Neetel Inside 文芸新都
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「バーザムを消すとはな。しかもライデイン。ファネルの言っていた事は本当だったという事か」
 低く重い声。だが、どこかに豪快さを匂わせる。
「フゥム。それよりもワシが気になるのは、あの魔法使いじゃ」
 老人の声。いくらか声は高い。
「あの五つのバギマの事? 魔人レオンならバギクロスでやってたわよ」
 女の声。
「どの道、要注意と言う事だ。ここで殺しておく必要がある」
 青年の声。冷静さと力強さを持ち合わせている。
「な、なんだ、どこに居る!?」
 ヒウロが叫んだ。剣を抜こうと思った。しかし、抜けなかった。手がガタガタと震え、言う事を聞かないのだ。いや、それ以前の問題だ。自分の感覚か、血か、予感か。何かそういったものが、戦うなと叫んでいる。逃げろと叫んでいる。メイジもオリアーも、同じように感じ取っているようだ。目を見開き、全身を震わせている。
「そんなに怖がっちゃって」
 頬を撫でられた。女の声。白い肌。赤い爪。赤い髪。顔の半分が髪の毛で隠れている。
「小僧、名をなんという」
 豪快さを匂わせる声。筋肉ダルマ。両手に大剣を握っている。頭髪は無いが、太い眉から威圧感を覚えた。
「どうやら喋る事もできんらしい。恐怖からかの。フォフォフォ」
 老人。背丈は子供ぐらいしかないが、何か言い表しようのない恐怖感を備えているのが分かる。
「ならば、我らから名乗ってやろう」
 細身。青い頭髪。背に長剣を背負っていた。
「我らは魔王ディスカル様より選ばれし、魔族四柱神。かつて、勇者アレクとその仲間達により滅ぼされたが、ディスカル様の復活と共に我らも蘇った。……そう、人間(クズ)どもを根絶やしにするためにだ」
「ファネルがアレクの子孫だとかほざきやがるから来てみたが、俺様一人で片付けられそうじゃねぇか」
 筋肉ダルマ。大剣をビュンビュンと振り回している。
「バーザムに任せて黙って見ていたんじゃが、あやつじゃ無理だったようじゃの」
「当たり前じゃない。あんなゴミ虫にアレクの子孫がやられるわけないわ」
 赤い髪の女がクスクスと笑った。ゴミ虫。バーザムをゴミ虫呼ばわりだ。この四人の実力。少なくとも、現時点での自分達では足元にも及ばないだろう。たとえ、万全の状態であってもだ。何をする事もなく消される。殺されるんじゃなく、消される。そう感じた。
「まぁ、そういう事だ。代わりに我らが消してやる。安心しろ。痛みなど感じん。すぐに終わる。そう、すぐにな」
 闘気。辺りに立ち込める。ヒウロはついに腰を抜かしてしまった。終わる。全てが。
「情けない。反撃の意思ぐらい見せられないのか」
 殺気。その瞬間だった。辺りが暗闇で覆われたのだ。
「待て、四柱神」
 落ち着いた声が天から響いた。
「ディ、ディスカル様!?」
 四人の魔族がその場で平伏する。ディスカル。魔王。
「まだそいつらは殺すな」
「はっ……!? し、しかし、勇者アレクの子孫」
 瞬間、稲妻が辺りに降り注いだ。ライデイン。いや、違う。邪気が満ちている。闇のライデインというべきか。それでも、ヒウロのライデインの威力とは段違いだ。
「私は同じ事を二度、言うつもりはない」
「も、申し訳ありません……っ」
 青い髪の魔族がそう言ったと同時に、闇は晴れた。殺気は消えている。闘気が微かに残っているだけだ。
「ディスカル様に感謝するのだな。寿命が延びた」
 青い髪の魔族が消えた。
「あのお方は何を考えてるんだ。とっととぶっ殺しておく方が良いに決まってる」
 筋肉ダルマが消える。
「仕方ないでしょう。私たちは命令に従うまでよ」
「ウム。ワシらにとってディスカル様は絶対じゃ。お主ら、その拾った命、大切にする事じゃな。ファファファ」
 女と老人が消えて行った。
 しばらく、三人はその場を動けないでいた。言葉を発することもない。何か、とんでもない事になりつつある。ヒウロは勇者アレクの血を引いている事を、謎の声から知らされていた。だから、心の準備のようなものが出来ていた。いつか、こうなる。漠然とした予感のようなものがあった。だが、オリアーとメイジは別だ。この二人の心境は、複雑だった。どうする。旅を続けるのか。ルミナスに行って、王に会って、それからどうなる? 様々な事が頭の中を駆け巡った。三人は一つの転機を、迎えようとしていた。

       

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