夏祭りに誘われた。
祭は嫌いじゃないし、何より祭じゃ女装はさせられないだろうと思ったしね。
でも結局は自分の浅はかさを思い知る事になってしまった。
ああ、そうだね。浴衣だから大丈夫。そんな幻想は捨てるべきだったんだ。
柄なんて関係無い。そう思ってたんだけど、実際着てみるとかなり関係があったんだね。
男性用。女性用。多少の違いはあれど、そこまで大きな違いは無いと思ってたけど、これは無いわ。
恥ずかし過ぎる。
今までは女装させられても学校の人間達にしか見られて無かったけど、今回は大勢の人間がいる。
しかも知らない人間ばかりだ。
そんな中で女装をしている。なんという辱めだろうか。
もし、誰かに女装しているのがバレてしまったら? 僕は二度と外を歩く事は出来ないだろう。
外を歩くたびに、誰かに指をさされるんだろう。変態がいると。
それだけは勘弁して欲しい。
勘弁して欲しいのに――
「なに、これ……?」
僕達を中心に物凄い人が集まってきてるんだけど。
「あはっ♪ 優希があまりに可愛いから、誘拐をしようと色んな人が集まってきたわね♪」
「誘拐って……」
どうしてだろうね。ここの人間達なら本気でやりそうな気がするのは。
『はぁ……はぁ……誰だあの可愛い娘は?』
『お、お持ち帰りしたいでござる』
『浴衣の中は何も穿いて無いのかな?』
「…………」
誰か嘘だと言って欲しい。
何でこの町の人間も学校のバカ共と同じで変態的思考を持ってるんだよ。
何? この世界は変態しか存在してないの? 常識的な人はいないの?
「見知らぬ複数の男達に蹂躙される優希……いやん♪」
「いやいや、何くだらない妄想してるんですか」
マジで洒落にならない妄想は止めて欲しい。
ただの妄想で済めばいいけど、あの人達の瞳を見てたら冗談では済まされないような気がするんだよね。
もし、そんな事になったら完全に自殺ものだよ。
さすがにこの年齢で自殺はしたくないので、蹂躙されるのは勘弁して欲しい。
まぁ、それ以前に女装させられるのも勘弁して欲しいんだけどね。
「貞操の危機を感じながらお祭りを楽しむのも一興じゃないかしら?」
「ないから」
そんなのを推奨しないで欲しい。
「そういうものかしら? まぁ、とにかく今はお祭りを楽しみましょ♪」
百瀬さんから言い始めた事なんだけどね。
でも、確かに今はお祭りを楽しんだ方がいいかもしれない。せっかくここまで来たのに、沈んだ気持ちで
いても全然楽しくなんかないもんね。だから多少も不安はあるけど、祭を楽しもう。
――と、まぁポジティブシンキングで言ってみたのはいいものの、
『おっ! 嬢ちゃん達なかなか可愛いじゃねぇか。サービスするぞ』
『あの……よかったら、俺達と一緒に行きませんか?』
『しゃ、写真を撮ってもいいですか?』
「…………」
あまり楽しくない。
行くところ行くところで、人に絡まれる。
食べ物とかをサービスしてくれるのは嬉しいけど女の子扱いされてるから、かなり複雑だ。
居心地が悪いどころの騒ぎではない。
「どうしたの優希。楽しくないって表情をしてるけど」
「周りの視線が……」
絡まれるのも面倒だけど、一番の不愉快は周りの人間達の視線だ。
学校でのことがあるから、ある程度は慣れてると思っていたけど、やはり気持ち悪い。
大げさじゃなく、貞操の危機を感じるよ。
まぁ、それでも唯一の救いは他の面倒な人間に会っていないという事だよね。
「あはっ♪ 優希、今自分でフラグを立てたわね♪」
「え……?」
それはどういう――
「こんな……所に……いた……んだ」
「な、なんという神々しい姿なんだ相棒!」
「佐藤優希! また貴様は俺の邪魔をしようと言うのか!?」
うわぁ……本当に面倒な人達が集まって来たよ。
恐るべきはフラグの力だという事か。
「ふむ……。浴衣とポニーテールの組み合わせか。なかなかいい選択じゃないか。浴衣から覗くうなじの
破壊力はまさに、ひと夏の清涼剤といった所か……」
気持ち悪い変態まで出てきたよ。
あ~マジで最悪だよ。さっきも酷かったけど今の状況よりはマシだった。
それなのに、それなのに――
「「「お祭りはこれからだよ。優希!」」」
あーもうっ! 夏祭りなんて大っ嫌いだよ!
てか、変態共が嫌いだよ。
少しは大人しくしてくれないかな。
…………無理か。