Neetel Inside 文芸新都
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 どれぐらいこうしているのか。ずいぶんと長い時間が経ったようにも思えるし、物凄く短い時間のような気もする。三人は黙り込んだまま、その場でじっとしていた。
 魔族。四柱神。魔王ディスカル。分かっていた事だ。自分達がどれほど弱くて、相手がどれほど強大なのか。分かっていた事だった。だが、思い知らされた。それでも、ヒウロの気持ちは決まっていた。倒す。魔族を倒す。でなければ、自分達がやられる。使命感だった。自分の身体に流れていると言われている、勇者アレクの血がそうさせるのか。
「オリアー、メイジさん」
 不意にヒウロが口を開いた。表情は無い。だが、声色は力強かった。
「ファネルとの戦いの時、俺は意識を失って、その後にライデインを撃ったよね」
 勇者アレクの血が流れている。言おう。ヒウロはそう決めたのだった。
「意識を失っている間、不思議な声が聞こえたんだ。女性の声で、何か懐かしい感じがした。そして、その人はこう言った。俺の身体の中に勇者アレクの血が流れているって」
 二人は黙ったままだった。だが、心の中にあった、何かしこりのような物が無くなったのを感じた。さっきの四柱神も言っていた。勇者アレクの子孫、と。それをヒウロの方から明かしてきた。だからなのか、妙に納得も出来た。
「正直、これから先の旅は辛くなると思う。魔族の件もそうだけど、さっきの四柱神、魔王ディスカル……もう目を付けられているはずだ。次々に刺客がやって来るかもしれない」
 何より、ルミナスに行ったとして、何かの解決になるとは思えなかった。もちろん、村の状況をルミナスに報告はする。だが、それだけで終わる。村に対して、何の対策も講じられないだろう。だから、ヒウロはそれとは別の目的を持つ。すなわち、魔族を倒すという目的だ。ルミナスは大陸最大の王国だった。それだけに魔族や勇者アレクの情報も豊富にあると予想できる。
「ここで一旦、パーティを解散しよう。……俺は魔族を倒す。もうこれは決めた。いや、決めていたって言った方が正しいかもしれない。何か、使命感のようなものを感じるんだ。俺の身体に流れている勇者アレクの血がそうさせるのかな」
「ヒウロ」
 メイジが口を開いた。
「一人で行くのか」
「……はい。覚悟はできてます」
「どうやってライデインを撃つんだ?」
 メイジの口元が緩んでいた。
「魔族を倒すんだろう? ライデインが必要だ。俺も行く」
 メイジが立ち上がり、ヒウロの肩に手をやった。二コリと笑っている。
「何を言い出すかと思えば。一人で行くなんて、らしくないですよ。君の剣の腕じゃ、この先が心配です」
 オリアーも立ち上がった。
「二人とも……。でも」
「良いか、ヒウロ。お前には勇者アレクの血が流れているかもしれない。だが、勇者アレクは一人で魔王を、魔族を滅ぼしたわけじゃない」
「アレクにも仲間が居ました。魔人レオン、剣聖シリウス。その他にも。僕たちが、その仲間です」
 ヒウロは黙っていた。顔をうつむかせている。自分はなんて無力なんだろう。仲間。そう言われると、凄く救われる気持ちになった。勇者アレクの血が流れていようと、自分は人間なのだ。そして弱い。一人ではとてもじゃないが、魔族達に抗する事が出来ない。だが、仲間が居る。メイジとオリアーが居る。
「そうと決まったら、早く河を渡ろう。吊り橋を越えて高台を降りれば、スレルミアの町だ。クラフトって人に会いに行かないとな」
 メイジが歩き出す。
「ヒウロ、頑張りましょう。一緒に強くなるんです。魔族を倒すために」
 オリアーがヒウロの背中を押した。
「あぁ」
 笑いながら、ヒウロも歩き出していた。

       

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