Neetel Inside 文芸新都
表紙

口先々
副業

見開き   最大化      

 矢場の事はもういいとして、頭の整理をしなくちゃあいけない。クレバーに。そう、ただクレバーにだ。
どうしてこんな状況になったかと云うと、あの女、あの女っつーか・・・・くそがっ。
あああああもう本当にあの女のせいで、いや、俺も短慮だったかもしらんけど本当にあの女のせいで俺はこんな・・・・・・。
いや、冷静にならなきゃいけない。そうだ。俺はクレバー、やれば出来る男。ひとつ上の男。

 ひとつ上の男ってのは包茎手術の病院の広告のキャッチフレーズで、その病院の名前には上野が入っている。
して、包茎でない男性を包茎の男性と比較して上位の男だと云うイメージを含めつつ病院の名前を入れた見事なキャッチフレーズである。
広告を考えた人、コピーライターっての?は思い付いた瞬間にはたと膝を打ち、「包茎(これ)だっ!」と叫んだに違い無い。
更にその広告に載っている写真も秀逸で、術式の説明図等よりも大きくトックリのセーターを、え?今はタートルネックって言うの?いや、いいじゃんそういうのは。え?いいじゃんとか若者言葉を使いながらトックリのセーターとか言っていると無理に若者振ろうとしているおっさんみたいで見苦しい?止めろよ、本当にそう云うのは。俺は32歳だけどそういうの止めろよな。マジで。え?マジでとか言うなって?おい、本当に傷付くし。俺は繊細なんだし。気を遣って欲しいんだし。
まぁトック、いや、タートルネックのセーターの話に戻るんだけれども、トックリ、いや、タートルネックのセーターで顔を隠した男と普通に着ている男を並べ、普通に着ている男は満面の笑顔で女を肩に侍らせているのだ。
この広告は徹底的に包茎の人間を塵、屑、駄目な奴として扱い、包茎でなくなって初めて顔を外に出して女を侍らす事が出来るとまで言っている。
人の体や顔の違いで差別を行う事は悪とされているのだけれども、この広告のそれはそんな事を屁とも思わずに包茎は糞だとセンセーショナルにメッセージを発信しているのだ。
いや、包茎の話はいいんだ。俺の状況の方が大切だし。だし。

 簡単に言うと俺は割とモテるんだけど、この間寝た女が最悪のちんぴらの情婦で、どうやら俺との関係を知ってマジで洒落にならん怒り方をしているらしい。
んで、その女と知り合うに至った理由は俺がナイスな副業をやっていたからに他ならんのである。
携帯電話の販売を生業としている俺はそれだけではあまり贅沢ができないんで、ある程度金回りが良くてルーズな人間の面倒臭い事を代わりにやって金を稼ぐ事にした。
それで何をやるようになったかってうと、2流のキャバ嬢やヘルス嬢やホスト達のバッグやスーツ等を質屋に入れたりインターネットオークションに代理出品して手数料金千円也と売れた金額の5%を頂く仕事を考えた。そしてそれは儲かった。
俺が店を出している中区の繁華街には2流のキャバクラやホストクラブやピンクサロンが多かったのでそこで働く2流のキャバ嬢やホストやピンサロ嬢が携帯をすぐに飽きたり酔っ払ったり暴れて壊して機種変更に来たので客には困らなかったし、奴等は横の繋がりが変な感じに強いというか、性を売り物にして異性から金を巻き上げる自分達の仕事に捻じ曲がった陶酔感を持っていて、それを共有できる店の人間といびつな心の繋がりを持ち、それを大切にしたがっていたので紹介で客は膨れ上がった。かなり。
質屋に持って行くなら1回の手間だが、インターネットオークションに出品するとなると、写真の撮影、出品、質問への返答、落札されれば入金先をEメールで送信、入金を確認して発送、到着の確認、落札者への評価という、面倒な流れをしなければならない。
質屋に持って行くにしても、例えばティファニーのシルバーの指輪なんかだと自分に入るのは千円アンド500円程度にしかならないので子供のお使いみたいな金額だ。
だが客の数はすぐに膨れ上がったので質屋に1回で持って行くのは10点、総買取価格40万なんてな具合で、俺は1万円プラス40万円の5%である2万円の計3万円を手にする事が出来る。
インターネットオークションの方が多少は買取価格が高いので切羽詰っていない客はオークションを希望する事が多く、月の出品は200を超える。つまり、手数料だけで20万円を超えるのだ。
更にはインターネットオークションの取引履歴や評価がぐんぐんとうなぎ上りになり、落札者は他の出品者よりも俺の出品を選ぶのだ。ブラボーだ。

 月に20万も稼げていないような二十歳そこそこの3流ホストがくたくたのスーツを偉そうに持って来て、「キタやんこれ頼むぜー」なんて言ってへらへらと千円札を渡してくるが、あ、俺は稲荷北助って言います。イナリキタスケ。で、そんな若造にへらへら千円をされてもクレバーな俺は「助かるよミヤビ君。あ、コーヒーでも飲んでってよ。缶で悪いんだけどさ」ってな事を言って、業務用スーパーで箱で買ってきた缶コーヒーをくれてやる。この34円の経費でこのミヤビくんは気を良くしてまた俺にスーツやら時計やらを持ってくるし、後輩なんかを連れてくる。
ミヤビ君が俺を「必死で働いてちょっとの贅沢の為に副業までしなきゃいけない冴えないおっさん」と思ってるのは伝わってくるが、俺は余裕があるからそんな事は一向に構わない。ははん。ミヤビ君の月収なんてものは俺がインターネットオークションに出品するのに貰う手数料以下なんだし。精一杯余裕を見せ付ける為にへらへらしてるミヤビ君がかわいく思えてくるね。ほら、俺は徹底してクレバーでしょ。

       

表紙

榎戸 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha