Neetel Inside 文芸新都
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だから笑ってくれないか
感情理論

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将来なにになりたいですか?
そんな質問をされたことがある。

幼かった俺は、元気溌剌と、警察官と答えた。

悪いやつを裁き、弱い者を助ける。
そんなヒーローみたいな存在になりたかった。

でも、結局はそんな夢は、荒唐無稽なものでしかなかった。





今の俺を見て、幼かった頃の俺はどう想うだろうか?

こんな、ただ生きているだけの自分。
夢なんて当に諦め、怠惰に毎日を無駄にしている。

学校にも家にも居場所はなく、弱い者を助けるどころが、自分が社会的弱者になり下がっていた。

何度もこのままじゃいけない、と考えた。
でも、何をしたらいいのか、どうやったらこのデフレスパイラルから抜け出せるのか。

そんなの俺なんかには分からなくて、結局はまた同じ一日を過ごしていた。


幼かった頃からの付き合いの友人は、日を追う毎に少なくなっていき、今では数えられる程度になっていた。

たぶん、1ヶ月経てば、友人は一人もいなくなるだろう。

だってそうだろ?
友人ってのは楽しく過ごすために作るもんだ。
それなのに、こんな何の価値もない俺なんかの友人でいてくれるやつのほうがどうかしてる。

友人が減るのは嫌だ。
でも、どうやったら友人でいられるのかが分からない。

昔は分かったことが今では分からない。

人間は、日々進化していると言う、なら俺はもしかしたら人間じゃないのかもしれない。




そして、こんな無駄なことを考えている間に、友人は一人減り、寿命も1日減った。


     

例えば、クラス内で誰か一人殺してください、なんてことが起きたとしよう。

その時に、無言でみんなに指を指されるのが俺だ。

余計な反発もしないし、いてもいなくても同じ存在。

いきなり教室で心臓麻痺を起こし、死んでも、誰も気づかない。
そんな悲しい存在。

それが俺だった。

クラスでは、1日声を発する機会がないこともある。
傷もの扱いをされている毎日。

ふと、いじめられている人が羨ましくなったときがある。





彼らは、人と交わうことができている。
例え、それがいかに最悪な手段だったとしても。

彼らは、周りの人間に「人」として認識されているのだ。
いかに、いじめっ子が「こいつは屑だゴミだ」と言っても、内心では人間と認識されているのだ。

だが、俺はどうだろうか?

人と交わらず、ただ息を吸って吐いている。

俺と観葉植物の違いはなんなのか?

二酸化炭素を吸い、酸素を吐き出している観葉植物のほうが有益だ。
そこが俺と観葉植物の違いだ。

なら、この二酸化炭素を吐き出す物体は、何なのだろうか?


結局、答えなんか出ない。
だって、俺は頭が悪いのだから。

考えるだけ無駄なのだ。
でも、考えずにはいられない。

人生という時間は、何もない俺には長すぎるのだから。


     




俺には、家族がいる。

家族といっても、関わりなんて血縁的な意味でしかない。


放任主義と言えば、羨ましがるやつがいるかもしれないが、俺の場合の放任は真の意味での放任だった。


飯が出ない。

金がテーブルの上に乗っていることもない。

だから、俺は勝手に冷蔵庫の中に入っている少しの野菜でちょっとした炒めものを作って食べる。

ご飯なんか残っているはずもなく、朝昼晩と、米を炊かない限り、野菜炒めを延々と食べることになる。




家族の間に会話はない。

正確には、俺と家族の間には会話はない。


父と母、妹……それがこの家の家族の構成。
そう、近所は思われていたことを最近、不法侵入だと間違われて警察に捕まったときに知った。

近所の人が通報したらしい。



これでも昔、俺は人気者だった。
近所では愛玩動物のようにかわいがられ、父や母には、ちやほやされて育った。


それが今じゃ、いない存在だ。

俺は、いつ死んだのだろうか。


夢を失い、自分を失い……俺は、死んでいった。


半端に肉体を持ったグールのように、どこに行けばいいのか分からずに、さまよい続ける。

ゴールはないのだろうか?


もしゴールがあるのだとしたら、それは、俺が死ぬ時……。

ゴールは遠い。

人生50年。まだ寿命が短い時に織田信長が言った。

今じゃ長寿の国と呼ばれている日本に住む、日本人である俺には、残り60年以上も生きなければならないだろう。

馬鹿な俺でも分かる。
それは地獄にいるくらいつらいものなのだろうと。



だから、俺は今日死ぬことにした。

17歳。
そんな中途半端な年齢で俺の人生は閉じる。
誰にも分からずに知られずに……。


ビルの屋上から、下を見る。
涙が出るくらいの絶景だった。


そして俺は、飛び降りるために柵に手をかけた。

     


柵にかける手が震える。

本能が死ぬことを拒否しているのだ。

それを俺は、暗澹たる気持ちでみていた。

今死ななくてどうする?
ここで死ぬことを諦めたら、次に死ぬことを覚悟するときなんて来るはずない。

今やらないことは、一生やることはない。


俺は、震える手を思い切り、地面に殴りつけた。

皮がズルリと剥け、血が地面を朱色に染めた。

痛みにより、手の震えは止まり、俺は滴る血を無視して、再び柵に手をつけた。

そして、柵を乗り越えて、僅か30センチ程の隙間に足を下ろした。

ふぅ……。

深呼吸をする。柄にもなく、緊張している。
嫌な粘っこい汗が体中を這い、心臓がバクバクと壊れそうなほど高鳴っている。


あと一歩。あと一歩踏み出せば俺は死ぬ。

そう思うと、安堵と共に抗いようのない恐怖が襲ってくる。


体中がガチガチと震え出してきた、ここらが限界だろう。

飛ぼう。

そう思った。これ以上このままの状態だと俺は飛べなくなる。
だから、飛ぼう。



その時だった。
今、誰も開けるはずのない屋上への扉が開かれた。

俺は、急いで振り返った。

そこから、現れたのは、同じクラスの水野 早苗さんだった。

水野さんがこちらを見た。

驚いた顔が見える。

スローモーションのように、必死な顔で水野さんの口が動いた。

俺は、彼女が何を伝えようとしたのかを知らない。

なぜなら、俺の足はすでに自由をなくしていたからだ。

そして俺は、体中に風を纏い、落ちていった。

       

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