Neetel Inside ニートノベル
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ベジータは遊園地に戻っていた。事の始まりの場所がここなら、何かしらの手がかりは残されているかもしれない、と考えたからである。
この世界の時刻はベジータの世界の時刻と一致しているようだ。柱時計の針は九時三十分を指している。
「しかし、どうするんだ・・・俺は・・・」
ベジータは当てもなく遊園地内をうろついている。初めに目覚めたベンチの場所に行ってみたが、ほぼ手がかりは無しだった。
(このまま日が暮れるまで俺は一人で・・・)
辺りを見回すと、楽しそうな様子の親子連れやカップルがやけに目に付く。
(ブルマ、トランクス・・・)
どうしようもない孤独感に襲われた。ベジータは叫び出したい衝動をこらえ、思わず走り出した。
大勢の人ごみも構わず走る。人の間をまるで魚のように滑らかに通り抜ける。
(ブルマ、ブルマ・・・もしこれがお前の仕業だとしても、俺は怒らないから・・・出てきてくれ、ブルマ・・・)
一層強くなった孤独感は、さらにベジータの歩を進める。
目の前に『Mystery coaster』と書いた文字の看板が見えた。ふと、その入り口の前に異様に人だかりが出来ているのを目にした。
立ち止まって、人だかりの中の様子を伺う。なにやら少年が一人、三人ばかりの不良らしき男に囲まれていた。
「おい坊主、オニイチャンたちにぶつかっといてごめんなさいだけで済ますつもりかぃ?」
「あーあー、足折れちまったよー。慰謝料として有り金全部貰いたいなぁー。えぇ?」
「ご、ごめんなさい・・・」
「ごめんですむならマッポはいらねぇーんだよねぇー。きみぃー」
一人の不良が少年の両肩に手を置き、しゃがみながら脅しをかけ、後の二人もそれに同調している。
自分たちの周囲の状況に気をかけていないようだ。四人を取り巻いている人々も、不良たちに注意をする者が現れないらしい。
ふと、その少年と目が合ったような気がした。トランクスと同じ年頃か。不思議と顔も身長も髪型も似ているように見えた。
「おい、貴様ら!やめないか!」
気づいたら体より先に声が出ていた。人ごみを掻き分けて出てきたベジータに、不良らを含めた周囲の人間全員が注目した。
いきなりの乱入者に不良たちは戸惑ったように見えたが、すぐに一人が薄ら笑いを浮かべてベジータの元に歩み寄る。
「ぁん?やんのニイチャン?え?オイ。まさか俺に喧嘩売ってんの?」
金髪の不良がベジータに立ちはだかった。ポケットから取り出した手には、小さな彫刻刀が握られていた。
耳ピアスの不良とガングロの不良はベジータを無視して少年を脅しにかかっている。ベジータは一呼吸置いて、
「聞こえなかったのか貴様ら!やめろと言っているだろうが!」
と、声を上げた。
その声に、耳ピアスとガングロもベジータのほうを向いた。少年に置いていた両手を離すとベジータを三人で囲んだ。
「なあマサル、マジコイツ殺っちゃっていいよね?なあ?」
「うっぜーオヤジだな。正義のヒーロー気取りですかー」
「何?ヤル気なら言っとくけど俺ら強いよ?この前もなんかウゼーセンパイとか十人くれーは病院送りに・・」
ベジータは三人を無視して、いまだ立ち竦んでいる少年に向けて言い放った。
「さっさと行けボウズ!邪魔だ!」
少年はハッとして立ち上がり、人ごみを掻き分けるように不良たちの元を走り去った。
「あーぁ。逃げちまったよ。ったく、引っ込んでろよ、ヒーロー気取りのおっさん!!」
金髪が言い終わらないうちにベジータに彫刻刀を振りかざす。
ベジータは金髪の額に強烈なデコピンを叩き込んだ。もんどりうった金髪が左右の鼻の穴から鼻血を噴き出して後ろに倒れこむ。
すかさず左にいたガングロに足払いをかけ、地面に倒れたところでガングロの両足を掴んだ。
背後にいた耳ピアスが殴りかかってきた。ベジータはバッティングの要領で掴んでいたガングロを耳ピアスの腹部に投げつける。
ガングロと耳ピアスは周囲の野次馬に向かって吹っ飛んでいった。そのうちの数人にガングロたちが命中してしまった。
鼻血を垂れ流してピクピクと痙攣している金髪を、ベジータは掴んでガングロたちのもとにに投げた。数人の不運な野次馬の上に、三人の不良の屍の山が出来上がった。
周囲の野次馬たちは、たった五秒の間で不良三人を倒したベジータを、称賛と驚きの目で見つめている。
その視線を無視し、ベジータは立ち去ろうとした。ふと、背後から声が聞こえてきた。
振り向くと、さっきの少年と母親らしき女性がいた。
「おじさん、さっきはありがとうございました。」
少年がベジータにぺこりと頭を下げた。
「うちのヨシトを助けていただいて、有難うございます。
その母親も、ベジータに丁寧にお辞儀をした。
「フン、礼には及ばん」
なんとなく照れくさかったが、ベジータは表情に表さずにそのまま立ち去ろうとした。
「あ、ちょっと待ってください。コレ、」
母親がバッグから一枚のチケットを取り出し、ベジータに差し出した。受け取ったそのチケットには、目の前の建物と同じ『Mystery coaster』の文字が見られた。
「つまらない物ですが、受け取ってください。本当にどうもお世話になりました。」
最後に親子そろってお辞儀をし、そのままどこかへ立ち去っていった。
先ほどの野次馬も不良もどこへともなく居なくなり、まばらな人混みの中一人残されたベジータは手にしたチケットをもう一度見た。
「ここのアトラクションのチケットか。なるほど、気晴らしに入ってみるのも悪くないかもしれん。」
ベジータは目の前の建物に入ろうとした。奥から係員らしき人物が出てきて、こう言った。
「すいません。ミステリーコースターは十時からです」

       

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