Neetel Inside 文芸新都
表紙

いっぱいの光を脳に
暴力に溶ける。 We answer violence with violence

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 気持ち悪く鉄人の部屋を物色していた私だったが10分ほど探し続けてようやく鉄人の恥ずかしノートらしきものを見つける。もっと手早く見つけられると甘く見ていたがまさか小学校の卒業証書を入れる筒状のやつの中に丸めて隠してあるとはな。これは普通じゃない。普通はもっと取り出しやすく、ノートを綺麗な状態で保存しておけるところに隠すはずだ。毎日手にとって開く大切なもののはずなのに。どういうことなのか?中身を見ても、恥ずかしノートであることは間違いないのだがいまいちぱっとしない。オリジナルキャラクターの絵とか設定とか物語のプロットらしきメモ書きはあるのだが、物語の本筋、本編がない。世の中には物語の設定だけ考えて満足してしまうような変わった人がいるのは分かるが、鉄人はそういう人なのだろうか?それはショックがでかいというか、ドン引き。引きこもりをやってるくせに恥ずかしノートをこの程度のレベルで留めておくような人だったとすれば、鉄人を見る目が冷たいものになってしまう。

 私が鉄人のことを諦めきれず、恥ずかしノート(本編)の存在を信じてそれを探し回ってる内に、鉄人が部屋に戻ってきた。最初は、は?なに人の部屋あさってんの?馬鹿じゃねーの?みたいな感じの態度をとる鉄人だったが、卒業証書を入れる筒状のやつが転がってるのを見て恥ずかしノートを見られたことを知り、鉄人の態度は一変。私に馬乗りになり顔面を殴る殴る殴る。そりゃそうだろ。当然。私は鉄人の攻撃に驚きもしなかったし、あえて防御の姿勢もとらなかった。恥ずかしノートを見られたら人がこんなふうになることなんて私は感覚的に知ってる。でもしょうがないだろ。どうしても鉄人の恥ずかしノートを見たかったのだから。有川浩の小説に勝手に人の創作物を見るのはその人の心をレイプしてるようなものだよマジ最低みたいなことが書いてあったけど、だったら人の恥ずかしノートを見るのは児童強姦みたいなもんだな。だから私は鉄人の攻撃を甘んじて受け入れる。気が済むまでやるがいい鉄人。怒り狂って余計な力が入りまくってる攻撃なんて痛くないのだ。


 気が済むまでやった鉄人はフローリングの床にうつ伏せになって動かなくなった。私といえば数分間鉄人に顔面を殴られ続けたが唇の端がちょっと切れている程度だ。あの程度の攻撃では、私の顔は腫れ上がったりしないのだ。
「この程度なの?」私は先ほどの鉄人の攻撃に対してでなく、鉄人の恥ずかしノートに対して言う。

「この程度のノート見られたくらいで、そんなに恥ずかしいの?」
「…」
「これくらいのことだったら、みんな書いてるって」
「…」
「こんなの見られたくらいで、別に恥ずかしくないじゃん」恥ずかしがる価値もない。
「…」
「別にエロくもないし」
 この程度のことしか書いてないノートでは、その人のどんな部分も見えない。悩みも憧れも性的趣向も見えないし、価値もない。ゴミだ。私は鉄人のノートを破る。破って破ってめちゃくちゃにして撒き散らす。鉄人は何も言わない。いいのかそれで。泣いてるのか、鉄人。考えてみれば鉄人も引きこもりとはいえもう中学生だ。怒りに任せて他人を攻撃しまくることが恥ずかしいことだってことも分かりつつある歳だ。恥ずかしノートを見られ、そんな醜態をさらしたとなれば鉄人はいま私に対して二重に恥ずかしい状態にあるということだ。たしかに、そんな状態では話はできないよな。今回は私にも悪い部分はある。

