Neetel Inside ニートノベル
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MTG戦記
第五章:宣戦

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――――大会当日

「すまんすまん、用意にもたついてしまった・・・」

「10分遅刻だが、まあいいだろう。予選については聞いたか?」

「ええ・・・」

 プロ、アマ含めての大会となると、その参加者の数はかなりのものになる。その中でも、この
「レボリューションカップ」は、例年1000人以上の参加者が集まる。大会自体はフォーマット毎に
行われるため、人数はばらけ気味だが、俺達の参加するレガシー部門は、その中でも比較的規模が
大きい。というのも、参加人数が多いのと、チームでの参加形式をとっている為、カードプールの
広い、エターナル(レガシー、ヴィンテージ)環境での戦いに味が出るからである。

「しかし、マジで人が多いなぁ・・・。酔いそうだ・・・」

荒木が額の汗を拭う。季節はもう冬だというのに、この暑さはさすがに堪える。

「確かにな・・・。だがそろそろ始まるようだぞ?」

俺達は中島の言葉を聞いて、前方の巨大スクリーンを見た。

「え~、皆さん、お静かにお願いします。これより、GLP主催、「レボリューションカップ」を開催
・・・するっつってんだろぅがぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

一瞬で静かになる会場。皆、びびったとかでは無く、たんに引いたのだろう。

「え~、オホン。失礼しました。まずは皆様、遠路はるばる来た方も、そうでない方も、本日は
ご来場、まことに有難うございます。私は、今大会の司会を勤めさせていただく、有楽洋美と申し
ます。お見知りおき下さい。」

なまじ美人な為か、妙な迫力のある女性がスクリーン上で微笑む。

(なんで、あんな性格に難がありそうな人間を司会に抜擢したんだ・・・?)

「まずは予選となりますので、手っ取り早く説明をしてしまいます。手っ取り早くしたいので、騒が
ないでくださいね?」

普通、こうゆう状況では数名がお調子に乗って何か言いそうなものだが、司会の気迫に押されたのか、
誰も一言も口を聞こうとしない。

「ふふ、では説明致します。まず、皆さん、正確には皆さんの中から半分はお家に帰って頂く事に
なります」

ざわ・・・ざわ・・・

いきなりこれだ。流石に会場がざわめく。

「騒ぐなって言っただろ?あんた達?黙って聞いてね?」

参加者全員が、黙ってなんかいられるか、と言いたそうな顔をする。しかし、やはりこの言いようの
ないプレッシャーのせいか、誰も口を開こうとはしなかった。

「え~、これには理由がありまして、まず、去年の大会。あれに参加した人って今日も結構いるのでは
ないでしょうか?去年、あれはグダグダでしたねぇ、本当に。と、ゆうわけで運営者の方針で、今年は
初っ端から一気に半分減らそうって事になりました。人数絞ったほうがトラブルも減りますしね」

(そうゆう事か・・・)

確かに去年の大会については、世間でも少々騒がれたことがあった。なんでも怪我人も少なからず
出たとか。それにしても、もう少し言い方というものがあると思うが・・・

「え~、ですから、そうゆう理由がありますので、遠路はるばるやってきた方も、残念ながら本日
お引きと・・・て何よ」

画面上でディレクター風の男があわてて紙を渡して引っ込んでいく。

「え~、何々・・・、あ、ちょっと良いお知らせです!負けた半分の人達は、自由参加ですけど、
個人戦が開かれるみたいです。この個人戦を勝ち抜いた12名は、それぞれ5人+1人のチーム
として、一回戦に進めます。良かったですねぇ~」

「+1名?どうゆうことです手塚さん?」

荒木が疑問を口に出す。

「1名、というのは補欠のようなものだ。マジックでいうサイドボード的な意味もある。私達には
あまり関係の無い話だったからすっかり忘れていた!」

「・・・それって結構不利ですよね」

手塚の家で長いこと特訓をしていたからわかった事だが、どうもこの人、意外と抜けたところが多い。

「ハイ!そこうるさい!」

見えてるのかよ。

「まあいいです、もう会場移動してから説明してもらう事にします。私はちょっと休憩行ってきますね
~。皆さん頑張って下さい♪あ、会場は東口出てまっすぐのドームになります。それでは~」

・・・本当に司会かよ。

     


――――試合会場入り口


「スタンダードの会場は左手の扉、A会場になりまーす!お間違えのないようご注意くださーい!」

同じような掛け声が、それぞれのフォーマットごとに飛び交う。

「レガシーは・・・C会場か。二階みたいだな」

 それにしても凄い混みようだ。俺達は、はぐれないようにお互い密接するように進む。
そして、階段の前まで来たとき、

「よう、ここにいれば会えると思ったぜ」

階段の手すりに寄りかかっていた長身の男が声をかけてきた。

「お前は・・・新条!?」

「三条だよ!?ワザトだよな今の!?」

「ああ、そうだったな三条!久しぶり♪」

荒木、なんだそのノリは・・・

「チッ・・・、相変わらずよくわからねぇ連中だな・・・」

「さて、三条君、どうやら待っていてもらえたようだが、我々に何か用かな?」

三条は口の端を吊り上げる。

「あの後よ、契約切りとかでGLPのチームから外されちまってな。今日は別チームに所属して参加
している。しかもレガシーでな」

「ほほう」

「んで、あんた等と同じくGLP様方に喧嘩を売るカタチになったんでな!同士諸君に挨拶に来たわけだ」

 もちろん、それだけでは無いのだろう。しかし、GLPに敵対するカタチでプロを雇う企業、という
のは興味深い。

「まあ、プロの中でも召集に引っかからないような、ようするに眼中に無い成績の人間を集めている
企業なのだろう?大方、有望そうなアマチュアにも協力を仰いで回っている、というところか?」

手塚がバッサリと言い切る。

「・・・ハッキリ言うねぇ、お兄さん。・・・まあそんな感じだよ。とりあえず給金も払ってくれるし
、GLPよりは扱いが良いんでね。寄生させてもらってるわけよ」

フム、と手塚は考え込む。手塚がどうゆう意図で思案しているかは分からない。が、この情報は俺に
とってもそれなりに有益な情報であった。

「それで、三条さん、アンタのチームメートやら、他の雇われプロはいないのか?」

「ん、ああ、俺のチームメートはもう会場だ。他の雇われプロについてはちゃんと聞いてないな。
3チームくらいは参加してるはずだが・・・」

「そうゆう事項は聞いておくべきだと思いますよ?そんなんだから成績奮わないんですよ」

「てめ・・・、ってまあその通りなんだけどな。少しは興味持ったとはいえ、いまだ金目当てって
色が濃いのは事実だし、マジックに対してあまり真面目では無いしな」

「そうゆう問題じゃないと思いますけど・・・」

全く、使えないな。俺は内心毒づいた。

「それで、三条さん、所属の企業はどこなんですか?」

「ああ、それなんだが、言うなって言われてるんだよな。有望なアマに協力を仰げとか指示は出てる
んだが、所属は名乗るなってな。俺は胡散臭いから名乗るべきじゃないか?って進言したんだがな」

「なるほど、敵対意識が有るのは確かなようだ。しかし、やはり胡散臭いな・・・。まあ、いいだろう
。協力というのは大方、情報の提供といった所だろう?こちらにも情報を寄こす、という条件であれば
飲もうじゃないか」

三条はキョトンとする。

「話がはええな。まあ言いたかったことは、正にソレなんだがよ。んじゃ、コレ、連絡先」

そう言ってメモを手塚に渡す。手塚はソレに応じるカタチで名刺を渡していた。妙にシュールな光景
だ。三条は名刺を受け取ると、じゃあなと言って階段を上っていった。

「俺達も会場に急ごう。締め切りで失格では洒落にならないからな」

俺達は頷き、会場へと向かう。

     


――――C・レガシー会場


「エントリーが済んでいない方は、入って右手の受付にてエントリーをお願いします!10時の時点で
集計致します!それ以降は受け付けられませんのでご注意ください!」

俺達はエントリーを済まして壁際で待機中だ。

「あの、手塚さん、どうでもいいんですが、なんでこのチーム名なんですか・・・?」

「気分だ!」

即席で作られたワッペンには「回転MOKUBA」と書かれている。何か嫌だ。

「そんな事より、一応だが覚えておきたまえ。GLP所属は見ればすぐわかるが、まず、あの暗そうな
やつ等「アングルード」、やつ等はプロの大会でもそこそこの実績を持ってる。いけ好かないがな。
次に、あそこのスケ番風な女、自ら極楽鳥を名乗っているが、本名は「鳥島 一途」という可愛らしい
名前でガ!」

最後まで言い終わる前に、飛んできたハイパーヨーヨーが手塚の下顎にパコーン!と良い音をたてて
クリーンヒットした。そして物凄い勢いで女が駆けてくる。

「手塚・・・、手前ぇってヤツは、相変わらずアタシを怒らせるのが好きらしいねぇ・・・」

「ぐ・・・、私はむしろ、この可愛らしい名前を皆に知ってもらいたくてだな・・・」

締め上げられながら手塚が呻く。鳥島さんは顔を真っ赤にしながら手塚を投げ捨てた。

「ま、まあ、こんなとこで暴力沙汰おこして退場くらっても面白くない。オイ、あんた等、手塚の
ツレならコイツの手綱はしっかり握っておくんだな。こいつは昔っから思いついたままに行動する。
しっかり止めてやらないと後悔するよ」

コクコク、と俺達は無言で頷いた。もう遅い気がするけれども。
じゃな、と言って鳥島さんは自分のチームの方へ戻る。

「っと、あ~、言い忘れたが、アタシの名をもし呼ぶことがあったら、極楽鳥って呼ぶんだぞ。変な
名前で呼んだら承知しないからな?」

一旦引き返してきた鳥島さんは、やや赤い顔のままそんな事を告げ、今度こそチームの元へ戻る。
了解、鳥島さん!

