知識」が欲しくなる。
そしてそのまま何もできず2ターンが過ぎる。

「そろそろ削っていくぜ~。「鉄の処女」をプレイ」

 「鉄の処女」、各対戦相手のアップキープ開始時、そのプレイヤーの手札引く4のダメージを与える
アーティファクトだ。手札が常に溢れてる状態の今の俺では、毎ターン3点ずつダメージを受ける
ことになる。

そして次のターン・・・

「「凍りつく霊気」をプレイ。これでほぼ何もできないぜ?」

 「凍りつく霊気」は、対戦相手の土地、クリーチャ、アーティファクトが場に出る際、タップ状態
で場に出させるエンチャント。つまりは何も出来なくなったというわけだ。

「なるほど、これは確かに欝になるな・・・」

俺は少し迷ったが、

「投了だ」

「睡蓮の花びら」なら抜けれるか?と思ったが、アレもタップをしてマナを出す。抜け道は無かった。

「フフン♪少しは気分が良くなったぜ」

 こっちは大分沈んだがな、と心の中で溜息をつく。

「お、どうやらやられたみたいだな?」

 隣で戦っていた山田が顔を向ける。何故かうれしそうな顔をしているのが嫌な感じだ。

「そのデッキは相性次第だよなぁ・・・」

(相性自体はそこまで悪いとは感じなかったがな・・・)


「まあいいや、次は俺とやろうぜ?」

「ん、そっちはどうだったんだ?」

「山田の勝ちだよ。速度負け」

荒木がやれやれ、といった感じで答える。

「そうか、じゃあ席を替えて、山田を倒して憂さ晴らしをするかな?」

「上等!さらに凹ませてやるぜ!」

お互いに席を立とうとする、

ドン!

その瞬間、誰かに机を蹴られた。

「ハイハイ!素人はもうすっこんでねぇ!今からここは俺らのスペースだ、さっさとどけ!」



――――俺達は、いつの間にか、ガラの悪い連中に取り囲まれていた。


     


(なんだ・・・?コイツ達・・・)

 俺達に絡んできた男達は5人。格好こそそれぞれバラバラだったが共通している部分があった。
「GLP」という文字の刺繍が入った腕章だ。

「なんだ!?その言い方は!てめぇら何様だ!」

山田が食って掛かろうとする。それを荒木が制した。

「やめとけ山田、コイツ達、GLPだ・・・」

「そう、GLP様だ。プロだよプロ!しかもこの店はGLP系列、俺達はこのデュエルスペースを使う
優先権を持ってるんだよ!わかったらさっさと退きやがれ!」

 「GLP」。ここ数年で勢力を広げてきたプロ集団だ。少なくとも、俺達が現役だった頃には存在
していなかった。しかし、その在り方や、評判の悪さから、俺達の耳にも情報が入ってきていた。
 納得のいかなそうな顔をしている山田を宥め、俺達は席を立つ。周りの視線を集めるかたちに
なってしまった。「またアイツ等かよ・・・」「うぜぇ・・・」等という小声での会話も聞こえて
くる。

「チッ・・・、これじゃあ俺達が悪者みてぇじゃねぇか」

 GLPの一人が毒づく。

(どう見て悪者な気がするが・・・)

 その男の呟きを聞き、もう一人の男が「ふむ」と、

「空気を悪くしてしまったな、どうだろう?そこの4人」

俺達を指差して言う。

「君達にも悪いことをしたし、私達と対戦しないか?なに、プロ相手だからといって畏まらなくても
いい。手合いの金も取ったりしない。一種の「お遊び」さ。そうだな、この席の使用権でも賭けよう
じゃないか?」

 俺達は顔を見合わせ、小声で相談を開始する。

「どうする?」

「悪い話じゃないが・・・」

「しかし、相手はプロだぞ?なんの用意も無しじゃ分が悪い。それにフォーマットはどうする?」

すると、先ほど提案を出してきた厚底メガネの男が、

「おっと、こちらも素人相手にハンデ無しでやろうと言うほど鬼じゃない。そうだな、先手後手の
選択権、こちらが後手だった場合はドロー無し。さらに、そちら最初のマリガン後は7枚でいい。
フォーマットは君達に任せるとしよう」