 私は鉄人をそのままにして部屋を飛び出し、家を飛び出し、自分の家に一目散に走る。家に入ると姉が色々と喋りかけてくるが私は何一つ答えられない。やがて姉の声の音量がどんどん上がっていき叫ぶような感じになってくるが私は答えられない。無視してるとかじゃなく内容が耳に入らない。それどころではないのだ。私はこの家で私の恥ずかしいものを探し集めなければならない。間に合わなくなる前に。私の生まれたばかりの頃の写真が入ってるアルバムやら小学校の頃の作文やらテストの答案やら図工の作品やら小学校のころに描いた漫画やらを私はかき集めるがこれでは鉄人が味わった恥ずかしさには多分全然足りない。いきなり部屋をあさられて入念に隠した恥ずかしノートを見られた時の恥ずかしさってのは、どの程度のものなのだろう。私はそれに並ぶほど恥ずかしいものを鉄人に見せ付けなければならない。もし鉄人の部屋で見つけた恥ずかしノートが私を充分に満足させる内容だったならば「勝手にノート見てごめんねごめんねー」で済む話だったのだが今回はそうじゃない。今回は鉄人が私に心を閉ざし始める前に対等の立場になって話し合わねばならない。本当に鉄人の恥ずかしノートはあの程度のもので全てなのか問いたださねばならない。こういう時はパンツなどの下着類も持っていたほうがいいのだろうか?いやパンツは違うか。確かにパンツは見られて恥ずかしいものではあるけどパンツは私特有のものではないし私が作ったものでもないし関係ない。却下。

 私の部屋の中を探せば恥ずかしいものなんて無限大に飛び出してくると思っていたがそうでもなく、意外とどれも見られてどうこういうものではないと知る。そもそも恥ずかしいというのは相手にこっそり見られたり無理やり見られたりした時に発生するものだから自ら提示してもそれはちゃんとした形では得られないのでは?と焦りながら考えている間にも姉のキンキンした日本語にもなってないような叫び声が耳に入ってくる。うるせぇなぁもう。

「うるせぇなぁもう!!」
「うるせぇって何よ!!どういうことなのよちゃんと説明しなさいよ!!」
「来いっ!!」

 私は私の恥ずかしいものセットを大量に抱えたまま姉の手を引っ張る。姉は私の手を振りほどいて逃れようとするが力任せに引っ張ってひっちゃかめっちゃかになりながら家を出る。そして私達の姉妹喧嘩を鉄人に見せつけるために理恵の家に向かう。大声を張り上げての身内との喧嘩なんてこれほど恥ずかしいことが他にあるか?どうせこのままでは収まらない事態なのだからそれはもう利用するしかない。私の恥ずかしいものセットが道中にバラバラと零れ落ちてゆくがこの際気にしてられない。

 そうやってひとつのグロテスクな塊になった私と姉が理恵の家になだれ込むが家の中の様子は私達のグロテスクさと良く馴染むような雰囲気になっていた。家具やら食器やら時計やら電化製品やら本やら筆記用具やら燃えるゴミやら燃えないゴミやら生ゴミやら理恵やら鉄人やらがぐっちゃぐちゃに混ぜ合わせられていて高熱の時にうなされながら見る夢のような状態になっていた。私が「は?」って顔をしている間に姉はとっさに私から離れ、理恵をめちゃくちゃに殴りつけてる鉄人を振り向かせてパァンと頬を張った。それはおいおい、目を覚ませ、みたいな感じの力を抜いた攻撃だったがそれに対して鉄人が本気で姉の眉間に反撃をいれたのだからもう大変で姉もぶち切れて理恵の家の中の高熱の夢に仲間入り。そうなると体格差もあって当然の如く鉄人が命の危険にさらされはじめたので私は鉄人を救いたい気持ちとか日頃の怒りとか野生的暴力性とかをこめて姉にドロップキックを入れて高熱の夢に仲間入り。

 脳みそが熱くなって熱くなって何も考えられないそんな状況で、私の頭の中で唯一小さく小さく残っていた冷静な部分はこの騒動で理恵のメガネが割れてないかどうかそれだけを心配していたが、理恵のメガネは鉄人に殴られる前にちゃんと外されてメガネケースに入れられて理恵のスカートのポケットの中に納められていたみたいで、それが分かると私の冷静な部分は消滅して私は姉や鉄人と同じように完全に爆発して溶けて混ざっていった。



       

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