「な、なんだか、可愛らしい人ですね、ちょっと、いや、かなり変だけど・・・」

「そうだろう荒木君。彼女は素晴らしい。まあ話は逸れたが、彼女は腕も一流だ。もし当たる事が
あれば慎重にプレイするようにな。」

 そうこうしてる間に時間は10時を回っていたようだ。会場の入り口は既に閉ざされており、照明は
段々と暗くなっていった。

「え~、ただいま参加者の集計を行っております、集計が終わり次第、予選スタートとなります。
それでは、予選の内容、ルールについてご説明したいと思います」

壇上に立っていた男が、手元で何かを操作する。すると、壁に箱型のデュエルスペースが映し出され
た。

「ただ今ご覧頂いてるデュエルスペースは、このフロアの地下に設置されています。皆様にはこちらで
戦って頂くことになります。このデュエルスペースの仕様ですが、外部からの音声は完全にシャット
アウト、外部の様子は一切わからないよう、完全な密室となっております。逆に外部からは内部の
様子や会話の内容は全てわかるようになっていますが、対戦しているチームのメンバー及び、視聴者
サイドしかそれを見ることはできません」

そしてモニタが切り替わる。

「ただ今モニタに表示されたように、このデュエルスペースは20部屋に用意されております。集計後、
こちらのモニタにて対戦チームを告知致します。告知されたチームは地下に降り、指定の部屋に入って
下さい。告知の無かったチームは二回戦、三回戦となりますのでご了承願います」

さらに画面を切り替える。

「対戦形式ですが、各チーム、代表者3名を選抜してもらい、1戦ずつ対戦を行ってもらいます。
2本先取となりますが、決着がつかなければその都度メンバーから次の選手を出して頂きます。また、
敗北したチームはこのフロアへ、勝利したチームはさらに地下、地下2階へ向かって下さい。その他
禁止事項等はお手持ちのパンフレットにて確認願います。以上になります、ただ今集計のほうが完了
したようなので、対戦チームを発表致します。それではご健闘を」


「回転MOKUBA」VS「ロボトミー」


「どうやら早速らしいな・・・」

「フン、丁度良いではないか。もちろん初戦は私が・・・」

「あの手塚さん、初戦は自分が行ってもいいですか?」

「荒木君か、君が自己主張する、ということは自信があるのだろう。わかった初戦は君だ。次が私だ」

何か勝手に話が進んでいるが、そうゆう事らしい。

「それじゃあ、皆、行こうか!」

荒木を先頭に、俺達は地下へ続く階段へと向かった。

     


――――C・レガシー会場地下1階


「18・・・ここか」

俺達の目の前には18と番号の入った扉がある。

「対戦相手のチームはもう居るようだな」

「わかるんですか?」

「当然だ」

当然らしい。

 劇場のような重厚な扉を開けると、手塚の言ったように、既に俺達の対戦相手である「ロボトミー」
が待ち構えていた。

「どうも、「回転MOKUBA」の方々ですよね?私は「ロボトミー」のリーダー、亜門と申します」

そう言って握手を求めてくる。だが、

「・・・リーダーの手塚だ。握手は結構」

手塚は握手には応じず反対側の待機スペースへと向かう。俺達もそれについて行った。

(いいんですか?手塚さん!折角あっちがフレンドリーに接してきてるのに、あんな態度で・・・)

小声で山田が尋ねる。

(構わん、奴等は臭い。ゲロ以下の臭いがプンプンする。油断はするなよ?)

成る程、以前戦った富樫なんかと同種か。

チラリと後ろを見ると、チッ、とあからさまに悪態をつく亜門の姿が見て取れた。

『え~、皆様お部屋に入られたようなので、進行についてご説明したいと思います』

席に着くとスピーカーから、先程まで説明をしていた男の声が聴こえてきた。

「そういやルールとか説明してなかったな・・・」

『まず、部屋の両端に設置された座席、こちらが各チームの待機スペースとなります。まあ、こちらは
見ればすぐご理解頂けたと思います。試合開始の合図がありましたら、各チームから1名ずつデュエル
スペースに入って頂き、試合を開始して頂きます。試合時間は20分、ただし10分は延長可能とします。
それを過ぎますと引き分けとなりますのでご了承下さい。また、サイドボードについては、使用は認め
られておりますが、試合自体は一回となりますので、あくまで願い系カード専用となります』

「・・・ようするに、最初からサイド戦を想定したデッキは向かない、ってことか。大丈夫か、荒木?」

コクリ、と荒木は頷く。

『また、デュエルスペースへはパンフレット、デッキとサイドボード以外は持ち込まないようお願い
致します。こちらの監視でそれ以外の持込を確認した場合、最悪、没収試合となりますので注意願い
ます。ジャッジについても同様に監視していますのでご安心下さい。また、判定についてもその場で
声をかけて頂ければスピーカーにて応答致します』

ジャッジが見当たらなかったのはその為か。

『その他、枚数などデッキについて、試合のルールにつきましては先程も述べたようにパンフレットの
通りとなります。基本はそちらをご覧下さい。それではお待たせ致しました。これより、第1試合を
開始したいと思います。・・・始め!』

「OK、それじゃあ行ってくるよ」

「いきなり負けるなよ~?後々しんどくなるしなぁ?」

中島がニヤニヤしながら言う。

「事故らないよう祈っていてくれ・・・」

そう言い残して、荒木はデュエルスペースへと入った。



――――放送席



「さてさて~!?いよいよ始まったねぇ!視聴者諸君!レガシー放送担当のロビーだよ!?」

「ロビーさん、相変わらず元気ですね・・・。あ、私は解説の竹下です」

「同じく、解説の藪口です。本日はこのインターネット放送にお呼ばれしました。本当はスタンダード
の解説って言われてたんですけど、何故か当日になってレガシーに回されました。だから正直わから
ない事だらけですw正直ロビーさんより知識無いです」

「オイオイ!いきなりそうやって最初から逃げ道作っちゃって!?まあいいぜ?可愛い女の子に解説
するってのも美味しい役回りだしねぇ!」

「ふふ、さてさて、現在同時に20もの試合が行われているワケですが、どこか注目箇所はありますか?
ロビーさん」

「そうだなぁ~、まずは5番ルームでやっている、自称・極楽鳥率いる「紅蓮花」、なんと全員女性の
選手で構成されているんだ!その上みんな結構美人!なんでマジックなんかやってるんだと小一時間
問い詰めたい!ついでに電話番号やらスリーサイズやら問い詰めたい!」

「ロビーさん!本音飛び出してますよ!」

「おっと失礼!まあそんな彼女達だがぁ!?なんとその実力や経歴も華々しい!密かにファンも多いん
じゃないか!?この放送を見てさらにファンが増えると俺は睨んでるぜ!」

「ロビーさん・・・。えぇ~っと、じゃあ気を取り直して竹下さん、竹下さんは注目の試合は無いんで
すか?」

「有りますよ、今18番で試合をしている「回転MOKUBA」、実は彼らのリーダーの手塚って人は僕の先輩
なんですよ」

「えぇ!?っていう事はプロですか?」

「いや、手塚さんはライセンス移行の時辞退をしたんですよ。だからもうプロでは無いんですけど、
こうゆうカタチで大会に出るって事は、まだ続けていたんですね・・・」

「ヘイ!君達!置いていかないでおくれ!手塚については俺も知っているぜ!風の噂じゃ、どうやら
コイツはGLPに真っ向勝負をするつもりで参加してるらしい!実に楽しい!俺は好きだぜこうゆう奴!」