かなりの好条件だった。

「俺はのるぜ、あいつ等の態度には腹立ってるからな」

「俺も異論はねぇな。鼻っ柱へし折ってやる」

山田と中島はやる気満々だ。俺と荒木は顔を見合わせてから頷く。

「わかりました、やりましょう。フォーマットはレガシーですが、宜しいですか?」

フォーマットとは、格闘技などの階級のようなもので、使用できるカードの種類や、ルールなどで
それぞれ名前が異なっている。レガシーは無差別級にかなり近いフォーマットだ。

「構いません。対戦方式は総当り戦にしましょう。勝ち星の多いほうが勝ちで。そちらの人数は4人
ですから、引き分けがありますが、その場合はそちらの勝ちで良いでしょう。もし、人数の埋め合わせ
が出来るのであれば5 VS 5でも構いませんが?」

「そういう話であれば、俺も参加させてもらおう!」

と、いきなり身なりの良い男が割り込んできた。

「貴方は・・・?」

厚底メガネの男が尋ねる。俺も聞きたかった。

「この店の常連、いやこの店に最も縁のある人間と言えるな」

すると山田が、

「ん・・・?って!?アンタは!」

「何も言うな山田君!さて、お互いの合意が欲しい訳だが?」

「山田、知り合いか?」

「知り合いというか、なんというか・・・」

なんとも歯切れが悪い。

「山田が知ってる人間ってことなら信用してもいいけど、この人、強いの?」

「・・・その点は保障するぜ。といっても随分昔の実力しか知らないがな・・・」

「君達が構わないのであれば、こちらに異論は無いよ?」

山田を除いた3人で、乱入してきた男を観察する。
やけに身なりが良い。財力が有るのならば、期待しても良いのか?

「・・・まあ山田の知り合いって事なら良いんじゃねぇか?それよりさっさと始めたいんだが」

中島が言う。荒木も俺もそれに頷いた。

「わかりました、よろしくお願いします。え~っと・・・」

「手塚だ!よろしく!」

荒木が無理やり握手をさせられる。

「では、いいかな?時間は10分後にしましょう。お互い、用意もありますしね」

「わかりました」

荒木が受け答える。GLP達はデッキの編集を開始した。
 その間、俺達は作戦を練る。

「初見だし、一回勝負なら、対応力が高いデッキか、尖ったデッキがいいだろうな」

「その意見に俺も賛成だ!」

「あの、手塚さん声量を落として下さい・・・」

「おっと失礼」

多少グダグダ感は有ったものの、作戦については一通り決まった。あとは・・・

「そろそろ10分経つ。こちらの準備は終わったよ?」

厚底メガネの男が声をかけてきた。

「こっちも準備OKだ。やりましょうぜ?GLPの方々・・・」

――――そして、俺達の対戦は始まった。


     



「対戦の組み合わせはどうするんです?」

荒木が尋ねる。

「そうだな、5色それぞれの土地をチーム5人で引いて、同じ色の組み合わせ同士で戦う、で
いいんじゃねぇか?」

最初に机を蹴ってきた長身の男が提案する。

「なるほど、それで構わないのではないか?」

手塚が答えながら俺達を見る。俺は異論が無いので頷ずく。他の3人も同様に頷いた。

「じゃあ決まりだ。ちなみに、俺の名前は三条、この面子のリーダーに当たるのがこの、分厚い
メガネの富樫、長髪のが車田、ハゲが小林、そこの特徴がほとんど無いのが松江だ。それじゃ、
土地カードはこっちで用意したからこれを引け」

そう言って5枚のカードを渡してくる。各自、引いた結果、組み合わせが決定した。
俺は、一番ガラの悪い長身の男、三条と。他の組み合わせは、

山田―小林
荒木―車田
中島―松江
手塚―富樫

となった。

「そんじゃ、始めるとするぜ」

俺は先攻を選んだ。

「セットランド島、エンド」

一瞬、三条の眉が上がったのを、俺は見逃さなかった。

「なんだ、予想とは違ったな?青かよ、めんどくせぇ・・・」

三条はブツブツ言いながら土地をセットする。「アダーカー荒原」、無色1を生むか、1点ダメージ
を受ける代わりに青か白を1マナ生むことが可能な土地だ。

(予想、だと?笑わせてくれるな・・・)

