Neetel Inside 文芸新都
表紙

ちよちゃんとかみさま
★そのじゅうさん〜にじゅうろく

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ちよちゃんがお友だちのあやちゃんとお部屋で遊んでいます。
あやちゃんはおめめのぱっちりした、きれいな黒髪の女の子です。
あやちゃんの後ろにも、かみさまはぷかぷか浮かんでいます。
ちよちゃんのかみさまとは色がちょっと違って、ほんのり青みがかっています。

「あ、おやつのじかん」

あやちゃんが言いました。
それを聞いてか、あやちゃんのかみさまがすうっと手をあげます。
すると、

「二人ともおやつよー。」

お母さんがお菓子とジュースを持ってやってきました。
「わぁい!」
二人はおやつに飛びつきました。
あやちゃんはにこにこしています。
けれどちよちゃんは自分のかみさまを見つめながら、
少しだけ不満そうな顔でジュースを飲んでいます。
のどが渇いていたからか、ジュースはすぐになくなってしまいました。
「おかわり、ほしいなぁ…」
ちよちゃんはかみさまに言いました。
けれどかみさまはただ浮かんでいるだけで、何もしてくれません。
ちよちゃんは不機嫌そうにお菓子を食べています。

ほどなく二人はおやつを食べ終わりました。
するとあやちゃんは、おやつののっていたおぼんを持つと、
「ごちそうさまー」
と言ってお母さんのところへ運んで行きました。
一人お部屋に残ったちよちゃんは、かみさまの方をむいて、
「…ごめんなさい」
と言いました。
そんなちよちゃんを気にもせず、どちらのかみさまも、
ただおかしな歌をうたっていました。

     

「わぁっ!」

公園で遊んでいたちよちゃん。
突然の風に帽子を飛ばされてしまいました。
買ったばかりの、お気に入りの帽子です。
「おかぁさぁん」
「どうしたの?ちよ。」
お母さんが見ると、ちよちゃんの帽子が木の枝に引っかかっています。
「あらあら、今の風で飛んでっちゃったの?」
「うん」
「けっこう高いところね…」
帽子の引っかかった枝は、木のずいぶん上の方です。
お母さんの身長では、届きそうにありません。
「あら大変。」
一緒にいたあやちゃんのお母さんも困り顔です。
「とってー」
「うーん、ちょっとお母さんたちじゃ難しいわね。今棒か何か探してくるからそこで待ってて。」
そう言ってお母さんは、ちよちゃんをあやちゃんのお母さんに預けると長い棒を探しに行きました。
「うー」
ちよちゃんは今にも泣き出しそうです。
「ちよちゃん、お母さん戻ってきたら、きっとすぐ取れるからね。」
「ちよちゃんだいじょうぶだよ」
あやちゃんも、あやちゃんのお母さんも心配そうに慰めてくれています。
「これなら届くかしらー?」
お母さんがちょっと長めのほうきを持ってきました。
けれど、それでも帽子には届きません。

「…いいよ、ありがと」

ちよちゃんがぽつりと呟きました。
それを聞いてか、かみさまが手をすっとあげました。
すると、

「あっ」

また強い風が吹いて帽子が木から落ちてきました。
「あぁ、良かった。ちよ、帽子落ちてきたわ。」
「うん!」
ちよちゃんは涙をぬぐって帽子を抱きしめました。

かみさまはただ静かに、帽子の引っかかっていた木を見つめています。
枝は風に揺れ、さやさやと鳴っていました

     

ちよちゃんがお部屋でお絵かきをしています。
けれど何だか様子がへんです。
いつもなら、大好きなお絵かきをしている時はにこにこしているちよちゃんなのに、
今はむつかしい顔をしてクレヨンを握っています。
そしてその視線の先にはかみさまがぷかぷか浮かんでいました。

「…むぅ」

どうやらかみさまを描こうとしているけれど、不思議と手が動かないみたいです。
ちよちゃんのクレヨンは画用紙の手前で止まったまま、画用紙はまっしろのままです。
「うー…なんでよー」
ちよちゃんはとうとう、ぷりぷりと怒り出してしまいました。
描きたいのに、なぜか手が動かないもどかしさにちよちゃんもがまんの限界です。

その時、今までちよちゃんを気にもせず歌をうたっていたかみさまが、
すうっと片手をあげました。
するとちよちゃんの握っていたクレヨンがひとりでに動き出し、
画用紙に絵を描きはじめました。
びっくりしたちよちゃん、クレヨンを握りしめたまま、
ぼうっと画用紙を見つめています。

