Neetel Inside 文芸新都
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ちよちゃんがお庭のすみにしゃがみ込んで、にこにことしています。
季節は春。
去年ちよちゃんが咲かせた花が、今年もきれいに咲きました。
「この子、普段はぼんやりしてるくせに、こういう事はマメよねー。」
お母さんが言いました。
この花は、去年枯れてしまった花が実を付け、その種をちよちゃんが埋めて育てた花。
雨の日も風の日も、大事に大事に世話をして咲かせた花です。
「旅行にまで持ってくって言ったときは焦ったわよ。でも、咲いて良かったわね、ちよ。」
「うん!」
ちよちゃんは元気に返事をしました。

次の日もその次の日も、ちよちゃんはお庭でにこにこしていました。
けれどそのまた数日後。
ちよちゃんがお庭にでると、大切なお花がうつむいています。
「あら、ちよ、お花元気なくなってきちゃったの?」
「うん…」
ちよちゃんは寂しそうにうなづきました。
「また、来年も咲かせようね。」
そう言って、お母さんはちよちゃんの頭をなでました。
「うん」
ちよちゃんは笑って返事をしました。

それからさらに数日後。
お花からは最後の花びらが落ちようとしていました。
ちよちゃんはそれをじっと見つめています。
やがて、春風はそっと、最後の花びらをちぎってゆきました。

「またね」

ちよちゃんはそう呟きました。
その時、静かに浮かんでいたかみさまが、すうっと手を伸ばし、花に触れようとしました。
それを見てちよちゃんは言いました。

「だめだよ」

かみさまは一瞬、動きを止めました。
それからゆっくり、伸ばした手をちよちゃんの頭に持って行くと、ぽんぽんと優しくなでました。

暖かな風は、そんな二人を包むように吹いています。
かみさまの体の向こうには、舞い散る桜が、ぼんやり透けて見えました。

       

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