 俺には確信が有った。奴等は、俺達のさっきまでの対戦を見ていたと・・・

「じゃあ、貴方のエンド前に「のぞき見」をプレイ」

「チッ・・・」

 毒づきながら手札を見せてくる。「のぞき見」は相手の手札を見つつ、1枚引くことが出来る。
確認したその手札には・・・

(「日中の光」か・・・)

俺は手札の内容を頭に入れ、手札を返す。

「やはり、先程の俺達の対戦、見ていたようですね?」

「あん?なんの事だ?」

「惚けるな・・・、そんなカード、こちらの手の内を知っていなければ、メインにはまず入らない
だろう!」

「日中の光」は、黒のクリーチャーは攻撃やブロックに参加できなくさせるという能力を持つ。
黒単のクリーチャデッキでは出された瞬間投了となるカードだ。

「決め付けは良くないなぁ?素人君、偶々サーチ用に1枚挿してあったのが来たのかもしれねぇだろ?
ケッケッケ」

 もちろん、その可能性だって有り得る。しかし、その態度からはっきりとそうでないと分かった。
こいつ等はプロの中でも最低に属する人間だ。

「それがプロ、ですか。メンツもあるだろうし、たかが席の使用権だ、多少は遠慮してやろうと
思っていたが、全力で潰しにいかせてもらう」

「はぁ?素人が何ぶっこいてんの!?笑わせやがるよ!やってみろや!」

(いいだろう・・・)

「ドロー、セットランド平地、島と平地タップ、「等時の王笏」をプレイ、刻印対象は「オアリム
の詠唱」、エンド」

「・・・・あん?」



     


三条は顎に親指を当てながらカードを凝視する。

「・・・こりゃあ、あれか、セプターチャントってやつか」

「そうだ、プロなら瞬時にわかると思いましたが?」

 セプターチャント、いわゆるロック系に属するデッキだ。その呼び名は、コンボに使用される2枚の
カードからつけられている。まず、「等時の王笏(Isochron Scepter)」をプレイ。このカードは
場に出たとき、自分の手札にある点数で見たマナ・コストが2以下のインスタント・カードを1枚、
ゲーム外に置くことができ、無色2マナと「等時の王笏」のタップで、ゲーム外に置いた呪文をプレイ
することが可能になる。
続いて「オアリムの詠唱」だが、このカードは白1マナプレイでき、対象にされたプレイヤーはその
ターン呪文をプレイできなくなる。さらに、白1マナを追加で払うことで、クリーチャーを攻撃に
参加できなくすることができる。
 つまり、「等時の王笏」を相手のターン開始時に毎回プレイすることで、相手は自分のターンに
土地をセットする以外の行動がとれなくなるのだ。

「ケッ、俺の担当はスタンダードだからな?あんま他のフォーマットは詳しくないのよ。それにな、
GLPがどうゆう組織かくらい聞いたことあるだろが?俺たちはあくまで利益を追求する集団だ。別に
マジックが好きだとかでやってるわけじゃねぇんだよ!」

三条はドローをし、手札から島を場に放る。

「そんなことよりよ?なんで俺達がお前らの手の内を知ってるなんて思ったんだ?」

ニヤニヤしながら聞いてくる。
俺は少し迷ったが、親指で背後のカメラを指して言う。

「監視カメラだよ」

心なしか、三条の笑みが濃くなったように見える。

「ほほう、なんだまた?」

「アンタ達はこの店を、GLP系列だって言っただろう?それに、さっきも店のバックヤードからカード
を調達していた。監視カメラの映像を見ることくらい出来るんじゃないか?」

「クックック、まあ、確かにそれくらいは出来るがなぁ」

「それに、俺は少し特殊な環境で育っていてな、入り口から入ってくる客の顔は必ずチェックする
ようにしているんだよ。だが、確認した中にアンタ達はいなかった。つまり、アンタ達は最初から
この店にいたって事になる。そうなると色々見えてくる。恐らくこの対戦自体が、アンタ達の仕組
んだ茶番そのものなんだろう?」

