何も無かった。
私たちの関係には何も存在しなかった。
中学の頃から付き合っていた彼。
私たちの関係は順調で、このまま結婚するのだと思っていた。
初恋が彼。結婚するのは初恋の相手。
それって幸せじゃない?
初恋の相手とは結ばれない。
そんなのデタラメだと思っていた。
いや、例えそうだとしても私たちには当てはまらないと思っていた。
でも、違った。
私たちは、特別なんかじゃなく、その他大勢に含まれていた。
今日の午後6時頃。
付き合って五年の記念日だった。
幸せなデート。楽しいデート。
そう思っていたのは私だけだったのだろうか?
それに答える声はもうない。
彼から発せられる声。
単純明快すぎて、逆に何て言っているのか分からなかった。
『別れよう』
たったそれだけの言葉を何回も聞き直した。
最後には、彼は呆れて、私を無視して去っていった。
取り残された私に残ったのは、心の空白。
閉じることのできない、大きな穴。
私は、その場に泣き崩れた。
死のうと思った。
生きてても仕方がない。
最愛の彼にとっての私は、ただの一人の人間になってしまった。
その事実が、私を死へと突き動かした。
気づいたときには、私は学校の屋上にいた。
時刻は、十時。
誰もいない学校は、不気味で、死を彷彿と感じさせた。
私は、屋上へと繋がる扉を引いた。
ギギギと錆び付いた音が暗闇に鳴り響く。
そこで見たのは、クラスでも目立たない男の子だった。
名前は知らない。
彼は、こちらを見た。
虚ろな瞳から涙が流れていた。
だけど、その顔は、幸せそうに微笑んでいた。
彼の顔を見て、純粋に美しいと思った。
しかし、何故彼がここにいるのだろうか。
私は彼から目が離せない。
彼がいるのは、柵の向こう。
ようやっと私は、彼が死のうとしていることに気づいた。
「危ないっ!」
私はとっさに叫んだ。
彼の手が手すりから話された。
「死んじゃダメぇぇぇぇ!」
私は、取り乱しながら叫んだ。
今、自分がここに何しに来たのかを忘れて……。
私は、急いで階段を下りていった。途中で何回か転び、膝から血が流れてしまったことも気にせずに走った。
彼は、芝生の上に横たわっていた。
「良かった……」
彼の近くに血が流れておらず、僅かに呼吸していることに安堵し、上を見上げた。
我が校自慢の、大樹が枝をいっぱいに広げ、葉を青々と生やしていた。
どうやら木に引っかかり、それがクッションとなって落ちたらしい。
しかし、それだとしても、このままだと彼が危ない。
私は、携帯で119を押し、救急車を呼んだ。