「へぇ・・・、なんだか凄い人なんですね。じゃあ、彼等と「紅蓮花」を中心に解説していきましょう
か~」

「どれどれ・・・?お、珍しい土地が出てますね?あれは何ですか?竹下さん」

「アレは、「グルールの芝地」といって赤と緑の計2マナを出すことの出来る土地ですね」

「え、それって強くないですか?」

「ええ、もちろん機能し始めれば強いですよ。ただし、タップ状態で場に出る、出るときに他の土地
を一つ戻す必要がある等、デメリットがあります。この手の土地はバウンスランドと呼ばれていますね」

「ん~、結構重いデメリットですね・・・」

「そうだぜ?藪口ちゃん?だから土地破壊には滅法弱い!特にレガシーは「不毛の大地」って敵がいる
からね!加速目的が逆に減速なんてことも多々ある。だからこそ珍しいなぁ!?」

「そうですねボビーさん。あれだけでは一体何のデッキやら・・・。「ロボトミー」の選手は「密林の
猿人」か、これは恐らくZooでしょうね」

「あ、Zooはわかりますね。戦ったこともあります」

「さっきのバウンスランドもラブニカブロックのはずですが、本当に使用率少なかったんですねぇ」

「4ターン目・・・、おっと「回転MOKUBA」の荒木が動いたぞ!?」

「実物提示教育!?」

「あ、また解らないカードだ・・・」

「簡単に説明すると、お互いに自分の手札にあるアーティファクトかクリーチャーかエンチャントか
土地を1枚場に出すカードです。ここから何が飛び出すか・・・」

ごくり

「な!?精神力!?MoMaか!?」

「モ・・・マ・・・?」

「こいつは面白いぜぇ・・・」

画面の先で荒木はニヤリと笑った。

     




「あの・・・、MoMaってなんなんですか?」

「藪口ちゃんは若いから知らないだろうねぇ・・・」

「MoMa、当時のスタンダード含む環境を、著しく荒らした最強クラスのコンボデッキです。デッキの
名称はキーカードである「精神力/Mind Over Matter」の略称からきています」

「え、スタンダードも?」

「ええ、コンボとしてはもっと優れたモノもたくさん在ります。しかし、MoMaはその凶悪性を持って
いながら、大きな大会でも使用出来たという実績を持っている。当時、スタンダード環境のMoMaですら
5%以上の確率で1ターンキルが発生していました。その為、当時、ある大きな二つの大会は、ほぼMoMa
一色といっても過言では無い状況となってしまったのです」

「スタンダードで5%以上の確率で1ターンキル・・・?すいません、今の環境しか知らない私では全く
想像出来ないんですが・・・」

「藪口ちゃん、言うまでも無いけど、スタンダードでソレだ、他はもっと酷かったんだぜ?他の全て
を捨てて、完全にMoMaをメタってようやく5分、なんて言われてた程だ。当時の環境でやってたプレイ
ヤーにとっちゃまさに悪夢!その時期はMoMaの冬なんて呼ばれてるくらいだ!」

「ロビーさんの言うとおりです。それだけに禁止となったカードも多かった・・・。何しろ、当時の
スタンダードの禁止カード10枚中、6枚ものカードがMoMa関連で禁止カードとなったのです」

「しかも!だ。その当時禁止されたカードは、このレガシーの中でも今でも禁止されてるものばかり!
俺が面白いと思っているのは、まさにソコなんだぜぇ!?」

「そうです、MoMaの強さを支えるカード「意外な授かり物」「トレイリアのアカデミー」「時のらせん」
「魔力の櫃」「ドリーム・ホール」「厳かなモノリス」、これらが現レガシー環境では禁止となって
います。辛うじて組めそうなMoMaは、あの荒木選手が使った「実物提示教育」を使用した実物提示MoMa、
「High Tide」を利用したハイタイドモマですが、当時存在したその2つにすら、今あげた禁止カードが
1枚は組み込まれていました」

「そう!つまり!今のレガシー環境じゃMoMaは力を発揮できない!だからこそ「精神力」が禁止解除
されても使用者が現れなかった!」

「MoMaの基本的な動きは、「精神力」の手札を捨てるとアーティファクトかクリーチャーか土地を1つ、
タップかアンタップする、という機能を利用し、手札を捨てて土地をアンタップ、これを繰り返し大量
マナを発生させ、そのマナを使用して相手を瞬殺、という流れになります。その為、優れたドロー機能
を持ったカードが必要となります。しかし、その優れたドローカードのほとんどは禁止。使えるのは
せいぜい「先細りの収益」というリスクの高いものだけ」

「それって、聞いてるだけで駄目な気がするんですけど・・・」


――――デュエルスペース


「MoMa、ね。てっきり大型クリーチャでも飛び出すと思ったら、まさかそんな化石みたいなデッキとは
な。おどかすなよ?」

「何故安心してるんですか?動き出した以上、こっちが勝つ可能性は高いと思いますけど?」

「まあ、確かにそうなんだが、どうせ「先細りの収益」だろう?だったら事故率も高いし、最悪その
前に止まる、なんてことも有る。止まったら次のターン、俺は確実に殺しにいくぜ?」

 確かに、ドローが手札から尽きた時、それは動きのメカニズムが止まる時であり、相手が緑、白を
使用している以上、次のターンに「精神力」が破壊される可能性も十分有る。そんな事をせずとも、
殴られれば終わる可能性もある。「ロボトミー」の東元だったか?が言う、「先細りの収益」も確かに
事故の元だ。その性能は手札と墓地を加えた上でデッキをシャッフル、その後7枚引くという優れた
ものだが、使用したプレイヤーは7枚ドローの前に、デッキの上から10枚をゲームから取り除くという
ペナルティが課せられている。これによってとどめを刺すカードが全部死ぬなんて事も有り得なくは
無い。もちろん、保険はかけているが。

「・・・まあ、それはチェインコンボには付き物です。そうならない事を祈ります。では、動きます」


――――放送席


「まずは「瞑想」とこれはまあ普通ですね」

「4枚ドロー、ただし次の自分のターンを飛ばす。やはりこのターンで決める気らしいねぇ!」

(・・・ごくり)

「んで、手札を捨ててマナを8くらい浮かして・・・ってなんだあれ?」

「あ、「暴力的な突発」です!最近出たエキスパションで登場した続唱持ちの!」

「続唱、デッキの1番上のカードを、続唱を誘発させた呪文のコストより点数が小さいカードがゲーム
除外されるまで、ゲーム除外し続ける。続唱を誘発させた呪文のコストより点数が小さいカードが
ゲーム除外された時、その呪文をマナコスト無しでプレイする事ができる。その後、それによって除外
されたカードを無作為な順番でデッキの下におく」

「説明ありがとよ!竹下先生!しかし、だ。一体何が飛び出す!?」

「んー?あ、あれって「命運の輪」です!」

「なるほど!「命運の輪」!待機呪文だが、その能力はかの「Wheel of Fortune」!続唱でプレイする
事で即プレイしたのか!あ、ちなみに待機というのは時間カウンターを指定の数字分上にのせ、アップ
キープ開始時にカウンターを1つ取り除く。最後の時間カウンターが取り除かれた時、その呪文をコスト
無しでプレイできる、というキーワード能力。「Wheel of Fortune」は各プレイヤーは自分の手札を
捨て、その後カードを7枚引くという能力です」

「またまた説明ありがとぅ!」


――――デュエルスペース


「なるほどな、確かに「先細りの収益」より安全だ。しかも、続唱呪文の数だけ積み込めるわけだ」

 続唱、それが3マナ以下の呪文は現状3種。デッキ内に10枚以上積み込む事ができる。その為、擬似的
にとはいえ、キーとなる呪文が10枚体制で控えている状況を作り出しているのだ。

「そう、そして悪いけど、この勝負は貰ったようだ。同様に5枚捨て、マナを浮かせて、「狡猾な願い」
をプレイ。「双つ術」を手札に加えて、「脳髄の渦」をプレイ、さらにこれを「双つ術」でコピー、
対象はもちろん君だ」


――――放送席


「そうか!「脳髄の渦」は対象プレイヤーにカードを2枚引かせ、そのプレイヤーに、そのプレイヤーが
このターンに引いたカードの枚数に等しい点数のダメージを与える!」

「つまり、「命運の輪」で東元選手は7枚ドローしており、「脳髄の渦」で2枚ドロー、計9点ダメージ、
さらに、「双つ術」でコピーした「脳髄の渦」で計11枚ドローの11点、ピッタシ20点!」

「華麗に決めやがったなこの野郎!ナイスな発想だ!」

「第1試合、「回転MOKUBA」の勝利です!」

     



――――回転「MOKUBA」待機スペース


「ちゃんと決まったじゃねぇか!荒木!」

山田がバシバシと背中を叩く。

「ちょ、痛いってマジで」

「3ターンか、ほぼ最速だったんじゃないか?」

「ええ、あのデッキで3ターンキルなら上々です」

 荒木のMoMaは、ベースを実物提示MoMaとしてる為、本家のように1ターンキルが発生する確率はかなり
少ない。「モックスダイアモンド」「金属モックス」等を駆使すれば一応は可能だが、手札の消費が
激しい為安定性が欠ける。そういった面を考慮してか、最速2ターン始動できる程度の構成をとったよう
だ。俺達もテストプレイに協力したが、勝利まで持っていくのに最も適した速度は、大体3~5ターン目
始動。つまり、今回は一番勢いの乗ったパンチをお見舞いできたということだ。

「荒木君が折角高速で決めてくれたんだ。私もそれに倣って最速を目指そう。進行も早まるだろうしな」

(手塚さんが最速を目指す、ということは、アレか・・・)

「では、行ってこよう」

「がんばれ!手塚さん!」


――――放送席


「いやぁ!良いモノ!いや、悪いモノか?を見せてもらったぜ!」

「ええ。ですが、すっきりしていたので悪いってイメージもそれ程ではありませんでしたね」

「全くだ!起動し始めてからのイライラもMoMaのウリの一つだとは思うが、この予選でソレやったら
大顰蹙だったしなぁ!?」

「私も見れて良かったです。正直、あまりお目にかかるものではありませんしねぇ・・・」

「確かに、その知名度の割には動きを良く知らないって人は多いですね」

「ヘイヘイ!「紅蓮花」のお姉様も勝負を決めたようだぜぇ?ちなみに、あのお姉様は椎名 悠宇!
通称、女王!まんまだなぁ!?しかぁーっし!自称ではなく通称だ!」

「おっと、荒木選手の方に気を取られてる間に、アチラは終わってしまったのですね・・・」

「俺はちゃんと見ていたぜ!なんたってFANだからなぁ!ちなみに、お姉様はの使用していたデッキは
赤黒青のウィップ・ショッカー!実にマニアックなチョイスだと思わないか!?」

「それはまた(苦笑)」

「でも、それで勝っちゃってるんですよね?凄いなぁ・・・」

「一回勝負ですからねぇ、完璧に予想の斜めをいかれたでしょう」

「次は自称・極楽鳥の彼女のようですね。彼女は僕の同期でもあるんですが、正直、勝ったことありま
せん(苦笑)」

「竹下さんって、女性に負けること多い気がしますけど・・・まさか・・・?」

「いやいや、藪下さん勘弁してください!変な意味は無いんですからね!?」

「おお!竹下ちゃんは実はムッツリか!?」

「ロビーさん!ううぅ・・・」

「・・・なんだか少し可哀想になってきたし、やめてあげましょうボビーさん(笑)」

「そうだなぁ!少し惜しいが、「回転MOKUBA」の試合も始まりそうだ!そっちに集中しようぜ!」

「そ、そうです!先輩の試合見なきゃ!」

「やっぱり2試合目は、どのチームもリーダーが出るみたいですねぇ」

「そりゃそうさ?勝ってる方はリーチだし、負けてる方は後が無い!なるべく強い奴に任せる!それが
普通ってもんだろ!?」

「お、始まるみたいですね」


――――デュエルスペース


「始まって早々だがすまない。私の勝ちのようだ」

「・・・は?何を言って」

「セットランド「古の墳墓」、「水蓮の花びら」をプレイ。青1と無色2を生み2点食らい、「ファイ
レクシアン・ドレッドノート」をプレイ。CIP能力に対し「もみ消し」をプレイ」

「スタイフルノートか!」

「さらに、もう一枚「水蓮の花びら」をプレイ。なんでもいいが、青を1生んで、「虚空の杯」を
1/1でプレイ。エンドだ」

「な・・・、馬鹿な!?そんな相性の悪い組み方してんのかよ・・・」

 「虚空の杯」、コストがX、Xと、変わったものの一つだ。X=1とした場合、もう片方のXも1になる。
支払うXの値が増えれば増えるだけコストが倍加。「虚空の杯」の場合払ったXの値だけ、その上に蓄積
カウンターが乗った状態で場に出る。この蓄積カウンターと点数が一致している呪文に関して、常に
打ち消されることになるのだ。手塚はこの時、Xを1指定しプレイ。つまり、これ以降は1マナ呪文の
プレイが極端に困難になるのだ。さらに、手塚の使用しているデッキは、いわゆるスタイフル・ノート
と呼ばれるものであり、これは出た際、パワーの合計が12以上になるように好きな数のクリーチャー
を生け贄に捧げない限り、これを生け贄に捧げる、というデメリットを持つ代わりに、無色1で12/12、
しかもトランプル付という化け物、「ファイレクシアン・ドレッドノート」、このデメリットを「もみ
消し」の、誘発及び起動能力を打ち消す効果を用いて踏み倒すもの。どちらも1マナ域の呪文であり、
「虚空の杯」で1マナを指定した場合、自らの動きの妨げになる可能性があり、相性はあまり良くない。

「いや、「虚空の杯」が手に有ったのは偶々だ。普通はあり得ない、が、今回は阻害の少ない組み合わ
せだったのでな」

「・・・こんな一発勝負の戦いで、ありかよ・・・」

「ここぞという時、最高の手を引くのも実力のうちだ。貴様らにわかプロには無いのかも知れないがな」


――――放送席


「さすが先輩、あり得ない引きだ・・・」

「あの状況は参っちまうなぁ!?序盤で使える除去がそもそも使えない!その上、2回攻撃を通したら
負け!苦しい!」

「なんとか頑張って2マナ呪文撃っても、多分カウンターされちゃいますしねぇ・・・」

「・・・投了のようですね。開始から2ターン目で終了。なんだが相手が気の毒な気もしますね」

「竹下ちゃんとあろうものが何を言ってやがる!?それが戦いの醍醐味じゃない!?」

「・・・全くですね」

「ふふ、今度は「紅蓮花」の試合も見れそ・・・ってあっちも終わってますよ・・・」

「な、何だってえぇぇぇっ!?俺としたことが一途ちゃんの試合を見逃すとは!!!!!!!?うおぉ
ぉーーーーっ!!」

「さ、叫ばないで下さいよボビーさん!」

「ま、まあ終了後に録画を見ればいいじゃないですか」

「二人は何もわかっちゃいない!生で見ることが重要なのであってだなぁ(ry」



 ぽつぽつと試合が終了していく中、2回戦が始まるまで、放送はボビーの駄目トークしか流れなかった
という。

     



俺達は、敵意むき出しでコチラを睨んでる「ロボトミー」の連中を無視するように部屋から出た。

「なんか、すんなり決まっちまって拍子抜けだなぁ」

「それは当然だ、中島君。荒木君が勝利した時点で、我々の勝利は決まっていたようなものだ!」

「へいへい、その通りでございますねぇ」

投げやりに返す中島。それを荒木がなだめようとした時、目の前の扉から鳥島さん達が出てきた。

「ほぅ、一途ちゃんも勝ったゴバ!」

言い終わる前に鳥島さんの見事なアッパーが炸裂していた。物凄く舌を噛んでた気がするが、大丈夫
だろうか・・・。

「全く・・・、この男ときたら・・・」

鳥島さんがブツブツと言いながら、何故か装着されていたメリケンサックを外す。

「どうやら「紅蓮花」も勝ったようですね」

「ああ、対戦相手は何の覇気もないような奴等だった。ウチらの敵じゃないさ・・・っと、そういや
自己紹介がまだだったね。アタシは極楽鳥、このチームのリーダーさ。で、こっちの背も胸もやたら
デカイのが椎名。女王って名のほうが知れてるね。後ろの3人は左から、若木、藤木、佐々木。通称
三なる宝樹。アタシはともかく、他の面子は美人揃いだが、手を出したら承知しないからな?」

そう言ってニッと微笑む。他の5人も倣うように微笑み、

「夜露死苦!」

凄んできた。

(この人達はコスプレイヤーなのか・・・?)

