Neetel Inside ニートノベル
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ベンチに座ると、いくらか心が落ち着いてきた。時間の経過とともに遊園地内の人ごみも数を増していく。
体を前に沈め、両膝に両手を置いた体勢で座っている。ふと目を瞑り、ほんの一時間ほど前の出来事をまとめようと考えをめぐらせた。
ナメック星での激戦の後に住むようになった地球と似ているようで遅れているこの星に、何故かベジータは何ともいえないような居心地の良さを感じていた。
ふと、下腹がほんの少し軽くなるよう感じ、きゅぅー、と腹の虫が間の抜けた声で鳴き出した。時計の針は十一時を指していた。普段のベジータは大抵トレーニングのメニューを終え、早い昼食を摂っている時間であった。
ベンチから立ち上がり、園内に幾らかあるほどの屋台を見つけると、そこへまっすぐと歩いていった。ポケットには小銭がある。それで何とかホットドックくらいは買えるだろう。
屋台の前まで来ると、店員らしき女が「いらっしゃいませー」と声をかけてきた。メニューはやきそばやかき氷など、レパートリーが豊富だ。しかし、特にこだわるものも無かったので、一応始めに頭に浮かんできたホットドックを買おうとした。
しかし店員は、ベジータがポケットから出した小銭を手に取り、しばらく眺めたり裏返したりした後、
「すみません。このお金はちょっと…。あの、お客様。日本円はお持ちでいらっしゃいますか?」
と、ベジータに恐る恐る聞いてきた。訳がわからない。エンだと?この女は何を言ってやがるんだ。
「おい、貴様。そのカネでは食い物は買えないのか。」
「いえ、このお金は見たことが無くて…すみません。ちょっと待ってください。」
店員はポケットから携帯を取り出すと、誰かを呼び出した。
「店長、店長。すみません。ちょっと緊急で…。来てもらいますか?…はい、すみません。」
店員が何かの機械に話しかけている。見たところ古いタイプの通信機のようだ。
だが、そんなことはどうでもいい。俺は腹が減っているのだ。
「おい、貴様!まだなのか!」
空腹時の妙な怒りのせいか、店員に声を荒げてしまった。
「す、すいません…少々お待ち下さい」
次第に店員はオドオドとしだした。ベジータを見るその目には怯えが浮かんでいた。
(…チッ)
ベジータも冷静になり、怒りを落ち着ける。腕を組んだ姿勢のまま目を瞑り、一分、二分と待った。
さっき店員の言っていた店長とやらはまだ来ないのだろうか。やっぱりカキ氷の屋台に行こうか。そう思い始めたとき、
『おやおやベジータさん、お久しぶりですね』
聞き覚えのある声が俺を呼んだ。とっさに振り返った。そこには…
「あ、て、店長!!」
店員が店長と呼んだそれを、ベジータは凝視した。
そこにはあのフリーザが居た。未来のトランクスが倒し、地獄へ送ったはずの、あのフリーザが。それも、体に【ハッピーイーツ】とかわいらしいロゴ文字が描かれたピンク色のエプロンを着て。
ふざけたような格好のフリーザを目の前に、ベジータはさらに混乱してしまった。
本当にこの世界はどうなってやがる?

       

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