Neetel Inside 文芸新都
表紙

いっぱいの光を脳に
ぬくもりの中で悟る。 She awake in the dark

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 私はもうまともではなく、リアルには生きてゆけないとベッドの上で布団にくるまりながらとうとう悟る。私の脳みそはもう物語を創ることだけの為にぐるぐるぐるんぐるんに動いてしまっていてもうどうにもならない。最近の私は現実の人間関係のことや期末テストなどのことは一切考えられず、寝ても冷めても奇妙なメッセージ性のある連続殺人事件のこととか捨て犬が念密な殺人計画を立てて自分を捨てた小学三年生の男の子を密室の中で殺すこととか訳のわからないことばかり考えている。いや、正確に言うと私は寝てすらない。寝ずにずっと布団の中で寝る前の状態に脳みそをセットしておいて危険なことばかり考えている。だから私はもう駄目なのだ。
 私は掛け布団をぶっ飛ばすように起き上がって自分の部屋を飛び出して階段を降りてリビングからでかいゴミ袋を取ってきて階段を昇って自分の部屋に戻る。そしてスクールバッグから教科書ノート類を全部引っ張り出してゴミ袋に入れる。少し迷ったが筆記用具類もまとめてゴミ袋に入れる。最近は小説を書くにもパソコンを使う人がほとんどで、ペン類で原稿用紙に書いてる人なんていない。江國香織はシャーペンで書いてると自身のエッセイで語っていたが例外中の例外に違いない。他に私はクローゼットの中から学校指定のブレザーとかブラウスとかスカートとかネクタイとかも引っ張り出して全部ゴミ袋に入れる。
 ごちゃごちゃのゴミ袋を持ったまままた自分の部屋を飛び出してスウェット姿のまま外に出る。が、一度家に戻って自転車の鍵と台所にあった焼酎とマッチ箱を持ってまた外に出る。ごちゃごちゃのゴミ袋は私の自転車のカゴには入りきらなかったので、そのまま肩に担いで私は自転車を飛ばして近所のでかくて汚くて遊具も何もない公園へと向かう。公園についた私はゴミ袋の中身をぶちまけて上から焼酎をかけてマッチに火をつけて投げ入れる。私はもっと派手にどかーんと爆発して火がつくのかと思ったらそうでもなくぼしゅううううという音がして地味にめらめらと燃え出す。深夜の2時に公園で火遊びをしているところを見られたら普通は通報されてしまうところだが、この公園は普段からヤンキーがたむろしているので少しくらい派手にやったところで誰も気にしない。
 ゴミ袋に入れて持ってきたゴミ類は大方燃え尽きて真っ黒になって火も消えかかってきたところで私はようやく安らかな気持ちになってまた自転車に跨る。来た時のせかせかした気持ちとは逆に、帰る時の私の心はとても晴れやかでカリブ海のようだった。陽気になって自転車をこぎながら歌とかも歌ってしまう。イマジン~フンフフンピーポ~♪
 結構大声を出したからもしかしたら近所迷惑になったかもしれないがどうせこの町には変な酔っ払いとかしか住んでないからオッケー。家について自転車に鍵もかけないままドアを開けて階段を昇ってまたドアを開けて私はベッドに舞い戻る。私は二週間ぶりの安らかな眠りに付く。

 しかし、1時間20分ほど眠ったところで目を覚ましてしまう。でももう眠くなかったので、掛け布団をぶっ飛ばすことなく普通に起き上がってパソコンの電源を入れる。パソコンで小説を書くとしたら普通はどうやって書くのか私は分からず、とりあえずメモ帳を開いてそこに書くことにする。私の妄想はもうパンク寸前で書きたいことはめちゃくちゃにいっぱいある。はずだったが一向に文章は創られない。書きたいことはいっぱいいっぱいあってもそれが脳みその中で夢のようにぐるぐるするだけで言葉にならない。何を表現しようとしても『私は』で手が止まってしまって先に進まない。そうやって悶々と一時間、二時間、と過ぎてゆきとうとう朝の7時になってしまい姉が私の部屋に入ってくる。

「あれ、彩子、もう起きてたの?」姉の声。さっきも言ったように私はここ最近まともに寝ていなかったが、姉の前ではちゃんと寝た振りをして健康的な生活を送っていると見せかけていたので姉はこんなことを言うのだ。

「彩子、朝ご飯食べてくでしょ?」「いらねっす」「食べないとお昼までにお腹すくよ」「いらねっす。あと、高校ももう辞めますから私」「え?どういう意味?」「そのまんまの意味っす。もう教科書とかも捨ててきたんで」「は?いやいや意味わからんし」「意味わかるし」「辞めるってどういうこと?辞めてどうすんの?」「小説家になるんです。そんで生きていくんで大丈夫です」「いやちっとも大丈夫じゃねぇし、意味かんねーし」「何が意味わかんねーんすか。別に難しいこと何も言ってねぇです」「そういうことじゃねーし。馬鹿じゃねーのあんた。小説家になんてなれるわけねーからあんた」「何でですか。なれねーことねーです」

 そこで姉は突然濡れ台布巾を私に投げつけてくる。姉に背を向けたまま喋っていた私の後頭部に結構なスピードで台布巾が当たって私は前につんのめってキーボードに思いっきり鼻をぶつける。

「何すんですか!」
「いいから早く学校行って来いよお前!学校行かないんなら飯食わせねーからな!お小遣いもなしだぞ!小説書いて印税で暮らせよおめー」
「死ねっ!」

 姉の顔に台布巾を本気で投げ返してから体当たりして姉の体をぶっ飛ばして横をすり抜ける。姉に捕まったらその身長差から間違いなくボロボロに私が負けるのでそのまま一目散に外に飛び出す。裸足で。

 普段は身だしなみが整っていて口調も穏かで成績優秀で、容貌端正、慇懃丁重を絵に描いたような私がスウェット姿で裸足に来客用のスリッパを履いて教室に入ってきたことでその場は静まり返る。結局、行く当てもなく私は高校に来てしまったのだ。まぁ、高校を辞めるにしても何かしら挨拶的なものがあってもいいと思ったので丁度良い。
 普段からマジメ腐ってていい子ぶってて誰かのちょっとした服装の乱れとかでも一々文句を言うことで有名でクラスの中でも浮きに浮いている伊藤くるみ(陰でのあだ名『糸クズ』)が私をお化けを見るような目で見つめてくるので、私は机を蹴って威嚇する。そいつは口元だけは笑みを浮かべて余裕を見せつけようとしたが、私のキャラじゃない行動っぷりに適応できないでいるのか唇はわなわなと震えるだけで言葉は何もでてこなかった。情けなく哀れな馬鹿女である。

       

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