~~決着と決意~~
気がつくとぼくは、やわらかい敷物の上で寝転がっていた。
着心地のいい、しかし派手な、とても高価そうな衣装が身体にまとわりついているが、なんかもう酔っ払って暴れた後のようにむちゃくちゃで、ぼくは脱ぎ方もわからずとほうにくれた。
まわりには、いろいろなひとが寝転がっている。
ぼくとおなじように高価そうな衣装をまといつかせたひと、簡素な服装の人、パンツ一丁の人、なにも着てない人。
そんな、いろんな男女のあいだに、お皿や食べ物や酒ビンが散乱している。
ぼくはそのまっただなかにいた。
なんだ? いったい何が起こったんだ?
あいつが、ごちそうを食べてお酒を飲んで、たくさん飲んでまた飲んで。
そこから先がわからない。
とりあえず、だれも死んでないみたいだ。それがとりあえず救いだ。
「どうしよう……リュストくん、ジョゼフさん、生きてる?」
『な、なんとか……えっ』
『うわっなんだこれ?! クレフさんなにかましたんですか? やつは?』
「わかんない……」
『あいつは……もういないみたいです。ほかのひとたちも何人か。これは……』
「気がついたか」
そのとき後ろから聞き覚えのある声がした。
振り返ると、やつにどこか似た、布(たぶんカーテン)を身体に巻きつけただけの、でもずっと穏やかそうで気品のある男性がいた。
「こんな格好で失礼。領主のシストバーンだ」
「領主様……」
そうだ、領主様なら事態がわかるかも。それをきこうとすると、リュストくんがわっと泣き出した。
『シストバーン様!!
よかったご無事で……
ぼくは、ぼくはもう、どうなってしまうかと……』
「……リュスト? リュストだね?」
『はい!!』
領主様は歩み寄ってきて、やさしくリュストくんを抱きしめた。
リュストくんは一瞬ためらった、けど、「いいんだよ」と頭をなでられて、思い切り領主様にだきついた。
ふたりはかたく抱き合った。
それはまるで、ポリンとソルティさんが、ぼくのなかで抱き合ったときのように。
そのとき、ぼくにはわかった。
リュストくんのほんとうにだいじなひとは、ここにいる領主様だったんだ、と。
やつのおかげなのか、ぼくの身体にキズはなかった。
けれど大事を取って、しばらく領主館で休養をとることとなった。
『それにしても……
どうやったんだ? あんな化け物モードのあいつを、領主様は一体、どうやってどうにかしたんだ?』
ジョゼフさんのことばにリュストくんがこたえる。
『ああ、一服盛ったんだ』
『は?』
『もちろんつかまってからそんな芸当はできない。領主様はあらかじめ――戦いが始まる前に、館の酒や食料にクスリをしこんでおいたんだ。
クスリで自制心の取れたやつは気の向くままに飲んで食っていろんなことして、酒池肉林と桃源郷を一気に体験して、あえなく昇天しちまったというわけさ』
『つまり盆と正月が一緒に来たようなもんか』
『なんだそれ。』
それっていうとつまり、ぼくの身体はいろいろととんでもないことを体験したんじゃなかろうか。いや、今更どうにもならないし、とりあえず無傷なんだから考えるのはよそう。
その日、食事の席で領主様は、ぼくに謝ってくれた。
「クレフ殿。このたびは弟がたいへんな迷惑をかけた。詫びても詫びきれるものではないが、どうか謝罪だけでも受けてほしい」
「い、いいえ! そんな、こちらこそ、……ぼくさえのっとられなければ、こんなことには……本当に申し訳ございませんでした!!」
「それは弟のしたことだ。どうか気にしないでくれ。
君たちは巻き込まれただけ……。
せめてもの気持ちだ。きみの望みをなんでも叶えよう。
もちろんわたしのできる範囲のことで、だが……」
ぼくは言った。
「ぼくのなかの人たちを、みんな幸せに、天の国に帰したいです。
そのあと……
ぼくを死なせてください」