ほどなく絵はできあがりました。
それはちよちゃんのお父さんとお母さんの似顔絵でした。
「わぁ」
その絵はとてもそっくりに描けていたので、ちよちゃんはお母さんに見せようと立ち上がりました。
けれどその絵はすぐにじわりと消えてしまいました。
「あー」
残念そうにちよちゃんは、まっしろにもどってしまった画用紙をばさばさと振りました。
すると画用紙に何か絵が浮かんできました。
それはちよちゃんの知らない誰かの顔でした。
「?」
ちよちゃんが首を傾げていると、その絵もまたじわりと消えてしまいました。
画用紙はまたまっしろです。
ちよちゃんはもう一回やってとかみさまにお願いしましたが、
かみさまは部屋のすみに浮かんで歌をうたうばかりで、
ちよちゃんのお願いを聞いてはくれませんでした。
部屋は夕日でオレンジに染まっていました。

     

「どちらにしようかな…」

ちよちゃんが迷っています。
指を右に左に振っては、かみさまをちらちら見ています。

「てんのかみさまのいうとおり」

ちよちゃんはまたちらっとかみさまを見ました。
けれどかみさまはただぷかぷか浮かぶばかりです。

「どちらにしようかな…」

ちよちゃんはまたかみさまをちらっと見ました。

「てんのかみさまのいうとおり」

ちよちゃんがまたかみさまを見ると、かみさまはすっと手をのばして、空をくる
くる指差しています。

「どちらにしようかな…」

ちよちゃんはそれから数回はあきらめずに繰り返しましたが、
けっきょく、自分で選ぶ事にしました。
かみさまはぼんやり天井を見つめていました。




「い…のと…せて…う…」
ちよちゃんが本を読んでいます。
ちよちゃんは少しなら字が読めますが、お父さんの本なので上手く読めないようです。

「から…え…ます…」
ほとんど内容はわからないようですが、写真や絵がところどころにあって、
ちよちゃんは楽しそうです。
そんなちよちゃんを見て、かみさまが嬉しそうに、すっと手をのばしました。

「…と…して…空の…」
ちよちゃんは楽しそうに本を読んでいます。
かみさまは、嬉しそうに歌をうたっていました。

     

ちよちゃんがお母さんと手をつないで、並木道を歩いています。
お買い物の帰り道、空は抜けるように青く、白い雲はお山のようです。
セミがそこらじゅうで鳴いて、ひたいには汗がにじんでいました。
「おかぁさぁん」
「なあに?ちよ。」
「アイスたべたい」
お母さんはちよちゃんのお願いに、困ったようにこたえました。
「ダメよ。早く帰らないと、買った物が悪くなっちゃうから。」
「えー」
「わがまま言わないの。帰ったら、冷凍庫のアイス食べていいから。」
「いまたべたいー」
「ちよ。」
お母さんが怒った顔でちよちゃんを見ました。
ちよちゃんはそんなにアイスが食べたかったわけではないのですが、
なんとなく、だだをこねてしまいました。
「やだっ!いまたべたいのー」
「ちよ、そんなわがまま言うと、置いてっちゃうわよ?」
ちよちゃんは置いて行かれるのはとても怖かったけれど、
何も言えずにお母さんをにらみました。
お母さんは「そう」とか「わかった」みたいな事を言って歩き始めました。
ちよちゃんは泣きそうな顔で立ち尽くしていました。

その時です。

あんなにうるさかったセミの声がぴたりとやんだかと思うと、
さあっと涼しい風がちよちゃんの頬を撫でました。
驚いたちよちゃんが振り向くと、
そこにはかみさまがふわふわ浮かんでいました。
かみさまはゆっくりとちよちゃんに近づいてきました。
そして、優しく、ちよちゃんの肩を叩きました。
すると今までがまんしていた涙が一気に溢れてきて、
ちよちゃんはとうとう声をあげて泣き出してしまいました。

「おかぁさぁん!」

ちよちゃんは走り出しました。

「おかぁさんごめんなさい!」

いつの間にかまた鳴き出したセミの声の中、かみさまは静かに浮かんでいました。

     

「あー、あ…うー…んー…」

ちよちゃんがおうたを歌っています。
どうやらかみさまの真似をしているようです。

「うー…ああー…るー…」

いつものようにふわふわと歌うかみさまのうたを聴きながら、
ちよちゃんもいっしょになって歌っています。
けれど、言葉は聞き取れても、なぜかうまく真似できないようです。