「ハッハッハ!いや、大したもんだぜ!そんだけの観察眼があれば、確かにこんな子供騙しにゃ
引っかからないか!」

「ついでに言うと、この監視カメラは音声も拾うタイプだろう?だったらこっちの会話も筒抜け。
だからこそ俺達の使うデッキの対策をたてられたんだ」

「まあな、ついでに言うとさっき渡した土地カード、アレも仕込だ。だがな、俺達にも計算外は
あったんだぜ?」

「手塚さんのことだろ?」

「そう、ソイツだ。ハンデをやったのにも関わらず、圧倒的な大差で、勝利。GLPの強さを誇示する
のには恰好の獲物だったお前達に、いきなりお仲間出現だ。腕もデッキも読めない相手、仕方ないが、
最も実力のあるリーダーを当てるしか無かったわけだ」

そう言うと、隣に座っている富樫が、

「お喋りが過ぎるぞ?三条?喋ってる暇があったら、目の前の対戦相手をそうにかする事を考えろ」

「だってよう、バレバレだったんだぜ?ネタ明かしくらいしたくなるぜ。それに、こりゃ正直
厳しいわ、手札も把握されちまってるしなぁ・・・」

やれやれ、といった感じで手を振る。

「だが、まあタダで負けるのもアレだし、足掻いてやるよ?」

三条の目つきが鋭いものに変わる。

「・・・望むところだよ」

     


山田―小林 戦

「バーンか・・・」

「おうよ!」

 作戦会議中、俺以外の全員宛にメールが送られた。その内容は、GLPの奴等に手の内を知られている、
というものだった・・・が、山田のメールだけは「何も言わずにデッキを変えろ」の一言だけが
書かれていた。

「デッキを変えろって指示されたから変えたが、正解だったらしいな」

「・・・」

 小林は困惑していた。情報では山田の使用デッキは「シークレットフォース」と呼ばれる、nWoの
前身とも言えるものだったはず。

(勘付かれたか?いや、しかしこの山田という男は気づいてる様子が無いが・・・)

「「炎歩スリス」、「モグの狂信者」でアタック。これで今スリスは3/3だな」

ファッティ(大型クリーチャ)対策にコントロール寄りに組んだのが裏目に出ている。除去する事は
可能だが、その為には現状、「神の怒り」を撃つしかなかった。しかし、モグ狂はそれに対応して
こちらに1点飛ばしてくるし、純粋に火力もガシガシ飛んでくる。対応するには一々マナが足りな
かった。

(焼き殺されるのも時間の問題か・・・)



荒木―車田 戦

(まずいな・・・)

 荒木は苦戦を強いられていた。デッキ自体はリアニメイトでは無く、スニークアタックに変えて
いたが、初手「強迫」で手の内がバレたのが痛かった。

「もうバレてるみたいだから言うけど、本当はコレでリアニ手段封じるつもりだったんだけどねぇ?」

 車田がうざったい程長い髪をかきあげる。

(すまん、みんな、ちょっと打開策が無い・・・)

場には「翻弄する魔道士」が2体。このクリーチャは出る際に、指定したカードをプレイできなく
する事ができるのだが・・・
「騙まし討ち」「アカデミーの学長」を指定されていた。



中島―松江 戦

「・・・お前達、僕らの仕掛けを見抜いたんじゃなかったのか?」

「俺達の使用デッキがバレてるって件についてか?知ってるが、それがなんだ?」

「じゃあ、なんでそのバレてるステイシスを使ってるんだ?手持ちに見られていないデッキが
無かったのか?それで、ナイトメアサバイバルより尖っているステイシスにしたのか?だとしたら
それは安易だったと言っておこうか。確認した限りではそのステイシス、恐らくターボステイシス
だろう?そのデッキの欠点について、知らないのか?」

「フン、「山(吠えたける鉱山)を見たら潰せ」か?それこそ馬鹿にしているな。俺がそんな事で
終わるデッキを組むはずが無い」

「・・・良い自信じゃないか。後悔するよ?」

中島はニヤリと笑う。

「その不自然なくらいに平凡な顔、実に面白い。しかしそれだけじゃなく、言うことも面白いな?」

「・・・君みたいな人間は大嫌いだ」



手塚―富樫 戦

「やれやれ・・・」

(三条には後で罰を与えなければな・・・)

 当初のプランでは、ギャラリーの前でカモどもを血祭りに上げ、力の誇示をするつもりだったが、
相手が少し悪かったらしい。しかも、三条が大声でこちらの手の内を暴露したのだ。ギャラリーの
目は厳しいものだった。店の売り上げに関わりが出た場合、なんらかの処罰も受けるかもしれない。

「苦労が絶えないようだな?厚底メガネ君?」

「・・・富樫です」

 この手塚という男、見たところかなり若いが、かなりの曲者なようだ。金も持っているようだ。
先ほどチラリと見えたのはデュアルランド。それなりの額がマジックに注げているのだろう。

「セットランド「ウルザの鉱山」、エンドだ」

「ほう?トロンですか?」

「ああ、そうだ!たっぷり楽しんでもらおうか!」

 先ほど見えたデュアルランドは「Tundra」、青か白のマナを1出す土地。

(まさか、青白トロンか?)