「本当はもう一人いるんだけど、その娘は今日は来てないんだ。ま、本戦が始まったら来るだろう
から、紹介はその時にね。そっちも6人目がいないようだけど・・・?」

「あ~、実は僕達、5人で参加してるんですよ」

「・・・あれ?でも登録は6人からじゃなきゃ出来なかったはずだけど?」

「・・・え?」

荒木の頬がひくつく。

「その点は大丈夫だ」

さっきまでひっくり返っていた手塚が、立ち上がりながら言う。

「登録自体はニックネームで行えたのでな。適当な名前で登録だけはしておいた。今後、もしか
したら必要になるかもしれないからな!」

「相変わらずだな・・・。まあ、少しは不利になるだろうが、ウチらには関係ない事だからね。とは
言っても、アンタはこの手で負かしたいからな、それまでは残ってなさい?」

それじゃ、と言い残して鳥島さん達は奥の階段に向かった。

「俺達も向かいましょうか」

「ああ」






――――C・レガシー会場地下2階


『大変長らくお待たせ致しました!ただ今こちらにいる方は、明日より始まる本戦に出場が決定して
いる方々になります。まずはおめでとうございます!しかし、本戦は明日からとなりますので、気を
緩めたりしないよう心がけてください』

 300人近くいた参加者も今は半数。とはいえ、まだ100人以上はいる。先程よりはマシとはいえ、
やはり少々息苦しい。

『さて、皆様にはこれより隣のスペースから発車している小型の地下鉄に乗ってもらい、とある
アミューズメント施設に向かってもらいます。到着しましたら階段およびエスカレーターにて上の
フロアに向かい、そこで受付をしてもらいます。その後、さらに上のフロアに上がりますと、そこは
ホテルの受付となっております。選手の方々はそこで指定された部屋へ向かい、そちらで明日まで
待機となります。ホテルは本日は貸切となっておりますので、備え付けの施設はご自由に使用下さい。
大浴場もありますが、選手間のトラブルにはコチラでは一切責任を負いかねますので、自己責任での
使用をお願いします。それでは、今より隣のスペースへの扉を開錠致します。本日はゆっくりとご
休憩くださいませ』

「なんだ、今日はもう試合は無いんですね~」

少しホッとした様子で荒木が言う。

「そのようだな、まあ敗戦したチームはこれから復活戦を行うようだがな。三条の情報なので信用
すべきか謎ではあるが」

 先程の電話は三条からだったらしい。しかし、信用無いな三条・・・

「まあいい、我々には関係の無い事だ。地下鉄へ向かうぞ諸君!」

とは言っても、地下鉄は大混雑、暫くは乗れる様子ではなかったワケだが。

     


――――909・手塚の部屋


 俺達は対策やデッキ回しもかねて、手塚の部屋に集まっていた。中々に味わいのある試合を行え、
俺達は満足し、デッキを片していた。

「さて、みんな!風呂に行くぞ!」

「・・・」

「あ、いってらっしゃーい」

「いってらっしゃーい、じゃない、全員で行くのだ」

「手塚さんよぉ、まさか大浴場行く、とかじゃないだろうなぁ?」

「当然行くだろう?」

「行かねぇから!?さっきの話聞いてたか?どう考えてもトラブルの元だろう!?」

「ふむ、そう考える輩ばかりならば少々残念だがな?だが、しかし、それはそれで貸しきり状態を
楽しめそうではないか」

「いや、つかよう、あんたの屋敷の風呂は十分プールのレベルだったし、今更そんなの感じないだろ」

「中島君、君はわかっていない・・・。このような状況で開放的になる事こそ、明日の勝利に繋がる
のではないか?」

「繋がるか!勘弁してくれ!裸の付き合いとか今時はやらねぇから!」

「中島、何を言っても多分無理だよ・・・」

「くっ、くそぅ、なんでこんなとこまで来てこんな目に・・・」

 中島の親父を知っている俺達は、その台詞を聞いてなんとなく察してしまった。そう、中島の親父
さんは、手塚さんと妙に気質が似ているのだ。同じような問答が毎日繰り返されていることは容易に
想像できた・・・

「さて、それでは行こうか」

「あ、手塚さん、実は俺、医者に暫く風呂に入るの禁止されてて・・・。出来れば備え付けのシャワ
ーで軽く流すだけにしたいんですが」

「ふむ、怪我か?」

「ええ、まあ・・・」

「それならば仕方ないな。では、他の三人と一緒に行ってくるとしよう」

「ええ、では自分の部屋に戻っていますね」

「ちょっ!その手が有ったか!すんません手塚さん!実は俺もけムガモゴゴゴ」

言い終わる前に手塚さんのヘッドロックに捕まり、中島は引きずられていった。どうでもいいが着替
えは良かったのだろうか・・・?

(さて、流石にコレを見られるわけにはいかないからな・・・)

俺は左胸を擦りながら手塚の部屋を後にした。



――――翌日


 時刻は午前9時。俺達は食事をしながら、一回戦の説明が流れる放送に耳を傾けていた。

『皆様は、これより一時間後、アミューズメントパークの各地に設置されているデュエルエリアに
向かってもらう事になります。本日はチーム5人フル出場してもらう事になりますが、チームとして
行動してもらうのではなく、各自別行動をとってもらうことになります』

「べふこうろう?」

「山田!口の中のモン飲み込んでから喋れ!」

『5人は別れ、A、B、C、D、Eのそれぞれのエリアに向かってもらい、いわゆる野試合をしてもらい
ます。同エリア内の選手で対戦者を探し、自由に対戦を行ってください。この際、挑まれた側に拒否
権はありません。なお、対戦場所については各エリアに10箇所ほどデュエルスペースを用意して
いますので、そちらをご利用下さい。ジャッジについては予選時の設備と同様の物をご用意しており
ます。また、デュエルスペース内では挑戦を行う事はできません。これは待ち伏せなどを防止する
意味もありますが、後ほど説明します、フリーエリアへの移動もここから行われるためです』

 手塚はそれを聞いてニヤニヤしていた。

(好きそうだもんなぁ、こうゆうの・・・)

『さて、肝心の勝ち上がりのシステムについてご説明致します。まず、対戦の勝利者には勝ポイント
が入ります。このポイントは特に上限は設けませんが、二回負けた方は対戦資格を失う事となります
のでご注意願います。また勝ポイントが2になった時点で、別エリアへの移動が可能となります。
この際、移動経路を含む、フリーエリアに留まることで、残りの時間を消化することが可能です。
15時時点で一回戦は終了となり、各チームの勝ポイントの集計を行います。勝ち上がりは、この
ポイントの合計が8以上となったチームとなり、満たなかったチームが敗退になります』

「かなり変則的なサバイバルゲームって感じか・・・」

「ふむ・・・」

PiPiPiPi♪

その時、手塚の懐で携帯電話が鳴り始めた。

「もしもし、なんだ貴様か?俺は今、宇宙一の」

『ネタはいいんだよ!』

「つまらんな、で、どうした三条?」

『ああ、今の放送聞いてたろ?そんでよ、俺らとそっちが潰し合ってもちょっと問題があるじゃねぇ
か?だから、こっちの所属のデータ引っ張ってきたから、ソレ見て当たらないように調整しようと
だなぁ』

「狡い考えだな。まあ協力関係をとっている以上、譲歩しないこともない。ただし、こちらの状況
が厳しいものになったのであれば、悪いが遠慮はしないぞ?まあ、その可能性は限りなく低いがな」

「へいへい、それでかまわねぇよ。あ、それから、コレは情報なんだが、俺達の所属チームのいくつ
かが、敗者復活戦に出てたんだが、その時も今みたいなサバイイバル形式をとったらしいんだよ。
んで、その時、やけに好戦的で、プロを潰し回っていた女がいたそうなんだが・・・」

「だが?」

「恐ろしいほどスタイルが良いらしい・・・。それに目を奪われてかなりの人数が」

ブチ

手塚が通話を切った。

PiPiPiPi♪

直後に再び携帯電話が鳴る。

「・・・なんだ?」

『冗談だよ!いや、冗談でもないんだが悪ぅござんした!』

「冗談は顔だけにしてもらいたいな!」

『ひど!と、兎に角だ!その女はプロじゃないが滅法強いらしいんだよ!』

「強い、か。しかしそれだけ言われてもな?どんなデッキ使ってたのだ?」

『あ~、え~っとなんだっけ、ホラ、ハーピーの?』

ブチ

手塚が再び通話を切った。
今度も間髪いれずに携帯が鳴り出したが、手塚はそれを無視して電源を切った。

(ハーピー、か・・・)

     



――――フリーエリア


(順調だな・・・)