「うゅー…ららら…にゅー…」

それでもちよちゃんはかみさまの真似をして歌っています。

「るー…あー…」
「ちよ、おうた歌ってるの?」
お母さんがちよちゃんの声を聞いてやってきました。
「あら?」
お母さんがお部屋に入ると、いつの間にかちよちゃんは眠ってしまっていました。
「あらあら、この子ったら、寝ぼけて歌ってたのかしら。」
お母さんはちょっと笑って、ちよちゃんをお布団に運んであげました。


その時、ちよちゃんは夢をみました。
かみさまと、ちよちゃん、そしてお父さんとお母さんと、
手をつないでおうたを歌う夢でした。
起きたときにはもう、歌詞を思い出す事はできませんでしたが、
夢の中で歌うみんなは、にこにこして楽しそうでした。


かみさまは、そんな眠るちよちゃんの頭を優しくなでていました。
そして、いつもよりもずっと優しく、歌をうたっていました。

     

今日はちよちゃん、お父さんとお母さんと、車でお出かけです。
ちよちゃんは後ろの席にお母さんとならんで座って、お外を眺めています。
流れていく、知らない街の知らない景色に触れるたび、
何となくそわそわした嬉しさに胸をはずませています。

お店やお家、お山に川、空を行く鳥達、風に揺れる草花。
それはまるで新しい絵本のように、ちよちゃんを楽しい気持ちにさせます。

(あのおみせはなんのおみせ?)

(あのおおきなとりはなんていうとり?)

(あっ、いまあのこがてをふったきがする)

ちよちゃんは窓にはりついて、色んな事を思いました。
けれど、何となく声には出しませんでした。
ただただ、にこにことはしゃいで外を見ています。
時々話しかけてくるお父さんやお母さんにも、どことなくうわのそらです。
ちよちゃんは、ふと、かみさまの方を見ました。
そして、満面の笑顔で、誰にともなく

「たのしいね!」

と元気に言いました。
かみさまも何となく楽しそうに、外を眺めています。

窓の向こうには、不思議にきらきらとした景色がどこまでも続いていました。

     

ちよちゃんがお空を見上げています。
よく晴れた空には、大きな雲、小さな雲、色んな形の雲が流れていきます。

(あれはねこ)

(あれはハンバーガー)

(あれは…おしろ!)

ちよちゃんは雲を眺めながら、色んな空想をしています。
横ではかみさまが、いっしょに空を見上げながら、
まるで何かを描くように手をのばしています。

(あれはソフトクリーム)

(あれはかいじゅう)

(あれは…なにかなぁ?)

ちよちゃんは日が暮れるまで、雲を眺めていました。
かみさまも、ずっとちよちゃんと空を見上げていました。





「ほら、ちよ、こっちおいで。」
お父さんがちよちゃんを呼びました。
今日はお休みなので、お父さんもおうちでのんびりしています。
「おとーさんあそぼ!」
「いいぞー。何しよっか?」
「えっとねー」
ちよちゃんもお父さんもにこにこして楽しそうです。
「二人とも何してるの?お母さんも混ぜてー。」
「えー、お母さんはダメだよなー、ちよ?」
「おかぁさんはだめー」
「あっ、お父さんはまた変な事教えて!」
「変じゃないよなぁ、ちよ?」
「なぁー」
「ほら!また変な事教えて!」
「ちよ、お母さん怒ったぞ。ほら、逃げろ逃げろ!」
「こら!二人とも!」

その日は三人で、ずっとにこにこでした。

かみさまは、おうちの屋根の上に座って、一日中、明るい歌を歌っていました。

     

「おかぁさん…?」

ちよちゃんがお母さんを探しています。
二人で買い物にきて、迷子になってしまったのです。

「あっ、おかぁさん!」
お母さんを見つけたと思って、ちよちゃんは走りました。
けれど、近づいてよく見るとそれはお母さんではありませんでした。

「おかぁさぁん…」



「あら?ちよ?」
お母さんがふと気づくと、さっきまでいたはずのちよちゃんがとなりにいません。
「いつはぐれたのかしら…」
ふと目を離してしまった事に後悔しながら、お母さんはちよちゃんを探しました。
(ちよ、どこにいるの…?)
お店の中は人で溢れています。
お母さんは大きな声を出すのをためらいながら、きょろきょろとちよちゃんを探しています。
(どうしよう…)