     



「アダーカーで1点食らって青1、さらに島タップで「ブーメラン」」

「それは「呪文嵌め」しよう」

「だろうな・・・」

 さっきまでの態度とは打って変わって大人しい。普段の態度は威嚇の為か・・・?
 
 見たところ、三条のデッキは青白のようだ。となると警戒すべきは刹那である「拭い捨て」。
「最後の言葉」は・・・恐らく入ってないだろう。

「まあ期待しろよ、近いうちに引くぜ?」

「その前に、動けなくしてやるさ」

(7~8ターンまでセプターが割られなければ、恐らく勝利は揺るがない)

「セットランド、「アダーカー荒原」、青1白1払って、「翻弄する魔道士」をプレイ。指定は
「拭い捨て」で」

「チッ!徹底してやがるな・・・」

「あれだけ大口叩いて負けるわけにはいかないからな・・・」

       バン!

「ん・・・?」

 隣を見るとGIP側のリーダー、富樫が机に両手をついて立ち上がっていた。
それを余裕の表情で見上げる手塚。

「貴様、まさかプロか・・・?」

「いや?ただ、正確に言えば、「元」プロではあるな」

「元、だと・・・?・・・そうか、手塚、思い出したぞ!」

手塚はそれを聞いて笑みを深くする。

「お察しの通りだ、私は買収された、この店を含むホビー店の経営会社、「手塚コーポレーション」
の創始者、手塚恵介の息子、手塚正美だ」

 観戦していたギャラリーがざわめく。
「手塚コーポレーション」、1年程前、GLPによる大幅な買収行為により、事実上その存在を乗っ取ら
れた企業だ。あまりにも大きな企業の買収騒ぎ、裏で何か工作が行われたのではないかと、しばらく
の間、ワイドショーのネタにされていたが・・・

「「手塚コーポレーション」の破綻がきっかけで、プロライセンスを剥奪されたのか・・・」

「その通りだ、まあ気にするな、君は元プロに負けるんだ、少しは気が楽になったろう?」

「馬鹿な!まだ私はやれる!」

「いや、無理だな。エネ・・・「精神隷属器」をプレイ!君の次のターンは頂いたぞ!」

「しまっ・・・」

「さらに!私は「アカデミーの廃墟」をコントロールしている!つまり、ずっと私のターンという
わけだ!」

 力なく席に着いた富樫は、静かに投了を宣言した。

     



「オイオイ、リーダー、マジで負けやがったのか!?」

「・・・・・」

富樫は何も答えない。

(青白トロン、か・・・)

 トロンを冠するデッキはいくつか存在する。そのいずれも、ウルザランドによる大量マナでの攻め
で押し切るのが主流だ。ウルザランドとは「ウルザの魔力炉」、「ウルザの鉱山」、「ウルザの塔」
の三つを指す。この三つの土地はいずれも無色マナを1しか生まないが、三つ全てをコントロール
している場合、無色マナを1ではなく、2生むようになる。こうなってくると大量マナを生むことが
可能になり、基本無色マナしか要求しないアーティファクトであれば、マナを気にせず使用すること
ができるのだ。

「なあ、オイ、ウチのリーダーはどうやって負けたんだ?」

「青白トロン自体はスタンダードにもあったから知ってるだろう?基本は変わらない、だが、
「アカデミーの廃墟」で使いまわすカードを「精神隷属器」にするのが大きな違いの一つか」

 「精神隷属器」は無色6マナで使用できるアーティファクトだ。その能力は無色4マナとタップ
とともに生け贄に捧げることでプレイヤー1人の次のターンをコントロールすることができるという
もの。手札の確認、呪文の使用、土地のタップ、攻撃など、ほとんど全ての行動を、文字通りコント
ロールできる。マナバーンを発生させる事はできないが、例えば、火力を自分に打ち込む、生贄能力
を持つクリーチャを無意味に生贄に捧げる、といったことも可能。最終的に、土地をフルタップして
エンドを宣言することで、相手のインスタントタイミングの行動もほぼ防げる。

 そして「アカデミーの廃墟」だが、このカードは無色1マナを生み出せる土地である以外に、青1
無色1マナを払い、タップすることで、墓地にあるアーティファクトカードをデッキの一番上に置く
ことが出来る。
 この能力を用い、自分のドロー前に「精神隷属器」を墓地から回収し、その行動を繰り返すことで、
擬似的にだがずっと自分のターンにすることが出来る。

「なるほどなぁ、確かに廃墟で回されたら悶絶だな。だが、そんな危険なカードをウチのリーダーが
通すわけ・・・ってなんだあの墓地は」

 二人の墓地を見る。お互いの墓地には「Force of Will」を含む打消し呪文が数枚落ちていた。

「オイオイ、「Force of Will」が合計6枚落ちてるとかどんな状況だよ・・・」

 「Force of Will」だけじゃない、どれもこれも1000円以上はするだろうカードばかりだ。

「手塚さんが決めてくれたんだ、こっちも決めさせてもらおうか」

「ハッ!そうはいかねぇなぁ!次のターン、てめぇは吠え面をかくことになるぜ?」

「面白い、ならここで耐えてくれよ?アンタのアップキープ開始時にセプターから「オアリムの詠唱」
をプレイ」

「ハイハイ、どうぞ~」

「通ったか、ならば青3無色2マナで「ザルファーの魔道士、テフェリー」をプレイ」

「ゲッ・・・!マジかよ・・・」

 「ザルファーの魔道士、テフェリー」このクリーチャはプレイヤー自身がオーナーである、場に
出ていないクリーチャに瞬速(インスタントタイミングでのプレイを許可するキーワード能力)を
与え、さらには対戦相手のソーサリータイミング以外の呪文の使用を禁止する事ができる。
 これが通ることで、対戦相手は自身のアップキープに使用される「オアリムの詠唱」を止めれず、
相手のターンにも何も出来なくなる。実質、ほぼ相手は何も出来なくなるのだ。

「さて、これでもまだ俺に吠え面をかかすことが出来るか?」

「・・・できねぇよ。だが本当にあと1ターンあれば俺の勝ちだったんだ。クソ!」

(負け犬の遠吠えだな。さて・・・?)

 俺は手塚とは逆サイド、中島の試合を見ることにする。

「ってちょっと待て、何故ステイシス使ってるんだ!?」

「五月蝿い!今それどころじゃないんだよ!黙ってろ!」

怒鳴られた。理不尽だ・・・

     



 頭が痛いが、中島はどうやらメールを見なかったのではなく、敢えてステイシスで挑んだようだ。
勝算があったからこそ強硬したのだろうが、状況は既に壊滅的なものだった。なんといっても肝心の
「停滞」が全てゲーム除外されているのだから・・・

「「山(吠えたける鉱山)を見たら潰せ」、ね。僕はそんな生ぬるいことに拘ってなかったさ。当時の
環境ならいざ知らず、今は効果的な対処がいくらでもあるさ。例えば今さっき僕がやったように、
「根絶」する、とかね」

 「根絶」は墓地のカードを1枚指定し、そのカードと同名のカードをデッキ、手札、墓地からゲーム
除外する。キーワード能力「刹那」がついている為、狙われたらほぼ防げない。

「てゆうか中島、この状況は無理じゃないか?「停滞」が抜かれたステイシスなんて質の悪いパー
ミッションじゃないか。とゆうか最早ステイシスじゃないしな・・・」

「てめぇ、味方の癖に無理とか言うか?・・・まあ、でもこりゃ確かに無理だわな、クソ!投了だ!」

「賢明な判断だね?」

そう言って松江はニヤニヤ笑う。

「チッ!性格が腐っていやがるな・・・」

(似たもの同士な気がするが・・・)

