Neetel Inside 文芸新都
表紙

夜汽車
まとめて読む

見開き   最大化      

 八月の風は、妙に生暖かく、私は少し吐き気がして、そして、歩き出す。それは、思った通り、妙に重い一歩だった。
 八月の風の湿り気は、私の髪を少しべたべたさせる。それが、少し嫌いだ。でも、
 八月の風の匂いは、好きだ。なんだか懐かしい。



 櫻井が死んだ。交通事故だそうだ。私はそのことを聞いたとき、本当に、なんの感情も抱かなかった。
 櫻井と私は中学の二年と三年の時に一緒のクラスだった。櫻井は少しおどおどしているところがあったので、二年の頃に少しだけいじめを受けていた。三年になると、そういったことはなかったように思う。
 私と櫻井は、一緒のクラスだった二年間の間、ほとんど口をきくことがなかった。お互いに全く接点のない女子生徒と男子生徒であったら、まあ、普通のことだろうと思う。
 ただ、私は、櫻井が三年の、そうだ、ちょうどこの時期、耳を覆いたくなるような蝉時雨の中で言った言葉が、忘れられないでいた。
 「骨って、軽いんだよ。とても。」
 彼は親戚の葬式の帰りだった。夏服を汗でびっしょりにしながら、つまらなそうな顔をして、買い物袋を片手にぶら下げた私に、言ったのだ。

       

表紙
Tweet

Neetsha