 俺はとりあえず2勝し、フリーエリアで休憩をしていた。フリーエリアは様々な店が展開されて
おり、食事処や娯楽施設もある為、時間潰しや息抜きには事欠かなかった。

「お、先客がいるな」

「山田か、ここにいるって事は2勝以上したんだな?まさか、脱落したなんて言わないだろうな?」

「一応、なんとかな・・・」

「なんとか?そんなに危なかったのか?」

「ああ、どうも相性が悪い手合いが多くてなぁ。一回負けちまったし」

「それはついてないな・・・。まあそれでも2勝できたんだろ?問題は無いさ」

「ああ、まあそうなんだが、イマイチ納得がいかねぇぜ・・・」

「ん?何かあったのか?」

「いや、なんていうか、こっちの手の内がバレてる感じ?はっきり言って運ゲーで勝てたとしか
思えない勝利だったんでなぁ」

「それは嫌な感じだなぁ。どのデッキでやったんだ?バーンとかなら確かにバレてるかもしれないが」

バーンは以前GLPと戦った時に見せた。その情報が回っていてもおかしくは無い。だが、そうだとして
も、今回は持ち込める3種のデッキを自由に使用できる為、ピンポイントで狙われない限りは問題無い
。もし狙われたのであれば不運だったとしか言いようが無い。

「バーンと青緑スレッショルドだな。最初に自分から挑んだ奴にはバーンで焼き殺したが、次に
挑まれた相手には防御円張られて死んだ。青緑スレショはほとんど負けてたんだが、相手が「否定の
契約」撃ってきたんで、「冬の宝珠」張って投了させた。多分張れなきゃ負けてたぜ?」

「青緑スレッショルドは外で使うのは初めてだろ?それもバレてたって言うのか?」

「ああ、なんかそんな感じがしたなぁ。気のせいかもしれんけどな・・・」

「ふむ、まあ手塚さんの家の人にスパイがいたとかなら、バレてる可能性はあるかも・・・」

「でもそりゃ疑いたくないぜ?」

「まあな・・・」


PiPiPi♪

その時、俺の携帯電話に着信が入った。

「もしもし、荒木か?どうした?」

『すまない、本当に申し訳ないんだが、脱落してしまった・・・』

「!?」

『しかも、さらに申し訳ないことにポイントも取れてないんだ』

「相手はプロか?」

『プロとアマチュア両方だよ。どちらもこっちの手の内知ってるかのようなプレイングだった。正直
完敗だったよ・・・』

「荒木もか・・・。実は、山田も同じような事を言っていてな・・・」

『何だって!?じゃあ、まさか山田も・・・?』

「いや、1敗はしたが、なんとか2勝したらしい。しかし、となると他の二人が心配だな。手塚さんに
限っては大丈夫だと思うが・・・」


PiPiPi♪

山田の携帯電話が鳴る。

「・・・手塚さんからだ。もしもし?」

『山田君か。すまない。私は脱落してしまった』

「手塚さんが!?」

『正確には、2勝はしている。が、その後挑まれた戦いで2敗した』

「そ、そうですか・・・」

「まずいな、手塚さんのポイントを合わせて現在6ポイント。中島の状況次第だが、怪しくなって
きたぞ・・・」

俺は荒木にフリーエリアで手塚さんと合流するよう伝え、通話を切り、山田から携帯電話を受け取る。

「手塚さん、実は荒木の奴も脱落したって連絡があって・・・。とりあえず俺達は中島のもとへ
向かいます。手塚さんはフリーエリアで荒木と合流してください」

『わかった。リーダーの私が不甲斐なくてすまない。君達に負担をかけることになるが、健闘を
祈る。それから、これは蛇足かもしれないが』

「手の内がバレてるかもしれない、ですか?」

『ん?ああ、まさか荒木君も?』

「ええ、山田もですが同じ事を言っていました」

『そうか、ならばくれぐれも気をつけてくれたまえ』

「ええ」

俺はそう言って通話を切ると、すぐさま中島をコールする。

「・・・出ない。対戦中か?」

無機質な留守番電話のガイダンスが流れるとともに、俺は連絡を諦めた。

「山田、中島は確かCエリアだったな?」

「ああ」

「Cエリアに向かうぞ。中島は恐らく対戦中だ。結果如何では俺達が稼ぐしかないぞ」

「お、おう」


――――Cエリア


(チッ・・・どこに行ったあの男・・・)

 場違いな程に露出度の高い服を着た女。田村つぐみは焦っていた。開始後、真っ先に潰しに行く
はずだった、中島という男を全く発見できずにいたからだ。自分の所属している組織の根回しで、
ある程度対戦数を抑えることが出来たとはいえ、避けられなかった戦いもある。最悪、中島は既に
2勝をしてフリーエリアにいるかもしれない。そうなれば最悪だった。

「クソッ!他の奴らもアテになんないし、このままじゃ時間が・・・」

「・・・よお、色っぽいお姉ちゃん?俺を探してるのかい?」

「!?」

急に後ろから声をかけられ、慌てて振り返る。

「お前、中島か・・・?」

「そうだぜ?何やらお探しのようだったんで、仕方ないから出てきてやったよ」

「・・・今までどこにいた?」

「便所。朝食いすぎてな。やたら綺麗だったんで、ふんばりついでに一眠りさせてもらった」

(チッ・・・品の無い男だ。所詮は奴らの手先か・・・)

「さぁて?何で俺を狙ってたのかはしらねぇけど、体に聞かせてもらおうかねぇ?クック・・・」

「・・・捕まりたいんならそうすればいいさ」

「冗談だよ?まあ対戦がお望みなんだろ?いいぜ?何企んでるか知らないが、のってやるよ?」

「いい度胸だわ。後で、たっぷり後悔するがいいわ」

その時、中島の携帯電話が鳴り始めたが、中島はそれを無視してデュエルスペースへ向かった。


――――Cエリア・デュエルスペース


「いたぞ、中島だ!やっぱり対戦中か!」

「対戦相手はって、なんだ?あのド派手な姉ちゃんは・・・」

「多分手塚さんの言ってた、プロ潰して回ってたって女じゃないか?」

「ああ、ハーピー使ってたっていう・・・」

「恐らくはアルーレンだろう。中島が気づいてればいいが・・・」


――――デュエルスペース内部


「フン、お仲間の登場のようよ?」

「おーおー、なんか焦った顔してるねぇ?まずい状況なのか?クックッ」

「・・・笑ってられるのも今のうちよ。セットランド『Bayou』で魔の魅惑をプレイするわ」

「おっとそいつは通せないなぁ。『思案』を除外して『Force of Will』だ」

「・・・フン」

「だろうなぁ、アルーレンにカウンターは多分入ってないだろうなぁ?」

「・・・あら?小ズルく敗者復活戦の様子でも調査させたのかしら?」

「まあ似たようなもんだな。それにしてもラッキーだぜ?『帝国の徴募兵』使うデッキ同士でやれる
なんてレアだしなぁ?」

「・・・ペインター」

「そう、悪いが、妨害ないならコッチが上だ。3ターン始動は早いが、速度の過信が敗因だ」

「フン、勝利を確信してるようだけどお生憎様。さっさと起動してほえ面をかくがいいわ」

「・・・おもしれぇ。じゃあ行くぜ?『絵描きの召使い』をプレイ。『丸砥石』起動だ」


     



――――デュエルスペース外部

 
 中島は、『絵描きの召使い』をプレイする際、色を青と指定し、『丸砥石』を起動した。

「コンボが起動したな。とりあえず1ポイントゲットってとこか?」

「いや、あの女、投了する気配が無い。まだわからないぞ」

 中島の使用するデッキ、ペインターは『絵描きの召使い』と『丸砥石』の二枚をキーカードとした
コンボデッキだ。その動きは『絵描きの召使い』の能力で、場に出てない全てのカードと、呪文、
パーマネントに指定した色を加え、『丸砥石』の、ライブラリーの一番上のカードを2枚、墓地に
置く(それらが共通の色を持っている場合、この過程を繰り返す)能力を起動し、相手のデッキを
空にして勝負を決めるというもの。単純にして強力だが、相手のデッキに自力でデッキに戻るタイプ
のカードがあった場合、一撃必殺というわけにはいかなくなる。しかし、あの女の使用している
デッキ、アルーレンに、そういったカードが入ってるとは思えなかった。

しかし・・・

「ゲッ・・・、『ガイアの祝福』かよ・・・」

「馬鹿な、アルーレンだぞ?サイド後なら兎も角、メインで『ガイアの祝福』?・・・やはり、手の
内が知れているとしか思えないな」

 『ガイアの祝福』、デッキ修復用のソーサリーカードだが、デッキから直接墓地に落ちた際の誘発
能力に、墓地をあなたのライブラリーに加えて切り直す、というものがある。つまり、このカード
がある以上、デッキ破壊を狙いとしたコンボはほぼ通じなくなるのだ。


――――デュエルスペース内部


「なぁるほど、そうきたか・・・」

「わかった?ペインターのコンボじゃ私は倒せない。残りの貧相なクリーチャで殴りに来ても構わな
いけど、出来ればそんな見苦しい真似はしないで投了してもらいたいものね?」

