Neetel Inside 文芸新都
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 ダール。本気で来る。ヒウロはそう思った。神器、ブレイブハートが熱い。勇気は萎えていない。
「オリアー、ダールと接近戦を張れるか?」
 ヒウロが言った。ダールにギガデインは通用しなかった。そうなると、生半可な攻撃ではロクにダメージも与えられないはずだ。ならば、最初から全力で行く。ギガデインと剣の融合。ギガソード。そして、ギガブレイク。父を、アレンを破った技。
「やれます。そのための僕です」
 オリアーのこの言葉に、ヒウロが頷いた。刹那、ダールの拳。皮一枚。風切り音が轟音の如く、ヒウロの耳の中で渦巻いた。剣を薙ぐ。空ぶった。蹴り。身を屈める。その隙にバックステップを踏んだ。ヒウロとダールの間にオリアーが入り込む。
「僕が相手だ、ダール!」
 ダールは何も言わなかった。拳。オリアーが剣で受ける。神速の攻防。風を切る音。金属音。様々な音が絶え間なく鳴り響く。
 ヒウロが剣を天に突き上げた。次いで、アレンの剣に闘気を纏わせる。ギガソード。この技で、ダールを倒す。
「ほう、この私のスピードに付いてくるとはな。さすがは剣聖シリウスの後継者。四柱神では勝てないわけだ」
 ダールの拳。空を切る。オリアーの剣。ダールがもう片方の拳で弾く。
「だが、これは受け切れるか? いや、お前に見えるか?」
 ダールが一瞬だけ、右手を引いた。オリアーに戦慄が走る。その刹那。
「雷光一閃突きッ」
 いかずちの刃が胸を貫いた。オリアーはそう思った。血。口端から漏れていた。全身が麻痺している。身体が動かない。感覚だけが妙に鋭利だ。殺気。
「閃光烈火拳ッ」
 ダールの奥義。アレンの戦闘意欲を刈り取った大技。八連撃。拳が見える。オリアーは受け流そうとした。だが、身体が動かない。腹から胸にかけて、八連撃、その全てが叩きこまれた。意識が、薄れる。倒れる。いや、まだだ。オリアーが執念を燃やす。舌を噛む。闘志が戻った。
「海破斬ッ」
 力の限りに振るった。いや、振るったつもりだった。声しか出ていない。剣を持つ手は動いていない。ダメージが大きすぎて、身体の自由が利かないのだ。
「オ、オリアー!」
 ヒウロの声。背後からだった。ダールを倒すために、ヒウロは何か手を講じているはずだ。
「僕に構わないでください!」
 叫んだ。
「構わないでください、か。健気だなぁ」
 ダールの拳が腹にめり込む。血を吐いた。もうダメか。兜ごと、頭を掴まれた。
「その澄んだ眼、気に入らんな。血反吐まみれにしてやりたいよ」
 さらに拳。意識が途切れ途切れだ。ヒウロに全てを託す。それまで、自分は盾だ。オリアーが歯を食いしばる。
「中々、音を上げないじゃないか。見上げた根性だ」
 ダールがそう言った瞬間だった。オリアーの背後で、凄まじいまでの闘気が立ち込めていた。
「オリアーを離せ、ダール……!」
 ヒウロが、ギガソードと化したアレンの剣を握り締めていた。
「フン、真打ち登場か」
 ダールがオリアーを投げ捨てる。無抵抗に地に投げ出された。意識が遠のいていく。だが、オリアーは懸命に意識を保っていた。ここで意識を失えば、剣士の名がすたる。剣聖シリウスは、常に勇猛果敢だった。そして、パーティの盾となり、剣となった。勝負が終わるまで、気を失ってたまるものか。
「来い、ヒウロ」
 ダールの手招き。ヒウロが目を見開いた。ブレイブハートが熱い。剣を構え、駆け抜ける。

       

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