それを見ていた誰もがそう思った。


「んで?お前は勝ったのか?」

「ああ、あと、手塚さんも勝ってくれたよ」

「ほほぅ、お前はセプターチャントか?しかもテフェリー、えげつねぇロックだなぁ?」

俺の場を見ながら言う。

「ステイシスに言われたくないな・・・」

「んで、その手塚さんは何のデッキだ?」

「青白トロンだよ、最後は「ウルザの塔」2枚から「精神隷属器」を出して、そこからループ匂わせて
投了させた」

 トロンは全て揃えば計7マナ出すことができる。6でなく7なのは「ウルザの塔」だけは3マナ生む
ことができる為だ。条件さえ揃っていれば、以降にプレイされた「ウルザの塔」は3マナランドとして
機能する。土地2枚で6マナ、無色とはいえ、破格の性能と言えるだろう。

「うへぇ、そっちはそっちでエグイな・・・」

「まあな、そして恐らく山田のほうもそろそろ・・・」



「山4枚生贄、「火炎破」x2!」

「・・・無理だ。俺の負けだよ」

「よっしゃぁ!」

ガッツポーズを決める山田。

「勝ったようだな、荒木は・・・あの顔は駄目っぽいな・・・」

荒木は山田がガッツポーズしている横で苦笑いしていた。

「フム、どうやらこの戦いは我々の勝利のようだな?厚底メガネ君?」

それまで黙っていた手塚が、富樫に切り出す。手塚と同じく、これまで沈黙していた富樫が、ここに
きて初めて反応を示した。

「・・・勝ち?この茶番がか?」

その台詞に周囲がざわめく。

「・・・その茶番を仕組んだのはそちらでは?」

たまらず俺は言い返す。

「これが茶番と言わずしてなんだと言うのだ?大体に貴様らは仲間がいないように見せ、ちゃっかりと
プロクラスを引き込んだではないか!こちらのハンデだけでは足りないと思ったのか?この卑怯者共
め!」

「な・・・!?」

「卑怯者!?てめぇらの事だろうが!」

中島がキレた。

「私達が何をした!何の証拠がある!三条の戯言を真に受けた人間もいるだろうが、コイツの言ってること
自体がそもそも偽りだ!そもそもコイツはただの他企業の委託プロだよ!正式なGLPでない人間の
ホラ話だったと言う訳だ!」

「ってリーダー!おめぇって奴は・・・」

三条が汚物でも見るような目で富樫を見る。

「席の権利?欲しければいくらでもくれてやるさ!茶番とはいえ一応は君たちは勝ったわけだからな!
だが、今後この店には来ないようにな?もう来たくもないだぶぐぁ!」

最後まで言い切る前に、富樫の頭は陥没するように席の下に沈んだ。

「見苦しいぞ、富樫。貴様こそ今後、この店に来ることは許さん」

 富樫を押しつぶした男――――何故か可愛らしいエプロンをしている、が、富樫を押しつぶしたまま
こちらを向く。

「失礼をした。私が不在の間に馬鹿者共が勝手をしたらしい。本当にすまない・・・」

状況について来れず、皆は唖然としたままだ。しかし、唯一余裕を保っていた男が口を開く。

「久しぶりだな、原 景よ」

「・・・これは驚いた、手塚坊ちゃん、戻ってきていたのですか」

その瞬間、止まっていた周りの時間が動き出す。そして最初に口を開いたのは山田だった。

「て、手塚さん、この人ってこの店の店長さんっすよね?知り合いなんすか?」

「知り合いも何も、この人は私の叔父だ」

「叔父!?」

全員が声をそろえる。

「坊ちゃん、私はもう坊ちゃんの叔父ではありません。手塚を裏切り、GLPに取り入ったのですから」

「ふん、事情は知っているつもりだ。それは私の父も同じこと。いや、父こそが原 景という人間を
最も理解していたのだからな・・・」

「坊ちゃん・・・」

「まあいい、興が削がれた。退散するとしようか?」

そう言って俺たちを見る手塚の顔には、若干だが悲しみが感じられた気がする。

「待ってください坊ちゃん。こいつらの仕出かした事のお詫びと言ってはなんですが、コレを受け
取ってください」

そう言って1枚の封筒を渡してくる。

「これは?」

「GLPが主催するマジックのトーナメントの招待券です。参加は5人1組。そちらの方々と一緒に出て
はどうですか?」

手塚は暫くその封筒を眺めると、深い笑みを浮かべた。


       

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Neetsha