「ハ!冗談!そんなんで勝った気になられちゃ困るな!」

 『ガイアの祝福』、確かに予想外ではあった。アルーレンと確信した今となっては尚更だ。
 アルーレンは『魔の魅惑』をキーカードとしたコンボデッキだ。『魔の魅惑』は3マナ以下の
クリーチャをコスト無しで、さらに、インスタントタイミングでプレイすることが可能となる
エンチャントで、この能力を使用し、『魂の管理人』のような、場にクリーチャが出た際に1回復
する能力を持つクリーチャを出す。その後、自力で手札に戻るカードを利用し、潤沢なライフを得る
。これだけでもダメージを勝ち手段とするデッキには悶絶モノだが、さらに厄介なのは『洞窟の
ハーピー』という自力で手札に戻りつつ、さらに自分の青か黒のクリーチャを戻す能力を持つ存在だ
。これを利用し、場に出た際にパーマネントを戻すクリーチャを使いまわして、相手の場を空にした
り、場に出た際にライフを失わせるのクリーチャを使いまわしてライフを0にしたりと、決まれば
ほぼ勝ちとなる。コンボの性質上、基本的に速攻で決められるように誘発能力持ちのクリーチャと、
それらを揃える為のサーチカードで組まれることが多い。その為、『ガイアの祝福』のような状況
を選ぶカードは採用されないし、されたとしてもまずサイド後になる。

「ま、そんな風に可愛くはしゃがれるとノッてやりたくもなるけどよ?別にこんな状況、なんとでも
なるんだぜ?」

「・・・まさか」

「あ、わかるか?」

「別にレガシー環境じゃ入ってるのも珍しくは無いと思うがな?しかも、今回みたいにサイド戦の
ない対戦だったらそのくらいの対策はしておくぜ?」

「『もみ消し』か・・・」

 『ガイアの祝福』のデッキ修復能力はあくまで誘発能力。誘発する際にもみ消されれば防ぐ事が
可能だ。

「自信もって挑むには対策が温かったな。どうしてもなんとかしたきゃコロ助やらみたいなのを用意
しておくべきだったぜ?もしくは『もみ消し』に対応できるようなカウンター積んでおくとかな。
どの道、そのデッキじゃ相性が悪い、もう少し選ぶべきだったな」


――――デュエルスペース外部


「もみ消したか!」

「・・・流石だな」

 ・・・予想外だったな

 勝負を決め、中島がデュエルスペースから出てくる。

「よう、なんかさっき電話あったみたいだが、なんかあったのか?」

「ああ、それより・・・」

 そのまま去ろうとする、女の手を山田が掴む。

「・・・放しなさいよ」

「そうはいかねぇなぁ、お前には色々と聞きたいことが有るんだ」

「お、まさかワケありか?」

「中島もさっき違和感を感じなかったか?アルーレンに『ガイアの祝福』なんて入ってて・・・」

「ん、まあ多少はな。だが、有り得ないと言い切るほどの事でも無いしな。それよりも俺が不思議
だったのはこの姉ちゃんが、どうやら俺を狙っていたってことだな。是非、理由を聞かせてもらい
たいもんだぜ?」

「誰が!?お前達のような奴に話すことなんて何も無いよ!」

「クック・・・、姉ちゃん、喋ったほうが身の為だぜぇ?その器量だぁ、風呂に沈めた方が俺等には
得かもしれないんだぜ?」

「風呂・・・?」

暫し女は考えるが、すぐに思い至ったようだ。

「下種が!?」

ホント、下種だな。どこで覚えたんだよ・・・

「まあ冗談は置いておくとして、だ。なんで姉ちゃんは俺を狙ったんだよ?正直、姉ちゃんに恨まれ
るような事は今までしてきた覚えが無いぜ?」

「とぼけるな!GLPの手先が!お前達が裏でしていた工作で、私の家族がどんな思いをしたか!」

・・・。

「あ~、こりゃあれか?勘違いで狙われてたってわけか?」

「・・・かもな」

「何を・・・。まだとぼける気か!?」

「あ~、田村つぐみさんだっけか。何か勘違いしているようだが、俺達はGLPの手先なんかじゃない
ぞ?むしろどっちかって言うと敵だよ」

山田がバツの悪そうに説明を始める。

「・・・何?」

「ウチのリーダー、手塚さんは知っているだろう?」

「・・・ああ。お前達全員のプロフィールは聞かされている」

「じゃあ、元プロだって事も知ってるよな。なんでプロをやめたか、これについてはどうだ?」

「表のプロを辞め、裏プロとなり汚れ仕事を中心に行っていると聞いてる。お前達も裏プロだろう」

「これだもんな、たまらねぇぜ」

言いながら中島がやれやれ、といった仕草をする。

「まず、そこが全くの誤解だな。俺達は裏プロなんかじゃないし、手塚さんが辞めた理由に至っては
、今のGLPのやり方が気に入らないからだ。この大会にだって、GLPに真っ向勝負挑むために参加した
んだぜ?」

「馬鹿な!この情報は組織が調べた確かな情報のはずだ!そんな出鱈目・・・」

「あ~、組織ってのは、GLPに敵対してるプロ組織のことか?」

「そうだ、私達はアマチュアの中から選ばれ、今回の大会に出場している」

「どっかで聞いた話だなぁ。けどよ、そりゃおかしいぜ?俺達はその組織に所属してる奴と共闘関係
にあるが、アンタの事は聞かされてないし、アンタは要注意人物って事でコッチに情報がきたんだが
な?」

田村の顔が驚愕に染まる。

「何ですって・・・」

「確認してみるか?」

そう言って山田は携帯電話を取り出す。

「もしもし、三条か?ちょっと聞きたいことがあるんだが・・・」

そう切り出してから二分程だろうか。電話を切って山田が口を開く。

「姉ちゃんよ、言いにくいんだが、どうやらアンタ、騙されたみたいだぜ?」

「!?」

電話中の山田の様子から、ある程度予測はしていたのだろう。田村の顔は真っ青だった。


     



「田村、だったか?俺達の協力者の話では、アンタ達を唆したのはGLPの裏プロだろうってことだ。
以前にも同じような事をしていたらしいから、まず間違いないだろうって事だ」

「・・・そんな」

 それはショックだろう。自分が恨んだ相手の手の内で踊らされていたのだから。

「今回は、そこまで大きな動きは無かったようだから警戒はしていなかったそうだがな。しかし、
動いてると解れば俺達も警戒する必要がある。なあ、アンタに情報を流してた奴等について、何か
知ってることは無いか?」

「・・・知っている事は少ない。今回の件は私を含む6人に対して依頼書が届いたの。私達はそこで
指定された場所で説明を受け、この大会に参加した」

「説明?じゃあ裏プロに会ったのか?」

「いえ、スクリーンごしだったし、シルエットしか映されていなかったわ」

「まあ、そうだろうなぁ。裏ってくらいだし、表には顔出さないだろう」

「ええ、ただ、男だったわ。それから、自分の事をリクドウ、と名乗っていたわ」

「・・・リクドウだって?」

「ええ、偽名かどうかも、そもそもどんな字を書くのかも解らないけど・・・」

 リクドウ、六道、俺にはわかる。山田や中島もわかったのだろう。

「六道って、なぁ?」

「ああ」


――――俺の旧姓だ


「あんまり聞く苗字じゃねぇ、知り合いだったりするか?」

「いや?」

「じゃあ他人なんだな」

鈍いな。いや、薄々は感づいてるのだろうな。

「いや?」

「・・・じゃあ、お前自身だったりするのか?」

「・・・そうだが?」

「!? 冬目・・・、てめぇ・・・」

山田が俺の今の姓で呼ぶ。何故だか滑稽に思えた。

「まあ、ここまで答えが出揃えばわかるだろう?何故俺達の手の内がバレていたか。どのエリアに
いるか。全部俺が流した情報だよ。そこの田村みたいな素人だけじゃない。参加しているプロの
一部にもお前達の情報は全て流している」

「よう、なんでここでそれをぶっちゃけるんだ?」

「今更デッキの構成を変えることも出来ないだろう?どの道、ここで俺は抜けるつもりだったんだ。
少し計算が狂ったのは、そこの女が中島に負けた事だな。全く、使えない奴がいるとこれだからな」

「くっ・・・」

「まあいいさ、長い付き合いだったが、これでお別れだ」

俺は背を向け、そのまま立ち去ろうとする。

「待てよ!ただで行かせると思ってんのか!?」

山田が俺の肩を掴んで引き戻す。

「暴力はやめた方がいいぞ?一応まだ勝ち進むチャンスはあるんだ。わざわざ失格になるような事
をしないでも・・・」

「・・・うるせぇ、俺と勝負しやがれ」

そう来たか。

「・・・ふむ。スペース内での挑戦はルール上禁止されてるが、チーム内での戦闘を禁じるルールは
無いな。コレは一種の裏ルールだが・・・。せめてもの手向けだ、受けてやろう」

