Neetel Inside 文芸新都
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 メイジがセシルに目を向けた。様子がおかしい。それは一目で分かった。
「メイジさんも神器を手に入れたんですね」
 ヒウロが言う。それに対し、メイジが頷いた。
「あぁ。しかし、これはどういう事だ?」
 ルミナスの城下町が燃えている。そして、目の前にはセシルだ。だが、明らかに様子がおかしい。邪気をその身にまとわせ、魔法剣は妖しく紫色に輝いているのだ。
「俺達にも分かりません。正直、セシルに何かあっとしか」
「……セシルさんの剣は泣いていました」
 オリアーが言った。剣が泣いている。オリアーはセシルの剣から、それを感じ取っていた。そして、セシルは助けを求めているはずだ。
「わ、私は魔族だ……!」
 セシルが顔を歪ませながら、魔法剣を構えた。頭痛がどんどん酷くなる。
「一体、どうすればセシルを助けられるんだ!」
 ヒウロも剣を構える。
 その時だった。メイジの神器、神の杖・スペルエンペラーが蒼く輝きだした。
「選ばれし者よ、聞こえるか」
 メイジの頭の中に声が響く。神器だ。神器が、メイジの頭の中に語りかけているのだ。
「……あぁ、聞こえる」
 メイジが頭の中で返事をした。
「今、汝が対峙している人間は、闇の力によって人の心を失おうとしている」
「……失おうとしている? なら、まだ」
「そうだ。まだ、かろうじて人の心が残っている。そしてその人の心が、闇の力に懸命に抵抗しているのだ」
 あのセシルの苦しそうな表情。頭痛はそのためか。メイジはそう思った。
「どうすれば助けられる?」
「汝と対になる力を持つ者を探せ。その力を持つ者のみが、あの闇の力を払拭できる」
 これを最後に、スペルエンペラーの輝きは消え、神器の声は聞こえなくなった。
 メイジが考える。自分と対になる力。神器入手の試練を思い出す。神器より生み出されし賢者カリフ。そのカリフの言っていた言葉。
「……神器は使い手となり得る人間を二人としていた」
 メイジが呟いた。
 すなわち、治癒呪文の正の力の持ち主と、攻撃呪文の負の力の持ち主の二人だ。そして、メイジは負の力の持ち主。その対となる力。つまり、治癒呪文の正の力だ。
「だが、その力を持つ人間を探せとは」
 ふと、メイジの頭に何かが引っ掛かった。治癒呪文。その使い手。
「まさか、エミリア姫」
 メイジがハッとした。ルミナス王国、第一王女のエミリア姫か。メイジはそう思った。エミリアは攻撃呪文が扱えない代わりに、治癒呪文を得意としていた。そして、その力で民を何度も救っている。
 メイジとエミリアは、互いに妙な親近感を覚えていた。その親近感の正体。それは、同じ神器の選ばれし者という共通点から感じる物だったのか。そして、神器はメイジを選んだ。
「ヒウロ、オリアー」
 メイジが二人の名を呼んだ。セシルと対峙している二人が振り返る。
「セシルを助ける事が出来るかもしれない」
 メイジの表情には自信があった。

       

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