~~手に入れたもの、失ったもの~~
こうしてぼく(たち)は、森の義賊の助手になった。
――悪徳商人と、金持ちからしか奪わない。
――半額以上は奪わない。そしてけして、殺さない。
ぼく(たち)はそのことを、毎回毎回、徹底的に言われた。
もっともぼくは、目の前で戦いがあるという時点でびびってしまって、ポリンに呆れられていたのだけれど。
そのせいか正面に立つのはいつもソルティさんで、ぼく=ポリンは仕掛けの網を上げたり煙幕を炊いたり、弓矢を打ったりと後方支援専門だった。
ワナや仕掛けはポリンが得意であるらしく、ぼくはポリンにいろいろと教えてもらった。
弓矢もたぶん、ポリンがもともと持っていた才能だったのだろう。しかしソルティさんは、それはお前の才能だ、と言ってくれた。
「ポリンに弓を教えたのは俺なんだ。だからわかる。
彼女とお前は弓の引き方も、矢を放つタイミングも微妙に違うんだ。
――これだけの腕があるんなら、いけるかも知れないな」
そしてソルティさんはぼくたちみんなをテーブルに集めると、古びた地図を広げた。
真ん中より少しずれた場所にあるバツ印を指差し、言う。
「これはこのあたりの地図だ。
この、ペケの打ってある場所。ここにはかつて、このあたりを根城にした古代の武将の墓所がある。
これまでは、戦えるのが俺ひとりだったから入れなかったが、クレフがいる今ならなんとかなる。
ここで宝を手に入れられれば。この暮らしもずっと楽になるはずだ」
「いやったあ!」
テーブルは沸き立った。
「みんな、お宝ゲットしたらまず何食べる?」ソルティさんの問いに対して……
『オムレツ! 大きいの!!』卵大好きのポリンが即答。
「おれ焼肉おなかいっぱい食べたーい!」アンディは目を輝かせて立ち上がる。
「あたしはケーキ食べてみたいなぁ♪」ほっぺたに手を当ててうっとりのメアリィ。
「えっと、えっと、“スズキのパイ包み”っ!!」咳き込まんばかりにウォルターが叫ぶ。
そうだ、ぼくもむかし一度だけ食べた、町のお店の――“ヴァネッサ”のシチューが食べたいなぁ。
『クレフにいちゃんは“ヴァネッサ”のシチューだって! キマリだね☆』
なんて考えるとポリンが親指立てて暴露して。
「なんだお前、あれ食べたことあんのか! 俺もあれ食べたかったんだよ。
よし、それじゃみんなであの店行って、食べたいもん全部食べようぜ!!」
「さんせーい!!!」
その日は準備と休息にあてて。
その翌朝早く、ソルティさんとぼく、ぼくのなかのポリンは出発した。
たいまつと、大きな袋とお弁当、山刀と弓矢を持って、厚手の服と頭巾も身につけて。
お宝は無事見つかった。
いくつかの武具、宝飾品、金貨と宝石。
大きな袋に入れられるだけ入れて、ぼくたちは帰ることにした。
そのとき。
低く、弦のうなる音がした。
「あぶないっ!!」
ワナが発動したのだ。
ソルティさんがとっさにぼくを突き倒す。
たいまつが転がった。お宝がぶちまけられる。
反響音が消えていく……
けれど、ソルティさんは、ぼくの上にふせたまま動かない。
『あんちゃん! ま、まさかっ』
ポリンの声が震える、ぼくもぞっとした。まさか。
「す、すまん……その、まさか、だ」
ソルティさんの声は苦痛に満ちていた。
『そんな、あんちゃん! しんじゃだめっ!!
あんちゃんが、あんちゃんがいなくなったら、ボク……』
ポリンは泣きながらソルティさんを抱きしめた。
あの日、目を開けたぼくを、リアナが抱きしめたときのように。
あのとき、目を閉じたリアナを、ぼくが抱きしめたように。
「ポリン……」
ソルティさんの声が震える。そしてソルティさんも、ポリンを抱きしめようとする。
そうだ、みんなに聞いたっけ。ソルティさんは、ポリンを好きなんだ。
そのときぼくは感じた。
ソルティさんの身体から、生命と魂が、するり抜け出し、ぼくのなかに入ってくるのを。
そしてぼくのなかで、ふたりの魂がしっかりと抱き合うのを。
ソルティさんは、遺体なんかほっといていいと言ったけど、ポリンは断固反対してお宝の袋ごとおんぶした。
そうしてぼく(たち)は、よろよろと隠れ家へと戻った。
ソルティさんの変わり果てた姿に、みんなの顔が凍りつく。
「うそ……」
「そんなあ、あんちゃん!!」
「お宝なんかいらないよー! あんちゃん、帰ってきて!!」
『ほいよ。帰ってきたぜ』
そのときぼくのなかからソルティさんが言って、みんなの頭をぽんぽんと叩いた。
「え………?!」
『いやあの墓、ヘンなとこにワナありやがってさ。
俺うっかりやられちまったんだが、クレフがいてくれたんで“助かった”んだ』
「………………………」
みんながぼうぜんとぼく(というかソルティさん)を見上げる。
「うー……ん……」
「クレフにいちゃんが、…あんちゃんになったの?」
「なんかちょっとたよりないなあ」
「うぐっ」
『いいんだって。
そーなっちまったもんは仕方ないだろ。それに俺にとっちゃ好都合だ。
ここんとこさすがに人相が知れてきちまってて、町に行くのもヤバくなってきてたろ。
そこへ、新しいカオが手に入った。
ちょっととはいえお宝もあるし、これで堂々新しい暮らしができるってもんだ。
近くの町か村に行って、家を買おうぜ。そこでみんなで暮らそう。
俺もいい加減マトモに働いて、お前たちに日の当たる人生を歩ませてやるよ。
新しい服買って、毎日ちゃんとしたメシ食べて。学校にだって行ける。
勉強して、友達作って、町で遊んだり買い食いしたり、やりたかったこといろいろやれるんだ』
「あ、あの」
ぼくは手を挙げた。
「それだったら、ぼくのうちに来ませんか?」
「え」
すると、にわかには信じられない展開だったのだろう、子供たちは顔を見合わせた。
ソルティさんがぼくのココロを覗き込んだ、感じがした。
『施し、てワケじゃないみたいだな』
「はい。
短い間だけど、こうして一緒に暮らして……みんな、ぼくの家族だって今は思ってるし……
ソルティさんのことも、責任、感じますから」
『俺のことはいいってのに。
お前のカオと身体使わせてもらえるってだけで俺にとっちゃ充分なんだぜ?
ポリンともこうして一緒になれたしさ』
『あんちゃんってば☆』
まわりでみんながひゅーひゅーする。これはちょっぴし恥ずかしいかも……
『あ、人前じゃこんな会話しないから安心してくれな♪』
「助かります……」