「中島、手塚さんや荒木にこの事を伝えておいてくれ」

「・・・ああ」


――――デュエルスペース内部


「しかし、この展開は中々予想外だったよ。まあ、お遊びのようなものだ。お互いの手の内も知れて
るし、気楽にいこうじゃないか、山田?」

「・・・なあ、本当にお前、GLPの裏プロなのか?」

「・・・そうだよ。まあ今はちゃんとしたライセンスも持っているがね?」

「なんでだよ?いつから・・・」

「理由を説明する気は無いが、そうだな、いつから、というのは、初めて手塚さんと会った、あの日
からだよ」

「!? お前、手塚さんの話を聞いた上で俺達を裏切るような真似をしたのか!?」

「・・・そうだよ。ほら、御託はいい、時間も押してるんだ。さっさとやろうじゃないか?」

「チクショウ・・・、なんでだよ・・・」

「勝手に落ち込むのは勝手だが、プレイに響くぞ?」

「・・・セットランド、『樹木茂る山麓』、エンドだ」

「バーンか、正直、相性が悪いな。だが、一回勝負だ、何が起こるかはわからん。セットランド『
Tundra』、「睡蓮の花」を待機、エンド」

「エンド前に『樹木茂る山麓』を起動、『山』を持ってきて俺のターン、ドロー、『モグの狂信者』
をプレイ、さらに『山』をセット、『渋面の溶岩使い』をプレイしてエンドだ」

「怖いな。セットランド『平地』、エンド」

「ドロー、セットランド『山』、二匹でアタックしてエンド」

「そのまま削りきれるかな?悪いが手が良いんだ。睡蓮出るまでに殺せなきゃ負けるぞ?」

「焼ききってやるよ・・・」

「ドロー、セットランド『島』、エンド」

「エンド前に『マグマの噴流』をプレイ、さらに『稲妻』をプレイ。通れば5点ダメージだ」

どちらも優秀な火力だ。

「OK、通そう」

「俺のターン、ドロー、『稲妻』x2をプレイ。渋面の能力もプレイ通るか?」
 
「OKだ」

「じゃあ残り5だな。モグ狂でアタック」

「残り4だ」

「山二枚生贄にして『火炎破』、どうだ?」

「さすがに!『天使の嗜み』だ」

「ゲームに敗北しなくなるカードか・・・。けど、次のターン開始時にモグ飛ばすぜ?」

「どうぞ?」

「チッ・・・、エンドだ」

「アンタップ、アップキープ、どうした飛ばさないのか?」

「飛ばすぜ」

「じゃあ『天使の嗜み』だ」

「まだ握っていたのかよ」

「ああ、そしてお別れだ。ドロー、睡蓮が出たので、起動して黒3マナを生み、『暗黒の儀式』を
プレイ。そして『むかつき』をプレイする。俺はこのターン死ぬことが無いのでカードを全部引く。
その中から『水蓮の花びら』2つプレイ。そうだな今回はコレでトドメを刺してやろう。『葬送の
魔除け』で『触れられざる者フェイジ』を捨てる。これを『浅すぎる墓穴』で速攻を持たせて場に
出す。当然俺は今死なないのでフェイジの敗北条件は効かない。そしてこいつでアタックだ」

 『触れられざる者フェイジ』の攻撃は、プレイヤーに通ればそのまま敗北となる。山田の場で
対処できるクリーチャはおらず、また、手札も無い。

「一応この戦いでのポイントは有効だ。つまり、お前はリタイアだが、チームは勝ち上がれる。
この先、勝ち進めば、まだ戦う機会はあるかもしれないぞ?」

返事は無い。

「じゃあ、な・・・」



     



――――909・手塚の部屋


 手塚の部屋に集まったは良いが、進んで口を開く者はいなかった。
冬目の件については既に全員が知らされている。付き合いの長かった3人は特にショックが大き
かったようだ。

「・・・ふむ、まあ集まってもこうなる事は予想できたがな。しかし、目の前にある問題は捨て置け
ないのでな」

手塚が沈黙を破り、言葉を発するが、返ってきたのは再び沈黙。

 手塚の言う問題、というのはチームメンバーの事だ。冬目を欠いた今、人数は4。とりあえず勝ち
上がれたとはいえ、補欠メンバーのいない『回転MOKUBA』はこのままでは出場権を失ってしまう。

「その事なんだが、実は・・・」

「私が出るわ」

山田がバツの悪そうに切り出そうとすると、同時に部屋に誰かが入ってきた。

「お前は、確か・・・、田村だったか」

「ええ、さっきは迷惑かけたわね」

「過ぎた事はどうでもいい。背景についても先程聞かせてもらった。それより、君が出る、というの
はどうゆうことだ?」

「文字通りよ、さっき三条って男から聞いたわ。貴方達、補欠は名前だけの登録なんでしょ?だった
ら私が変装なりなんなりすれば出場は可能なはず」

「・・・まあ、この大会のずさんな管理から考えれば、確かに可能だろうが・・・。しかし、君は
選手登録がされているだろう?予選ならともかく、本戦出場者は敗者といえど管理されているはず
だが?」

「その心配は無いわ。だって、私達はそもそも選手として登録なんかされていなかったんだからね」

「!?」

「きっとこれも冬目の手回しでしょう?勝とうが負けようが痛くない、ぞんな都合の良い存在だった
のよ。私達は・・・」

「・・・そうか」

一瞬、場が気まずくなる。

「気にしないで。それよりも、どうなの?私の参加は」

「ふむ、こちらとしても願ったりの展開だ。その提案には概ね肯定だ。だが、テストというわけじゃ
ないが、一応君の実力は確認させてもらおうか?」

「そうくるだろうとデッキは用意しておいたわ」

「そうか、では早速だが始めよう」



「セットランド『宝石鉱山』、エンドだ」

「ドロー、ねえ、一応私はそっちの手の内は知っているつもりなんだけど、それで性格に実力の確認
なんて出来るの?」

「無論だ。好きにやるといい」

「・・・わかった。セットランド島、『虚空の杯』を0指定でプレイ。エンドよ」

「ほほう、0指定か。勝負勘も良いようだな」

「さあね」

「ふむ、ドロー、セットランド『真鍮の都』、エンド」

「ドロー、セットランド『古の墳墓』、『Serendib Efreet』をプレイしてエンドよ」

「ほう、フェアリーストンピィか・・・」

 フェアリーストンピィとは、『Serendib Efreet』『海のドレイク』といった3マナ域の強力な飛行
クリーチャと高性能なフェアリーに『梅澤の十手』などを装備して殴り抜けるデッキだ。安定性は
高くないが、高速デッキにも低速デッキにも対抗し得る優秀さを持っている。

「回りも悪くないようだな」

「・・・貴方も人が悪いわね。実力の確認と言いながら、超起源デッキを選ぶんだもの」

「私の性格をしっかりと読んできた時点で、君も十分人が悪いさ。もういいだろう、私の負けだ」

 超起源はその名の通り、『超起源』をキーカードとするデッキだ。荒木の使用するMoMaと同様に、
続唱呪文から『超起源』を直接プレイ。『超起源』の能力で手札の『ボガーダンのヘルカイト』など
といった強力なcip能力持ちクリーチャを数体一気に展開し、勝負を決めるデッキだ。しかし、『超
起源』は0コストのスキルとして扱われる為、『虚空の杯』を0指定でプレイされると止まってしまう
という弱点がある。他にも通常のカウンターで的確に凌がれるともろい一面があるのだが、平均して
2~4ターンで決まる速度を持つ為、速度勝ちしたり、読まれなかった為勝ちを拾えることも多い。
本当は、予選で手塚が速度の速いデッキ、と言ったとき、メンバーの脳裏には真っ先にコレが浮かん
でいた。

「ありがとう、褒め言葉として受け取っておくわ」

「フ・・・、では改めて宜しく願うよ。ところで、部屋は在るのか?」

「いえ、もう本来の部屋は引き払ったわ。だから、冬目の使っていた部屋を使わせてもらおうかと
思ってるんだけど・・・」

「・・・いや、この部屋を使うといい。彼の部屋は私が使用する」

「・・・気遣い、感謝するわ。みんなも、少しの間だけど宜しくね」

『あ、ああ』

「では、諸君、今夜はゆっくり休みたまえ。くれぐれも。この空気を明日に引き継がないように」

そう言い残し、手塚は部屋を去った。
皆も続いて解散したが、手塚の最後の一言だけは守れそうもなかった。

       

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Neetsha