…とんとん

その時、お母さんの肩を誰かが叩きました。
(え?)
お母さんが振り向くと、そこには人混みがあるだけです。
(気のせい…?あ!)
よく見ると、たくさんの人の中に、泣きそうな顔でお母さんを探すちよちゃんが見えました。
「ちよ!」
お母さんが呼ぶと、ちよちゃんは気づいてかけよってきました。
「おかぁさんまいごになっちゃだめでしょ!」
ちよちゃんは言いました。
「何言ってるのよ、ダメでしょ、ちゃんと一緒にいなきゃ!」
お母さんは怒りながらも、安心したように笑っていました。
かみさまも、笑うように、ちよちゃんの後ろにふわふわと浮かんでいました。

     

(……ますように)


今日はちよちゃん、お父さんとお母さんとお詣りにきました。

ここはお母さんの田舎からほど近い神社です。
きれいで不思議な鳥居をくぐり抜け、ちよちゃんはちょっとだけはしゃいでいます。
「ほら、ちよ、お供えしたらお祈りしなきゃ。」
「はぁい」
お母さんにうながされて、ちよちゃんは手を合わせて願い事をしました。

(…ますように)

「ちよは何お願いしたんだ?」
帰り道、お父さんがちよちゃんにたずねました。
「ないしょ」
「えー、ちよ、内緒か?」
「うん、ないしょ」
「ちよ、お願い事はね、ひとに言わない方がいいのよ。」
「そっかぁ、内緒かぁ。ちなみにお母さんは何をお願いした?」
「なーいーしょ、よ。」
「気になるなぁ。」

二人と手をつなぎながら、ちよちゃんはにこにこしながら、心の中で呟きました。

(きょうはゆっくり、おやすみできますように)



夕方、ちよちゃん達がおじいちゃんとおばあちゃんの家に帰ると、玄関のドアの
前にかみさまが浮かんでいました。
ちよちゃんは元気に「ただいま!」と言いました。
「ちよ、ただいまは玄関あけてからね。」
「へへー」
ちよちゃんはお父さんの腕にからみついたまま、かみさまの方をみて笑いました。
かみさまも、笑っているようにみえました。

     

今日はちよちゃん、あやちゃんと二人でお留守番です。
お母さん達が近所にお買い物に行っている間、
あやちゃんのおうちで遊んで待っているよう言われたのです。
お留守番といっても、遊んでいるだけなのですが、
二人のかみさまはどこか心配そうに二人をみています。
二人はかみさまの心配なんてどこ吹く風、楽しそうにおままごとをしています。

プルルルル…

「あやちゃんでんわだよ」
「いいの」
「いいの?」
「るすばんでんわだからだいじょうぶ」
あやちゃんの言うとおり、電話はすぐに留守番電話に切り替わりました。
小さく、応答する録音された声が聞こえます。
「ほらね」
「うん」
二人はまた遊び始めました。

「ちよちゃんジュースのむ?」
それから30分ほどたって、あやちゃんが言いました。
お母さん達はまだ帰っていません。
またきっと寄り道をしておしゃべりしているのです。
「うん!」
ちよちゃんは元気よくお返事をしました。
「ちょっとまっててね」と言って、あやちゃんは台所に向かいました。

その時です。

二人を見ていたあやちゃんのかみさまの体が、ふっと、一瞬半透明になりました。
あやちゃんは台所にいたのでもちろん気づきませんでしたが、
ちよちゃんは視界の中の出来事なのにまったく気づいていないようです。
「おまたせ」
すぐにあやちゃんはジュースの入ったコップをお盆にのせて戻ってきました。
「ありがとう」
ちよちゃんはにこにことコップを受け取り、
二人はおいしそうに冷たいジュースを飲みました。
そんな二人を見ながら、あやちゃんのかみさまは静かに歌を歌っていました。
お母さん達が帰ってきたのは、それからさらに30分後の事でした。

     

ある真夜中の事。
ちよちゃんが自分のお布団の上にしゃがみこんで、しくしくと泣いています。
ふと目が覚めてしまい、起き上がったのですが、急に怖くなって泣いてしまったのです。
大きな声を出すのも何だか怖くて、ちよちゃんは一人、静かに泣いています。
天井の染みや、月明かりに浮かんだ影さえ恐ろしく、顔をあげる事さえできません。
そんなちよちゃんを、かみさまはじっと見つめていました。
歌をうたうわけでもなく、何もせず、ただ見つめています。
時計の針は、さっきからずっと同じ時間を指しているように思えます。

「大丈夫だよ…怖くないよ…」

その時、誰かが優しくちよちゃんに声を掛けた気がました。
(だれ?)とちよちゃんが顔をあげようとした瞬間、かみさまがすっと手をあげました。
すると部屋の中が柔らかな光に包まれ、すべての影が消えたように見えました。
それもほんの一瞬の事で、すぐに部屋は同じ夜の中に沈みました。
不思議な事に、ちよちゃんはもうすっかり怖くなくなっています。
怖くなくなったらまた眠くなってきました。
かみさまは、そんなちよちゃんの頭をそっとなでると、お布団に寝かしつけてくれました。

「おやすみなさい…」

ちよちゃんはすぐに夢の続きに戻りました。


翌朝、お母さんがちよちゃんを起こそうとすると、
お布団のそばに小さな蛾が死んでいるのをみつけました。
お母さんは「きゃっ」と叫んでお父さんを呼びに行きました。
かみさまはどことなく寂しげに、うつむいていました。

     

「たぁくんこんにちは」

ちよちゃんがお部屋でひとり、遊んでいます。

「やあちよちゃん、こんにちは」

そう言ってちよちゃんはたぁくんの手を持って、自分の頭をなでました。

「きょうはいいてんきだねぇ」
「あめですよ」
「かえるはね、あめがすきなんです」
「ははぁ、そうですかー」

ちよちゃんはたぁくんを自分の前に座らせて、自分も座っておしゃべりをしてます。

「そとにいきたいね」
「あめですよ」
「かえるはね、あめがすきなんです」
「そうですかー」

窓を叩く雨は賑やかで、ちょっと外で遊ぶにはむいていないようです。

「ちょっとだけおそといく?」
「どうもどうも」

そう言ってちよちゃんはたぁくんを抱き上げると、窓を開けました。
そしてたぁくんを持ったまま、外に出しました。
たぁくんはみるみる、びしょびしょになってしまいました。
しぶきがちよちゃんの頬にはねています。
「あっ」
あせってちよちゃんはたぁくんを中に入れましたが、すっかり水を吸ってしまっています。
ぽたぽたと、水滴が床に落ちました。
「たぁくんごめんね」
ちよちゃんが言いました。
たぁくんは黒い目でちよちゃんを見つめています。

(いいえ、ありがとうございます。)

そんなちよちゃんに、たぁくんはそう言っているように思えました。
ちよちゃんはたぁくんを抱きかかえると、すぐにお母さんに謝りに行きました。
かみさまは部屋のすみでぷかぷかと、ずっと幸せそうな歌をうたっていました。

     

「うー…ないなぁ…」

ちよちゃんがお庭のすみにしゃがみこんで、何かを探しています。
どうやら四つ葉のクローバーを探しているようで、夢中で葉っぱをかきわけています。

「もー、ぜんぜんないなぁ」

ちよちゃんはあやちゃんの誕生日に、それをプレゼントするつもりでした。
あやちゃんはちよちゃんよりもひとつお姉さんなので、明日で5才にになるのです。

「もー」

ぷりぷりと怒りながら探すちよちゃんを、かみさまは静かに見つめていました。
そんなかみさまを、ちよちゃんは時々ふりかえりながら、必死に四つ葉のクローバーを探しました。

けっきょく、その日クローバーは見つかりませんでした。

次の日、ちよちゃんとお母さんはあやちゃんのおうちにむかう途中、お花を買いました。
本当はどうせなら大きな花束を買いたかったのですが、ちよちゃんのおこづかいでは1本しか買えません。
不満そうにしているちよちゃんに、「きっと喜んでくれるわよ。」とお母さんは言いました。
ちよちゃんは、きっとお母さんが焼いたケーキの方が喜ばれるだろうなと、お母さんが手に持った箱を見ました。

「いらっしゃい!」
おうちに着くと、あやちゃんが元気よくむかえてくれました。
ちよちゃんは小さな声で「おめでとう」と言うと、あやちゃんにお花をプレゼントしました。
「ありがとう!」
喜ぶあやちゃんに、ちよちゃんは本当は四つ葉のクローバーをプレゼントしたかったけれど、どうしても見つから無かった事を話しました。
けれどあやちゃんは「ううん、このおはなのほうがうれしいよ!」と笑いました。

そのあと二人でちよちゃんのお母さんの作ったケーキを食べました。
それはとっても美味しくて、いつの間にかちよちゃんも笑顔になっていました。

そんな二人を、ちよちゃんのかみさまは静かに見つめていました。
あやちゃんのかみさまはどこにも姿が見えませんでしたが、誰も気づきません。
2人はにこにこと、幸せそうにケーキを食べていました。

       

表紙

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Neetsha